社会的リバースエンジニアリング

帰納法の致命的な欠陥を説明します)

 

1)帰納法

 

帰納法は、データを集めて、そのデータの中から、法則(仮説)を探す手法です。

 

帰納法を自分の体験に当てはめれば、それは経験主義になります。

 

「自分の経験では」と口を開く人は、経験主義です。

 

経験主義は、科学とは相容れません。経験主義と帰納法には、多くの問題点があります。

 

今回は、そのうち、致命的な問題点を紹介します。

 

2)フランス革命前夜

 

読者が、フランス革命前夜のパリに住んでいる人文科学研究者であったと仮定します。

 

この研究者の特技は、帰納法をつかって、一般的な法則をみつけることです。

 

時代は、フランス革命前夜ですので、研究の目的は、王政にかわる新しい政治制度をみつける事です。

 

研究者は、過去のデータを集めて、そのデータの中から、法則(仮説)を探します。

 

残念ながら、この研究は失敗しました。

 

その理由は、簡単です。

 

集めた過去のデータは、王政の統治のデータだったからです。

 

王政の統治のデータから、帰納法によって、王政にかわる新しい政治制度を見つけることはできません。

 

フランス革命前夜の人文科学者は、この難題をどのように解決したのでしょうか。

 

1753年、ディジョンのアカデミーが「人々の間における不平等の起源は何であるか、そしてそれは自然法によって容認されるか」という主題のもと懸賞論文を募りました。これは。2回目でした。

 

ルソーは、1755年に懸賞論文の「人間不平等起源論」で、「ルソーは、原初の自然人は与えられた自然環境のもとでその日暮らしをしており、自己愛と同情心以外の感情は何も持たない無垢な精神の持ち主であった」と想像しました。

 

3)問題の整理

 

問題を整理してみます。

 

王政の統治のデータは、王政という制度の元で作成されたデータです。

 

このデータを集めて、帰納法で、データから読み取れる傾向を分析すれば、王政という制度がどのようなものであるかを推定できます。

 

データサイエンスは、世界をデータの流れで見ます。

 

王政という制度の元で作成されたデータをデータサイエンスの視点でみれば、王政という制度も、データ作成装置のひとつです。

 

帰納法で、データから読み取れる傾向を分析すれば、王政という制度がどのようなものであるかを推定することは、王政という制度は、データ作成装置をリバースエンジニアリングで復元していることになります。

 

図式で書けば次になります。

 

王政制度データ作成装置=>王政制度のデータ=>(帰納法)=>王政制度データ作成装置の復元

 

ここでは、帰納法の目的は、リバースエンジニアリングです。

 

ディジョンのアカデミーは、「人々の間における不平等の起源」を問題にした時に、帰納法ではなく、自然法を指定していました。

 

これは、自然状態から、不平等を作成する装置が不平等を生み出すというロジックです。

 

まず、不平等作成装置のメカニズムを解明して、次に、不平等作成装置を改造して、不平等を生み出さなくすれば、貧困などの問題が解消できるというシナリオです。

 

これは、リバースエンジニアリングではなく、デザイン思考になっています。

 

自然状態は、不平等作成装置も、王政制度データ作成装置も、起動していない状態です。

 

自然状態は、SF小説のようなもので、付き合いきれない部分もあります。

 

自然法に対して、経験主義および論理実証主義の理論的伝統に基づく法実証主義があります。

 

とはいえ、人権宣言は、自然状態を仮定しないと導き出されません。

 

ナチス支持者の訴追がナチス・ドイツの法律に法的に準拠した行為を評価するという課題に直面し、1946年にグスタフ・ラドブルッフは、法実証主義を否定しました。

 

筆者は、法学のことはわかりませんが、データに基づく経験主義や帰納法は、そのデータを作成するデータ作成装置の性質を反映するので、物理法則のような客観的なルールにはなり得ません。

 

人権、自由、平等の問題は、データ作成装置の性質を反映する帰納法では、検討できません。デザイン思考が必要です。ロールズは、無知のベールを取り上げています。

 

4)リバースエンジニアリング公式

 

王政制度に帰納法を用いる場合は、次の図式に要約できました。

 

王政制度データ作成装置=>王政制度のデータ=>(帰納法)=>王政制度データ作成装置の復元

 

このリバースエンジアリングの図式は、広く一般に利用可能です。

 

X=王政制度とすれば、次になります。

 

Xデータ作成装置=>Xのデータ=>(帰納法)=>Xデータ作成装置の復元

 

ここで、Xに、貧困問題、少子化問題、教育問題など入れても、図式が成立します。

 

社会的リバースエンジアリングでは問題を発生させることはできますが、問題を解決することはできません。

 

筆者は、これが、帰納法の致命的な欠陥であると考えます。

 

問題解決に必要な推論は以下です。

 

第1に、議論のスタートは、自然状態のように、問題が発生する前のところからスタートする必要があります。

 

第2に、目標は、問題解決できるデータ作成装置の開発で、デザイン思考が必要です。

 

最近、筆者は、帰納法をみると、社会的リバースエンジアリングを疑うようになってしまいました。