アブダクションとデザイン思考(16)無条件帰納法

(2種類の帰納法があります)

 

1)帰納法の間違い

 

基本的に、帰納法は間違った推論(仮説作成法)です。

 

正確にいえば、推論(仮説作成法)自体には、正しい推論と間違った推論の区別

はありません。

 

推論の正しさは、仮説の検証をして、初めて判断できます。

 

仮説の検証は、実験計画法に基づく手順(RCT)で行ないます。

 

実験計画法が使えない場合には、次善の代替手法を使います。

 

これが、データサイエンスの基本です。

 

この科学のルールは、今世紀に入って確立しました。

 

この科学のルールは、データ(情報)を対象にしているので、20世紀の自然科学のように、対象は、質量のあるモノに限定されません。

20世紀には、人文科学と社会科学でしか扱えなかった多くの対象が、今世紀に入って、従来の人文科学と社会科学の手法で扱うよりも、データサイエンスの手法で扱う方が、効率的で、科学的に正しい結論に達するようになりました。

 

これは、不都合な真実なので、認めたくない人が多くいます。

 

ジム・グレイ氏は、「第4のパラダイム」を提唱しましたが、「第4のパラダイム」とは、20世紀には、人文科学と社会科学でしか扱えなかった多くの対象が、データサイエンスの対象として、解決可能な問題になったことを意味します。

 

2)帰納法は、どこで間違えるか

 

伝統的に、人文科学と社会科学は、帰納法が好きです。

 

帰納法は、仮説を導き出した対象のデータ(Casual Universe)に対しては、成立します。

 

これは、間違いありません。

 

しかし、帰納法をつかって仮説を作成する目的は、仮説を導き出した対象のデータ(Casual Universe)以外に、仮説を適用したいからです。

 

帰納法は、仮説の検証手法ではありませんで、この点については、仮説が正しい保証は全くありません。

 

これは、従来の帰納法を使った人文科学と社会科学の研究は、基本的に間違っていたことを意味します。

 

エビデンスに基づく、データサイエンスの科学の視点からいえば、「その通り」です。

 

分かり易い例で言えば、歴史は繰り返さないということです。

 

データサイエンスは、データから、法則(繰り返す部分)を抽出する手法です。

 

データサイエンスは、統計的手法を、注意深く、使えば、データから、法則(繰り返す部分)が抽出できると考えます。

 

この法則のなかには、適用可能は時期が限定されている(賞味期限のある)ものもあります。

 

データは、ビッグデータになり、抽出作業は、コンピュータを使わないとできません。

 

人間の脳のメモリーはあまり大きくないので、コンピュータの処理は、原理的に、人間を越えます。

 

マスコミは、AIが、人間を越えたことを記事にしますが、これは、人間が犬に噛み付いたようなまれな現象ではなく、犬が人間に噛みつくようなありふれた現象なので、記事になる理由はありません。

 

同様に考えれば、データサイエンスの研究が、20世紀の人文科学と社会科学を超える現象が、毎日のように起こっています。

 

データサイエンスの一部になった人文科学と社会科学もあります。

 

これらの研究成果は、データサイエンスの形式で発表され、データサイエンスの研究者の社会では共有されています。

 

この成果は、20世紀の人文科学と社会科学の形式には、変換不可能なので、データサイエンティストは、20世紀の人文科学と社会科学には関心がありません。

 

生気論を除けば、20世紀の人文科学と社会科学を高等教育で扱う価値はないと思われます。

 

帰納法は、歴史が繰り返さない場合には、無効です。

 

3)歴史は繰り返すか

 

それでは、歴史が繰り返す場合はあるのでしょうか。

 

ある仮説が、歴史上のどの時期をとっても反例が見つからない場合、その仮説について、歴史は繰り返すと言えます。

 

帰納法で作成した仮説が、歴史上のどの時期をとっても反例が見つからない場合、帰納法は有効な推論になります。

 

このような帰納法を無条件帰納法と呼ぶことにします。



無条件帰納法の仮説は、歴史はくり返すことを主張しています。

 

1980 年 5 月 21 日の保守党女性会議での演説で、マーガレット・サッチャー氏は、市場原理に代る経済成長法はないというTINA(There is no alternative)の概念を訴えました。

 

TINAは、無条件帰納法のひとつです。