周辺画質が良いレンズは、大型になり高価になります。
問題は、本当に周辺画質の良いレンズが必要かという点になります。
逆に、周辺画質が必須の撮影は、天文写真になります。
天文写真のカメラマンの中には、製品のバラツキを気にして、同じ型番の数本のレンズの中から、非点収差の一番小さなレンズを抽出して使う人もいます。
その人も、製品のバラツキは、通常の撮影では全く問題にならないと言います。
対象をできる限り、忠実に撮影するマクロレンズは、解像度優先です。周辺画質もよい方が望ましいと思われますが、天文写真のように、主題が四隅に来ることはないので、天文写真程は、厳格な性能は求められません。
よく知られている周辺画質の悪いレンズの典型は、50mmの単焦点レンズです。
図1は、2015年 5月21日 発売のFE50mmF1.8STMのMTF曲線で、曲線は、周辺に向かって下がっています。
旧型のEF50mm F1.8 II は、1万円弱、EF50mmF1.8STMは2万円弱、2020年12月24日発売のRF50mm F1.8 STMは、3万円弱で発売されています。
さすがに、最新のRF50mm F1.8 STMでは、非球面レンズが使われています。
図2は、RF50mmF1.8STMのMTF曲線ですが、レンズ構成は、ダブルガウスと変わらず、非球面レンズによるMTF曲線の違いは少しです。
ダブルガウスの場合、特殊な素材を使わなくとも、レンズ中央では、高い性能が得られます。一方、非球面レンズをつかっても、レンズの周辺の画質の向上は、容易ではありません。
NIKONは、2011年6月2日発売のAF-S NIKKOR 50mm f/1.8G(3万円弱、約185g)から、非球面レンズを使っています。
図3は、AF-S NIKKOR 50mm f/1.8GのMFT曲線です。
レンズ構成は、RF50mmF1.8STMと同世代ですが、MFT曲線は、NIKONの方が良いです。
さて、AF-S NIKKOR 50mm f/1.8Gは、EF50mm F1.8 II や、EF50mmF1.8STMより、MTF曲線でみる周囲の画像の性能が良いのですが、名レンズとして、取り上げられるのは、EF50mm F1.8です。
これから、作品における周辺画像の影響は小さいと言えます。
Nikonは、価格が若干高めではあるが、性能のよいAF-S NIKKOR 50mm f/1.8Gが、CanonのEF50mm F1.8程には、評判にならなかったので、戦略をかえました。
Zマウントの50mmF1.8は、2018年12月 7日 発売のNIKKOR Z 50mm f/1.8 S(8万円弱、約415g)は、9群12枚(EDレンズ2枚、非球面レンズ2枚、ナノクリスタルコートあり)です。
レンズ構成は、ダブルガウスではありません。価格も重量もアップしています。
図4は、NIKKOR Z 50mm f/1.8 SのMFT曲線です。
周辺まで水平で、フルサイズセンサー用のレンズとしては、驚くべき性能です。
しかし、8万円出せば、AF-S NIKKOR 50mm f/1.4G(5万円)が買えます。
8万円で、F1.8は高すぎる気もします。
そこで、Zマウントの50mmF1.4を探してみました。
F1.4はなく、更に明るい2020年12月11日発売のNIKKOR Z 50mm f/1.2 S(26万円弱、約1090g)が見つかりました。
これは、価格も、重量も、普通に手が出る範囲ではありません。
スタジオ以外では、使えない気がします。
図5は、NIKKOR Z 50mm f/1.2 SのMFT曲線です。
図4に、比べると、曲線が波打っています。
明るいレンズでは安定した性能は実現が難しいのです。
明るいレンズを求める理由はボケを求める点にあります。
最近は、「アポダイゼーション光学エレメント」をつけたレンズもあります。
ウィキペディアには、次のよう書かれています。
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スムース・トランスファー・フォーカス
スムース・トランスファー・フォーカス(Smooth Transfer Focus、略称:STF)は、中心部から周辺部に向けて透過光量がなだらかに変化する特殊な光学系やフィルタ(アポダイゼーション光学エレメント、アポダイゼーションフィルタ)により、ボケ像を滑らかにした写真レンズの方式である。
概要
写真において、ピントの合っていないアウトフォーカス部の、いわゆる「ボケ」は、点像が絞りの形状を反映した形に広がったりするため、しばしば「2線ボケ」等の綺麗でない像となる。これを、絞りに相当する光学エレメントとして中心部から周辺部に向けて透過光量がなだらかに変化する特殊な光学系やフィルタを使用することで、ボケ像を滑らかにすることができる。
しかし、一種のNDフィルターであるアポダイゼーション光学エレメントにより光量を損失し暗くなる。そのため、露光計算ではT値を、被写界深度計算ではF値を使い分ける必要がある。また、原理上ある程度絞りを開けた状態で使用しないと効果が出ない。
原理自体は古くから知られており、「絞り」や「レンズシャッター」などをゆっくり動かすと同様の効果が得られる。絞りを制御してボケ味を調節している例では、ミノルタα7の「STFモード」や、露光間絞り・アポダイゼーションといった名称を付けているカメラが該当する。レンズシャッターを制御しボケ味を調節している例では、セイコーシャESFシャッターを搭載したレンズシャッターカメラ(ミノルタ ハイマチックE、リコー エルニカF、オリンパス 35ECR)などが該当する。
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要するに、一種のNDフィルターを入れる訳です。
これは、同心円状をしていて、周辺の画質をボケによって劣化させます。
これを見ると、ますます、周辺の画質は問題でない気もします。
写真1は、CanonのFE50mmF1.8STMで撮影しています。
写真1に使ったカメラは、APS-Cなので、周囲の特に画像劣化の大きい所はトリミングされています。
写真2は、darktableで同心円状の描画フィルタ―をつくっています。
スムース・トランスファー・フォーカスの同心円状フィルタ―を描画フィルタ―で代用しています。
写真3では、deffuse or sharpen モジュールのbloomをかけています。
bloomはあまりよい効果ではありませんが、deffuse or sharpen モジュールなどで、よりよい画像処理は可能です。
ミラーレスカメラになって、せっかく、電子補正が基本になったにも関わらず、また、「アポダイゼーション光学エレメント」で、ハードウェア制御に戻るのは、設計思想の間違いに感じます。
それにしても、交換レンズの価格上昇には、驚かされます。