効果的利他主義(EA)と効果的加速主義(e/acc)

(最近、流行の効果的利他主義とと効果的加速主義を説明します)

 

1)背景

 

Ian Bremmer(イアン・ブレマー)氏は、1月8日に発表した2024年の世界の「10大リスク」に、「AIのガバナンス欠如」をあげています。

 

国連はハイレベル諮問機関(ブレマー氏はそのメンバー)を設置しました。

 

しかし、人工知能のブレークスルーは、ガバナンスの努力よりもはるかに速く進んでい

ます。

 

ブレマー氏は、次のように問題点をまとめています。

AI ガバナンスの核となる課題が浮かび上がってきます。AI への対応とは、テクノロジーを規制すること(もっともらしい封じ込めの域をはるかに超えている)ではなく、その拡大を推進するビジネスモデルを理解し、潜在的に危険な方向へと AI を推進するインセンティブ(資本主義、地政学、人間の創意工夫など)を抑制することです。この点に関しては、近い将来に実現するガバナンスの仕組みはないでしょう。その結果、AI は、ほとんど統治されていないソーシャルメディアのような無法地帯となり、悪用される可能性はより大きくなります。

 

日本政府のように「クノロジーを規制すること」を議論している先進国はありません。

 

ブレマー氏は、AIの封じ込めは成功しないだろうという意見です。



2)サム・アルトマン氏の哲学

 

2024年2月2日の日本語版のNewsweekに、 エリザベス・ワイル氏のサム・アルトマン氏へのインタビューがのっています。

 

彼はまた「効果的な利他主義(EA)」という、テクノロジー業界のエリートが好む実利主義的哲学の信奉者だった。EAにおいては「EAの信奉者こそが最もうまいカネの使い方を知っている」という考え方に基づき、ほぼあらゆる手段を用いて多額のカネを儲けることが正当化された。そのイデオロギーは、現在よりも未来を優先し、いつか人類と機械が融合し、AIが人類を超えるシンギュラリティー(技術的特異点)に達すると夢想するものだった。

 

もとの英文は以下です。

 

He also embraced the techy-catnip utilitarian philosophy of effective altruism. EA justified making piles of money by almost any means necessary on the theory that its adherents knew best how to spend it. The ideology prioritized the future over the present and imagined a Rapture-esque singularity when humans and machines would merge.

<< 引用文献

【長文インタビュー】オープンAIのサム・アルトマンはニーチェオッペンハイマーに匹敵する超人か? 生成AI最前線に君臨する男が赤裸々に語る、その生き様 2024/02/02 Newsweek エリザベス・ワイル(ニューヨーク・マガジン誌特集担当ライター)

https://www.newsweekjapan.jp/stories/technology/2024/02/post-103597_6.php

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<< 引用文献

Sam Altman Is the Oppenheimer of Our Age OpenAI’s CEO thinks he knows our future. What do we know about him? 2023/09/25 intelligencer  Elizabeth Weil, a features writer for New York Magazine

https://nymag.com/intelligencer/article/sam-altman-artificial-intelligence-openai-profile.html

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2024年2月1日の日本語版のNewsweekに、サム・ポトリッキオ氏のアルトマン氏に関するコラムがあります。

 

この論文とアンソロピックの設立は、AI開発における「効果的利他主義(EA)」を最も簡潔に表しているかもしれない。

 

EAは、AIは人類に利益をもたらす存在であるべきだとする。

 

倫理的な安全制御にも細心の注意を払う。

 

彼らも技術革新と進歩を目指すが、社会的な安全性と技術の進歩のどちらを選ぶかとなれば、考えるまでもなく常に前者を優先させる。

 

一方で、より利益志向の強いアルトマンの考え方は、迅速な技術革新を重視してAI製品の商業化を推し進める「効果的加速主義」の最たる例だ。

 

彼らは安全制御が必要であることは理解しつつ、商業的な目的と人類の安全との間で綱渡りのようにバランスを取ろうとする。

 

今は明らかに効果的加速主義が優勢だ。

<< 引用文献

AIの未来を担う男、アルトマンの「正体」ー彼に人類の未来を託して本当にいいのか? 2020/02/01 Newsweek サム・ポトリッキオ

https://www.newsweekjapan.jp/stories/technology/2024/02/post-103586_3.php

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エリザベス・ワイル氏は、アルトマン氏を「効果的利他主義(EA)」であるといっていますが、サム・ポトリッキオ氏は、アルトマン氏は「効果的利他主義(EA)」ではなく、「効果的加速主義」であるといってます。

 

この2つの記事には、「効果的利他主義(EA)」と「効果的加速主義」の違いを説明するまったく同じ図が、参考に添付されています。

 

エリザベス・ワイル氏のインタビュー記事は、2023年9月で、少し古いです。

 

この時期の違いを考えます。

 

3)効果的加速主義の登場

 

2023年11月30日のTHE HEADLINEの説明を要約します。

 

効果的利他主義(effective altruism)は、データや科学的な根拠に基づき、貧困者に対してインパクトを最大化させた寄付などの利他行為を志向する考えを指します。

 

2023年7月以降、シリコンバレーで、効果的加速主義(effective accelerationism)というアイデアがトレンドになっています。

 

効果的加速主義(effective accelerationism、e/acc、イー・アックと発音)は、「効果的」と「加速主義」から構成されます。

 

加速主義とは、イギリスの哲学者ニック・ランドらによって唱えられ、資本主義をテクノロジーによってさらに加速させることで社会変革を志向する立場を指します。

 

「効果的利他主義」に由来する「効果的」は、資本主義を支持する意味です。

 

効果的加速主義は、効果的利他主義とは、富の分配方法について異なる考えを持っている。

 

効果的加速主義によれば、人々を貧困から救い出す際には自由市場が最も効果的だと考えます。

 

ここでは、米・イエール大学のウィリアム・ノードハウス教授は、テクノロジーの創造者は、それによって生み出された経済価値の約 2.2% しか獲得できず、残りの 97.8% は社会に流出するといいます。だから、「市場システムにおける技術革新は、本質的に慈善的」で、テクノロジーで加速した自由市場こそ、最も効果的に社会問題を解決できると主張します。

 

貧困者を救う方法について、効果的利他主義は寄付などを推進するのに対し、効果的加速主義はテクノロジーの革新と自由市場を通じた分配を唱えています。




効果的加速主義が用いるアイデアの伝達方法は、意図的なミーム作成です。オンライン上で、故意に二極化した状況を描いて注目を集め、その後、運動のアイデアが大衆に浸透するのを待ちます。

 

効果的利他主義と効果的加速主義は、どちらも社会をよりよくするアイデアとしてシリコンバレーで話題になってきました。

 

英・オックスフォード大学の哲学者ウィリアム・マッカスキルやトビー・オード、ニック・ベクステッドらは、2010年代から効果的利他主義を推進して、貧困者たちへの寄付を促してきました。

 

現在、効果的利他主義の主唱者の3人や、効果的利他主義を信奉するシリコンバレーの大物たちの関心事は、貧困者たちへの寄付から、遠い先の未来に起きうる大惨事(核戦争・隕石衝突・気候変動・AI 暴走などによる人類滅亡)を回避しようとする長期主義(longtermism)に変わっています。

<< 引用文献

効果的加速主義とは何か?シリコンバレーで話題の新トレンド 2023/11/30 THE HEADLINE

https://www.theheadline.jp/articles/972

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効果的利他主義の関心が、貧困救済から、長期主義(longtermism)に切り替わっている点は、エリザベス・ワイル氏のインタビューの「そのイデオロギーは、現在よりも未来を優先し、いつか人類と機械が融合し、AIが人類を超えるシンギュラリティー(技術的特異点)に達すると夢想する」という部分に対応しています。

 

3)まとめ

 

効果的利他主義(EA)と効果的加速主義(e/acc)は、シリコンバレーの成長と分配の理論です。

 

変化の速度は、1年以内で、とても速いです。

 

日本の成長と分配の理論は、国際的には、まったく時代遅れで、問題外になっています。

 

イデアの伝達方法のために、意図的なミーム作成が、合法であり、積極的に使われています。