(分布を伴う確率変数でインスタンスで考えれば、バイナリーバイアスを回避できます)
社会主義で貧富の差をなくすと、努力(リスキリング)しても、所得が増えないため、経済成長が停滞します。そこで、行き詰ると、中国やベトナムのように市場経済を導入します。市場経済を導入すると、今度が、貧富の差が拡大します。
結局どちらがよいのでしょうか。
このどちらがという設問には、2者択一の「バイナリーバイアス」があります。
これは、社会主義や市場経済といってオブジェクトのレベルで問題を考えることで生ずるバイアスです。
問題と解決方法を論ずるためには、インスタンスで論ずる必要があります。
インスタンス、あるいは、エビデンス・レベルで論ずることは、科学の基本です。
2)計算例
計算例を示します。
これは、例なので、数字や比率は変えることができます。
ここで問題にしたいのは、インスタンスをつかった問題の検討手順です。
日本国民のようなグループを考えます。
プログラミング言語を使えば、複雑な分布でも簡単に計算できますが、以下では手計算で進めるので、分布をパレート型に単純化します。
全体の人数の上位クラスAの割合が20%、中位クラスBの割合が60%、下位クラスCの割合が20%とします。
パレート型の分布では、上位の20%がGDPの80%を稼ぎ、中位と下位のB+CがGDPの20%を稼ぎ出すような分布がよくあらわれます。
A:20%
B:60%
C:20%
2-1)社会主義(平等)シナリオ
ここでは、所得配分に貧富の差が小さい平等型の配分が適用されていると考えます。
簡単に言えば、社会主義経済か、それに、近い経済システムです。
ABCの所得の比率が以下であったとします。
A:B:C=200:100:50
これは、中位のBの所得に比べて、所得の多い人が2倍、所得の少ない人が0.5倍になる配分です。
この表記では、合計は110ポイントになります。
ここで、比較が容易になるように、合計が100ポイントになるように、比率を修正します。
1単位(単価)の補正係数yを使って、合計が100ポイントになる式を立てます。
200y*0.2+100y*.6+50y*0.2=100
これから、
y=100/(40+60+10)=100/110=0.91
これから、ABCの所得のポイントが求まりました。
A:182
B:91
C:46
2-2)資本主義(格差)シナリオ
これは、格差の大きな中位のBの所得に比べて、所得の多い人が10倍、所得の少ない人が0.1倍になる配分です。
上記と同様に合計が100ポイントになる値を求めます。
A:B:C=100:100:10
単価y
1000y*0.2+100y*.6+10y*0.2=100
y=100/(200+60+2)=100/262=0.38
これから、ABCの所得が求まります。
A:380
B:38
C:3.8
さて、下位クラスCの割合には、中位クラスBの所得が0.1倍なので、このままでは生活ができません。そこで、下位クラスCの所得が、中位クラスBの半分になるまで、所得移転をすることにします。そして、その財源は、上位クラスAに課税することで求めることにします。
下位クラスCに所得移転するために必要な財源は以下です。
(38/2-3.8)*.2=3.04
上位クラスAの所得を課税分だけ補正します。
(380*.2-3.04)/.2=364.8
最終的な所得のポイントは、以下です。
A:364.8
B:38
C:19
2-3)比較
以上を比較します。
「社会主義(平等)シナリオの所得」ー「資本主義(格差)シナリオ」の所得のポイントの差は以下になります。
A:182-364.8=-182.8
B:91-38=53
C:46-19=27
中位クラスBと下位クラスCでは、社会主義(平等)シナリオがお得になります。
2-4)更新
社会主義(平等)シナリオでは経済成長は難しいですが、資本主義(格差)シナリオでは経済成功は容易です。
これは、リスキリングすると、労働生産性ががあり、所得がふえること、上位クラスAは、投資できる所得があるので、新産業が起こりやすいためです。
ここでは、資本主義(格差)シナリオでは10年で経済規模が2倍になる一方、社会主義(平等)シナリオでは経済成長がない場合を考えます。10年で2倍は年率7%ですから、過去の中国や日本の例をみれば、実現可能です。
20年経過した場合には、経済規模は4倍になります。
つまり、資本主義(格差)シナリオで20年経過した場合の所得は、以下になります。
A:1459
B:152
C:75
2-5)比較
20年後についても、「社会主義(平等)シナリオの所得」ー「資本主義(格差)シナリオ」の所得差を計算します。
A:182-1459=-1277
B:91-152=-61
C:46-75=-29
ここでは、下位クラスCの所得でも、「資本主義(格差)シナリオ」の方が高くなります。
3)マルクスの計算間違い
マルクス(社会主義者)は1年目の所得だけで、下位クラスCにとっては、「社会主義(平等)シナリオの所得」の方がお得なので、労働者は、社会主義を支持すべきであるといいます。
しかし、将来の世代は、20年後です。
上記の試算から、経済成長、あるいは、労働生産性の向上は、利潤の配分以上に重要な要素であることがわかります。
筆者は、マルクスは計算間違いをしていたと思います。
マルクスに、20年後のモデルシミレーションの結果を見せて、「下位クラスCの所得が、39%も低い社会主義(平等)シナリオを選びますか」と聞いたら、なんと答えるでしょうか。
日本は、貧富の格差が小さく、アメリカや中国は、貧富の差が大きいので、日本の方が良いと言っている人は、同じ計算間違いをしています。
ジニ係数は、動的な経済の時間変化を無視しています。
ジニ係数を優先すれば、下位クラスCの所得が低い「社会主義(平等)シナリオの所得」が良い政策になります。
日本では、2023年現在、下位クラスCの貧困問題が出ています。
日本は、失われた30年で、30年間経済成長をしていません。日本は、「社会主義(平等)シナリオ」の優等生です。
4)まとめ
以上の議論で、筆者が「資本主義(格差)シナリオ」が、「社会主義(平等)シナリオの所得」より良いと言っていると判断されるのであれば、その人は、バイナリーバイアスにとらわれています。
上記の検討の所得移転は一例にすぎません。労働生産性をあげるには、労働生産性が所得に反映するジョブ型の賃金体系にする必要があります。その場合には、所得移転によって是正すべき格差が生じます。どこまで、所得移転すべきかは、例えば、下位クラスCの所得移転後の実所得を最大化するといった評価関数をとれば、これは、数学の問題になります。
くれぐれも、2者択一という計算間違いをしないことが大切です。