アブダクションとデザイン思考(27)残された課題

(今までのまとめをします)

 

1)2つの思考法

 

問題が生じたときに、使う思考法には次の2種類があります。

 

(M1:方法1)帰納法と前例主義の組合せ

 

現場にいってデータを集めて、問題点を集約します。これは、帰納法です。

 

その例は、少子化問題で、出生率に影響を与える要因を調べます。

 

ある専門家は、家計の収入(原因)が、出世率(結果)に影響を与えるという仮説を作ります。

 

欧米の先進国の少子化対策を調べ、成功例を真似します。これが、前例主義です。

 

ここで、少子化対策が上手くいっている国の政策を部分的にコピーします。

 

部分的にというのは、少子化対策の政策は、その国の社会経済のコンテキスト(環境、エコシステム)の中で、初めて意味をもつものであり、単独に切り離すことができないためです。

 

この問題点は、外来生物の導入を考えれば、分かります。

 

現在は、禁止されていますが、過去に、外来生物を日本に導入した場合、導入された外来生物の多くは、絶滅します。生き残った外来生物は、異常に繁殖して、従来の生態系の脅威になります。

 

筆者は、外来生物の禁止、特に排除はナンセンスだと考えていますので、外来生物の禁止の重要性をあまり高く評価しません。

 

その立場でも、外来生物を導入する場合には、従来の生態系のリアクションを見ながら、注意する必要があると思います。

 

一方では、上手くいっている国の政策をコピーする前例主義の政策に対する規制や注意が払われないのは、不思議に感じます。

 

これは、前例主義の政策の99%は絶滅する(効果がない)ためと思われます。

 

一部の外来生物のように爆発的に増えた例は、#metooくらいしか、思いつきません。

 

(M2:方法2)アブダクションとデザイン思考

 

最初に、アブダクションで、結果から原因を推測します。

 

出生率が低い原因には、低所得、高い住宅価格、文化的な価値観の変化、育児環境、出産後の再就職上限など複数の要因があげられます。

 

所得が高ければ、高い価格の住宅を購入すること、あるいは、賃貸することができます。

 

これらの要因は、独立ではなく、依存性があります。

 

所得が高ければ、依存関係にある他の要因の多くは、問題点(低い出世率の原因)から、排除できます。

 

ここで、次のデザインステップにすすむか、アブダクションで、もう少し、因果モデルの解析を進めるべきであるかは、状況によります。

 

文化的な価値観の変化など、所得要因の影響を受けない要因の影響が大きいと考えられる場合には、因果モデルの解析を進めるべきです。

 

出生率の場合には、所得要因の影響が大きいので、更に、因果モデルの解析を進める必要はありません。

 

次に、デザイン思考ステップに入ります。

 

ここでは、所得を上げる方法をデザインします。

 

労働者の所得は、労働生産性(付加価値)と配分率とできまります。

 

グループで集まって、クッキーを焼く場合を考えれば、一つでも多くのクッキーを手に入れる方法は、焼き上げるクッキーの数を増やす(生産性を上げる)か、自分の取り分を増やす(配分率を上げる)しかないことに対応します。小学生でも理解できる原理です。

 

クッキーを販売して、収入を得るには、クッキーが美味しい必要があります。価格が安くとも、砂糖やバターが少ない(付加価値がすくない)クッキーは、高い価格では売れません。

 

生産するクッキーの販売額は、生産性に関係するクッキーの数と付加価値に関係する販売価格の積になります。

 

原理はこれだけですが、経済学は、お金と利益を中心に問題を整理します。

 

生産するクッキーの販売額ではなく、販売によって得られる利益に注目します。

 

焼きあげたクッキーの個数ではなく、クッキーを焼くことによって生じる価値に注目して整理します。

 

簡単に言えば、クッキーの裏側に利益のお金がついていて、そのお金を数え上げる方法です。

 

お金に注目すれば、クッキー工場の生産ラインも、クッキーを運搬するトラックも、同じレベルで集計が可能になります。

 

この視点で見た生産性を労働生産性と呼びます。(注1)

 

配分率は労働市場があれば、自動的に最適化され、介入する余地はありません。

 

労働生産性の改善は、クッキーの事例のように、個別に設計するしか方法がありません。

 

万能薬はありません。

 

自動車工場の生産ラインのように、要素ごとの生産性を計測して、もっとも生産性の悪いボトルネックを探して改善する方法が有効です。

 

注1:

 

労働生産性という単語は、物理学の観点では、次元が曖昧で耐えがたく曖昧な用語です。

 

生産性という用語は、時間当たり、一人当たり、生産に必要な費用(人件費、設備投資。電気代等)当たりなど、分母によって意味が異なります。パートタイム社員がいる場合には、一人あたりは、1時間X1人または8時間X1人に換算する必要があります。

 

2)残された課題

 

さて、問題を解決するためには、方法1ではだめで、方法2が必要です。

 

方法1の「帰納法と前例主義の組合せ」の問題解決の成功率は低いです。

 

ブログでは、焼き芋の焼き方を紹介しました。

 

紹介した方法で、焼き芋を焼いても成功率は50%だと思います。

 

これは、ノウハウの情報を掲載していないからではありません。

 

筆者自身の焼き芋の成功率は70%を越えません。

 

その理由は、正否の半分は、よい芋の選択にあり、これがとても難しいからです。



良い芋の選択は、先例主義の前提条件に相当します。

 

一般に、前提条件が揃うことはありません。

 

今回のデザイン思考を巡る旅は、ここで終わりです。

 

方法2のデザイン思考でなければ、問題解決はできません。

 

しかし、問題解決ができない方法1の前例主義、経験主義が蔓延しています。

 

どうして、このような理不尽なことが蔓延しているかは、今後、考えたいと思います。