アブダクションとデザイン思考(15)ミサイルとドキュメンタリズム

(ドキュメンタリズムでは、ミサイルが飛んできます)

 

1)「防衛装備移転三原則」のドキュメンタリズム



政府は12月22日、「防衛装備移転三原則」の運用指針を改正し、外国企業から技術を導入し国内で製造する「ライセンス生産」の装備品について、ライセンス元の国に輸出することを全般的に可能としました。

 

<< 引用文献

自衛隊保有パトリオット」輸出へ 年明け以降 米側と本格調整 2023/12/26 NHK

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231226/k10014299391000.html

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 これに先だって11月15日に、自公両党は、防衛装備品の輸出ルール緩和に向けた協議を行ない、東京新聞の取材では、「(ライセンス元の外国企業から技術提供を受けるため)ライセンス元国に輸出することは軍事技術の拡散にはつながらない」と説明しています。

<< 引用文献

ライセンス生産」武器の対アメリカ輸出拡大で大筋合意 自民・公明 「軍事技術の拡散にならない」 2023/11/16 東京新聞

https://www.tokyo-np.co.jp/article/290208

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自衛隊保有パトリオット」を、アメリカに輸出できるように、「防衛装備移転三原則」の運用指針を変更しています。

 

輸出した「パトリオット」は、ウクライナに流れることはないので、日本の影響は、及ばないという主張です。

 

ここには、日本がウクライナ戦争に巻き込まれる2種類のリスクがあります。

 

第1は、日本が輸出した自衛隊保有の「パトリオット」が、米軍を経由して、ウクライナで実戦に使われる可能性です。自衛隊保有の「パトリオット」は輸出時に、自衛隊マークを取り除きますので、ウクライナで使われたパトリオットに、自衛隊保有の「パトリオット」が含まれているか否かを検証する方法はないと思われます。

 

第2は、日本が輸出した自衛隊保有の「パトリオット」が、米軍を経由して、ウクライナで実戦に使われない場合です。ウクライナ戦争で、米軍の軍備のストックは底をつきかけています。つまり、米軍は、パトリオットウクライナに輸出することが困難になっています。この状況で、自衛隊保有パトリオット」を米軍に、輸出すれば、玉突き効果で、米軍は、ウクライナに、パトリオットを輸出できるようになります。

 

ロイターは次のように、伝えています。

 

ロシア外務省のザハロワ報道官は27日、日本が地対空ミサイルシステム「パトリオット」を米国に輸出することを決定したことについて、ウクライナに供与されれば日本は「重大な結果」を負うことになると警告した。

 

日本政府は武器の輸出ルールを定めた「防衛装備移転三原則」を一部改正し地対空ミサイルシステム「パトリオット」を米国に輸出する方針を決めた。改正後も、国際紛争の当事国への武器輸出は認めていないが、米国への輸出は、米国のウクライナへの武器供与余力を高め、間接的にウクライナに利することになり得る。

 

ザハロワ報道官は定例会見で「日本は武器について制御を失い、いまや米政府はやりたいことができる」と指摘。

 

日本が輸出するパトリオットの最終目的地がウクライナとなる可能性が排除できないとし、そのようなシナリオは「明らかにロシアへの敵対行為と解釈され、二国間関係において日本に重大な結果につながる」と述べた。

<< 引用文献

ロシア、日本に「重大な結果」と警告 パトリオット対米輸出巡り 2023/12/27 ロイター

https://jp.reuters.com/world/ukraine/EWKX523HVBLOREDEMND4PVHJ6I-2023-12-27/

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米軍は、自衛隊保有の「パトリオット」を、ウクライナ戦争で使うことはないと言うでしょう。

 

米軍が、保証したから問題がないという言葉で判断するのは、ドキュメンタリズム(文書形式主義)です。

 

リアルワールドに関係のないドキュメンタリズムは、日本でしか通用しません。

 

ロシアの関心は、ウクライナで使われるパトリオットミサイルの数です。

 

日本の自衛隊保有パトリオット」は、リアルワールドでは、ウクライナへのパトリオットミサイルの輸出になります。

 

ロシア軍にとって問題になるのは、パトリオットミサイルの数です。

 

ミサイルに、ウクライナ軍、米軍、自衛隊のどのマークがついているかは、リアルワールドの戦争には関係がありません。

 

ドキュメンタリズムは、国際外交では、通じません。

 

学習院大の青井未帆教授(憲法学)は今回の改定について、平和主義にのっとり国際紛争を助長しないとしている「憲法の精神に反する」と批判しました。当初の武器輸出三原則が国会審議を通じて確立されたことを挙げ、「与党の『密室協議』で国のあり方が変えられてよいのか」と指摘しました。

 << 引用文献

「殺傷能力ある武器」輸出解禁、自衛隊パトリオット」を早速アメリカに 国会で議論ないまま「三原則」改定  2023/12/22 東京新聞

https://www.tokyo-np.co.jp/article/297687

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ロシアは、暗に、日本がウクライナにミサイルを提供すれば、ロシアから、日本にミサイルが飛んでくるリスクを覚悟しろといっています。

 

このレベルの内容の検討が、閣議決定でよいのかという疑問があります。

 

日本には、米軍が常駐していて、日本は、実態としては、アメリカの占領下にありますので、米軍の指示が優先することは理解していますが、筆者は、それでも、工夫の余地を探すべきだと考えます。



立憲民主党泉健太代表は、12月16日国会内で定例の記者会見を行い(1)安全保障3文書(2)防衛費(3)全世代型社会保障構築会議の報告書等について発言しました。

 

泉代表は、今日の夕方に政府が外交・防衛の基本方針「国家安全保障戦略」などの3文書を閣議決定する予定であることに触れ、「戦後のわが国の安全保障の方針が大きく転換されるということです。国民や国会に対して情報共有も提供も説明も論戦もない。チェックや監視が働かないまま、こうした方針が決定されるというのは大変遺憾だ」と懸念を示しました。

<< 引用文献

「厳しく政府の3文書を見ていく」泉代表 2023/12/16 立憲民主党

https://cdp-japan.jp/news/20221216_5100 

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これを見ると、泉氏の主張は、青井未帆教授の主張に似ているように見えます。

 

しかし、問題のルーツは異なります。

 

小野塚 知二氏は、最初に、「三原則」改定したのは、立憲民主党最高顧問の野田佳彦氏であるといいます。(筆者要約)

 

実質的に三原則を改訂したのが民主党の野田内閣である。2011年12月27日に、藤村修官房長官の談話として、①平和貢献・国際協力にともなう案件は、防衛装備品[=武器]の海外移転を可能とする、②目的外使用・第三国移転がないことが担保されるなど厳格な管理を前提とする(目的外使用・第三国移転を行う場合は日本の事前同意を義務付ける、③安全保障面で協力関係にある国で、共同開発・生産がわが国の安全保障に資する場合はそれを推進するとの新方針を発表した。

 

従来の三原則を大幅に逸脱する内容が、年末に、官房長官談話という軽い形式で発表されたことには、理由がある。この一週間前、12月20日閣議で、政府は航空自衛隊の次期戦闘機としてF-35を導入することを決定していた。航空自衛隊としてはもともとはF-22がほしかったのだが、アメリカがどうしても輸出を許可しなかったため、導入機種をF-35に変更したものの、これは国際共同開発・生産の戦闘機であるため、武器輸出三原則を改定しなければ導入できなかった。ここでは、買い物を先に決めてしまってから、それに適合するように慌てて武器輸出三原則に風穴を開けるという姑息な手段が採られた。

<< 引用文献

戦争と平和と経済 : 2015年の「日本」を考える 2016/01 明治大学国際武器移転史研究所 小野塚 知二

https://researchmap.jp/search_Tomo/published_papers/31539809

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野田佳彦氏は、政治資金規正法については、清廉潔白な人に見えます。

 

<< 引用文献

野田元総理「世襲が諸悪の根源」、待望論に「ひと肌もふた肌も脱ぐ」【報道1930】

https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/912392?display=1

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しかし、野田佳彦氏が、「三原則」改定した点には、泉代表が指摘しているように問題があります。

 

野田佳彦氏は、「三原則」改定手順のルールを閣議から国会審議に改訂すべきだったにもかかわらず、航空自衛隊に押し切られて、現状追認をしてしまったと判断できます。

 

これに限りませんが、民主党政権は、次に野党になる時を考えて、ルールを改正して、政策決定の透明化を図る努力を何もしなかったように見えます。

 

政策には、間違いは付き物ですから、政策が間違ったときに、軌道修正をするルールを導入することが大切なのですが、民主党には、そうした視点はありませんでした。

 

2)パーティ券裏金問題のドキュメンタリズム

 

パーティ券裏金問題でも、ドキュメンタリズムが横行しています。

 

パーティ券収入の記載漏れは問題であるという意見はドキュメンタリムです。

 

パーティ券収入の記載漏れは、違法ですが、問題は記載もれではありません。

 

政治資金規正法の目的は、利権にもとづく政治を排除することにあるはずです。

 

政治の本来の目的は、憲法に従って、国民の安全で文化的な生活を担保することです。

 

利権が生じると、税金が不適切に流用され、安全や、文化的な生活をするための可処分所得が確保できなくなります。

 

憲法は、適正な経済成長があることを想定しています。

 

現実には、実質可処分所得は、減り続けています。

 

可処分所得の増加の原因となる労働生産性は、日本生産性本部がまとめた2022年の労働生産性の国際ランキングによると、日本は経済協力開発機構OECD)に加盟する38か国中30位で、比較可能な1970年以降で最低でした。

 

スイスの国際経営開発研究所(IMD)が発表した2023年の「世界デジタル競争力ランキング」で、日本は、64か国中、32位でした。国際経験、企業の俊敏性(アジリティ)、ビッグデータ分析・活用で最下位の64位、デジタルスキルで63位でした。

 

市場原理が働けば、企業は、DXを進めて、有能な人材を雇用します。大学は、卒業生の給与の高い技術系の学科定員を増やします。期待される給与の低い学科は、定員を減らし、閉鎖します。株主は、成長の可能性の高いDXが進んだ企業の株式を買います。その結果、DXの進んだ企業の株価はあがります。この典型がGAFAMです。

 

日本では、DXが進みませんので、企業は、市場原理に基づいた活動をしていない、つまり、株主利益に反する経営をしている可能性があります。

 

日本の株価は高くなっていますが、日銀や日本政府の買い支え、円安の効果が大きいので、株価を日本企業の実力であると考える人はいません。

 

世界の企業ランキングをみれば、日本には、評価に値する企業がなくなったことは明らかです。

 

企業の収益はバラツキます。個別の企業の収益をみて、バラツキの原因を判断することは困難です。

 

しかし、日経平均のような日本を代表するような企業の過去30年の収益と、アメリカのS&Pに掲載の企業の過去30年の収益の差を見ると、明らかに統計的に優位な差があります。ここでは、平均化によって、バラツキの効果は消えています。

 

平均してみれば、日本企業の経営者の能力と、アメリカ企業の経営者の経営者の能力の間には、大きな差があります。これから、日本企業の経営者をアメリカ型の企業経営者に交代させれば、企業収益の増大が見込まれます。

 

外資系の株主が、日本企業の経営者の交代を要求することは、科学的データに基づく判断です。

 

リチャード・カッツ 氏は、次の様に言っています。

2003年に、小泉純一郎元首相は、2010年を期限に、民間企業の女性管理職の割合を30%に引き上げると宣言しました。(注1)

2013年、安倍晋三元首相は、2020年を期限に、民間企業の女性管理職の割合を30%に引き上げると宣言しました

2015年、安倍晋三元首相は、2020年を期限にした民間企業の女性管理職の割合の目標を15%に引き下げました。

2023年に、岸田文雄首相は、2020年を期限に、民間企業の女性役員の割合を30%に引き上げると宣言しました。

<< 引用文献

法律も無意味「女性が出世できない国、ニッポン」  2023/06/23 東洋経済 リチャード・カッツ 

https://toyokeizai.net/articles/-/681555

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日本の首相を企業(日本株式会社)の経営者としてみれば、労働基準法男女雇用機会均等法の順守をしてこなかったことがわかります。

 

問題は、放置され、改善されませんでした。

 

男女雇用機会均等のために、膨大な税金が投入されたにもかかわらずです。

 

科学的に政策が進められれば、政策の効果が検証され、問題点を見つけて、改善できたはずです。

 

実際には行なわれたことは、男女雇用機会均等のキーワードさえあれば、リアルワールドの変化は問わないというドキュメンタリズムでした。

 

リアルワールドの男女雇用機会均等のために使われなかった税金は、どこかに流れ、利権になったと思われます。

 

経団連は、自民党の政策に対して高い評価をしています。

 

つまり、明言はしませんが、ドキュメンタリズムが通れば、リアルワールドの労働基準法男女雇用機会均等法の順守は問題ではないという立場です。

 

これは、言うまでもなく、SDGs違反です。

 

パーティ券裏金問題では、経団連に参画している企業が、パーティ券を買っている疑惑があります。

 

どこの国にも、利権政治があります。

 

しかし、利権政治が、政治活動や企業活動の中心になれば、市場原理が成り立ちませんので、資本主義ではなく、社会主義です。

 

経団連自民党がつるんで利権政治を進めれば、これは簡単にできます。

 

仮に、そうなると、高い給与を得られる基準は、能力ではなく、利権グループのお友達であったり、忖度することで決まります。江戸時代の世襲制と大差がありません。

 

こうなると、技術革新は止まります。DXは進みません。

 

労働者の可処分所得は減り続けます。

 

株価の上昇が期待できないので、株主は、日本株をうって、外国株を購入します。

 

資金は日本から流出します。

 

能力のある人材は、海外に流出します。

 

経団連自民党がつるんで利権政治を進めているという直接的証拠はありません。

 

しかし、間接的証拠があります。疑惑があります。

 

株式会社の幹部には、株主利益を最大化する義務があります。

 

利権政治は、国外では通用しないので、利権政治は、国際企業になる道を封じていることになります。企業の成長チャンスを放棄していることになります。これは、株主利益を損ないますので、大企業ではありえないはずです。

 

しかし、現実には、東証の基準を満足できない日本の大企業が続出しています。

 

ビッグモーターのような不正が起こることは、ある確率では不可避です。

 

しかし、それが、業界最大の企業であれば、その企業に不正が起こる確率はとても低いはずです。利権優先の企業活動が大手企業でも行なわれていた可能性の確率は高いと推測できます。

 

自動車メーカーのダイハツで不正が起きました。ダイハツは、スズキとならぶ軽自動車のトップメーカーです。市場経済が機能していれば、これは、ほとんど見ることのできない風景のはずです。

 

問題が生じた場合には、法的処置がとられれば、企業は淘汰され、正常な市場が維持されます。

 

しかし、行政指導や不採算企業に補助金をばらまくことで、ゾンビ企業が延命します。

 

こうして、ゾンビ企業が、日本中にあります。

 

これは、社会主義時代のソ連や中国の赤字の国営企業にそっくりです。

 

こうした国営の赤字企業では、ノルマが優先され、生産性が停滞して、技術革新は止まりました。

 

ノルマという名前ではありませんが、利権にともなう系列取引き、談合は同じ機能をします。垂直統合という美しい表現が使われることもありますが、市場原理が機能していないことは同じです。

 

市場原理が機能していなければ、水平分業は起こりません。国際競争には勝てません。



12月29日のテレビ朝日系「羽鳥慎一モーニングショー」で、「政治と金」の議論がありました。

 コメンテーターを務めた前明石市長で元衆院議員の泉房穂氏は裏金事件について「徹底的に捜査を続けるべきであって、マスコミもすぐに金額のことで『いくら以上』とかいいますけど、捜査を続けるなら国会を開会中でも捜査を続けるべき。検察も頑張った方がいい。見せしめ的にやっているような気もしますから抜本的にやり続けて欲しい」などと提言しました。

 

 これに政治ジャーナリストの田崎史郎氏は「金額で線を引くのはおかしいんですけど、全部、数十万円でも摘発したら安倍派の議員はすべて関わってしまうでしょうね。そうしたら90人ぐらい、いなくなったら大変ですから」と指摘しました。 

 

 この発言に泉氏は「いや、大変でもないですよ。全員いなくなったって誰も困らないですよ」と反論しました。さらに「逆にきれいに一掃してもらって新たな方が立候補して、新しい政治が始まった方が新しい日本の夜明けが始まると思います」などと指摘し、検察が徹底的に捜査することを繰り返し期待しました。

<< 引用文献

明石市長・泉房穂氏、「モーニングショー」で「裏金事件」を巡る田崎史郎氏の発言へ反論…「全員いなくなったって誰も困らない」2023/12/29 スポーツ報知

https://hochi.news/articles/20231229-OHT1T51027.html?page=1

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ドキュメンタリズムでみれば、争点は法律違反の有無になります。

 

しかし、リアルワールドの課題は、利権政治が、市場原理を逸脱して、経済を破壊して、人材流出を引き起こしている疑惑にあります。

 

利権政治が、市場原理を逸脱すれば、少子化問題、賃金の問題など、所得の再配分以外の全ての問題の原因になります。

 

これが、資本主義経済の基本的な理解です。

 

リアルワールドを無視して、ドキュメンタリズムに基づいた判断を進めれば、ロシアのミサイルのリスクと同じように、資本主義国の日本の崩壊のリスクがあります。

 

ドキュメンタリズムの法律の順守は、第1の問題点ではありません。

 

注1:

 

竹中平蔵氏批判について。

 

1990年代半ばから2003年頃にかけての就職氷河期に就職活動をしていた団塊ジュニアの人たちは、景気の悪化から正社員として雇用されず、契約、派遣、請負などの非正規雇用として働く人が多くいました。正規のキャリアを積めず、不本意な形で転職せざるをえないことが多かった彼らは、団塊世代と同じくらいの人口があるにもかかわらず、適切な労働力として生かしきれていません。いわゆるロストジェネレーションと言われる世代の問題があります。

 

竹中平蔵氏は、インタビューに対して次の様に、答えています。

 

ーロスジェネ世代からは竹中さんは格差の元凶と恨まれている印象があります。

 

それは申し訳ないけれど、勉強してないから、キャンペーンを張っている人に信じ込まされているだけです。じゃあ、その格差の話をしましょう。小泉内閣で格差が拡大しましたか。そのエビデンスは何ですか。

 

──これまで指摘されているのは派遣などの非正規労働者の増加です。1999年の労働者派遣法の改正です。

 

違いますよ。小泉内閣のとき、非正規は増えましたけど、正規も増えている。非正規がもっと増えていたのは1990年代です。それはアルバイトとパートなんです。ジニ係数(所得の不平等を測る指標)で見ても、小泉内閣の期間はジニ係数は下がっている。その間、世界ではジニ係数が上がっています。なぜなら、インターネットが出てきて技術革新が進んだからです。ITを使いこなせる人は有利になるし、そうでない人は不利になる。それは世界的な傾向です。でも、日本では格差の開き方は少なかった。OECD経済協力開発機構)の報告書にも書かれているんです。

 

──では、なぜあの時期、格差問題が激しく議論されたのでしょうか。

 

だからキャンペーンを張った人たちがいるんですよ。じゃあ、ちょっと質問しますけど、いま雇用者数は約6000万人(2023年)ですが、派遣の人ってどれくらいかわかりますか。実際は2.6%で149万人(労働力調査)。まったく少ない。みんな思い込みで議論しているんです。ましてや、それら派遣の規制に私自身は何の関係もないですよ。私は(労働法制を所管する)厚生労働大臣じゃないから。

 

竹中平蔵氏は、非正規問題を、派遣労働者問題にすり替えています。

 

間違いではありませんが、誠実な対応ではありません。

 

総務省は、2022年について、役員を除く雇用者に占める非正規の職員・従業員の割合は 36.9%(男性22.2%、女性53・4%)と発表しています。

 

2.6%という数字に議論をすり替えることは、問題からの逃避です。

 

大田英明氏の作成した図を示します。

 

図1 日本の非正規雇用比率

 

 

<< 引用文献

日本の非正規雇用拡大に伴う経済低迷 立命館国際研究 35-1,June 2022 大田英明

file:///C:/Users/oiras/Downloads/%E3%80%90%E6%94%B9%E8%A8%82%E7%89%88%E3%80%91ir_35_1_ohta.pdf

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特に、女性の非正規職員比率が50%を越えているのは、アパルトヘイトと同じ人権問題であり、これを無視して、「厚生労働大臣ではないので、何の関係もない」と言うことは、不誠実です。

 

正規・非正規の区別ができている状況では、まともなジョブ型雇用の労働市場がありませんので、その状態で、労働市場の自由化をすれば、問題が発生することは予測可能です。欧米の政策が機能したのは、正常なジョブ型雇用の労働市場があって、能力と賃金に合わせて転職ができたからです。

 

2023年の現在では、その問題点は明白ですが、小泉政権下で、経済政策を担当していたときの竹中平蔵氏が、この問題を十分理解していたかは疑問です。

 

現在でも、ファッションのように、欧米の経済政策のコピーを主張する経済学者が多数います。

 

論理的に考えれば、順番は、まず、労働市場を欧米のジョブ型に揃えてから、労働市場の自由化をすすめるべきだったことがわかります。

 

つまり、解雇規制を解除して、年功型賃金の解体を行ない、ジョブ型雇用を実現してから進めるべきでした。労働基準法男女雇用機会均等法が守られる条件を優先すべきでした。

 

これは、解雇規制の是非の問題ではなく、欧米型の雇用政策を進めるのであれば、前提条件を欧米と同じにするために、最初に、ジョブ型雇用に揃えるという手順の問題です。

 

解雇規制が残った結果、労働市場は、年功型雇用の正規社員の市場原理がない労働市場と、非正規の労働市場に分離しています。まともな労働市場の自由化は頓挫しています。

 

この状態は、竹中平蔵氏の進めた労働市場の自由化政策の失敗であった可能性と、自民党と経済界が、利権がらみで、低賃金労働者の創出を誘導した疑惑の可能性があります。

 

竹中平蔵氏が批判される理由は、後者の疑惑にあります。

 

竹中平蔵氏は、解雇規制について、次のように答えています。

──結局、なかなか正社員を解雇できない「解雇規制」の問題ですね。

 

日本型雇用全体の問題を、私は何度も何度も、繰り返し申し上げています。雇われる側の権利は守らなければならない。だから労働者が団結する権利がある。しかし、どういう状況でも経営側が解雇できないとなると、これは企業としては存続できなくなる。だから、変えなくてはいけないと言っていたんです。

 

整理解雇には、人員整理の必要性など、判例に基づく4要件がありますが、この4要件が厳しすぎる。会社が潰れるまで解雇できない、というのにほぼ等しい。これがあてはまるのは多くは大企業です。中小企業や外資系などは事実上、解雇が野放図ですから。でも、大企業はできない。だから、解雇しやすい非正規雇用を企業は増やしてきた。つまり、解雇規制を守れば守るほど、非正規雇用にしわ寄せがいくんです。

 

あるいは、次の様にもいっています。

当時私はクラッシュしそうだった経済を食い止めることをしていたんです。そんなにいっぺんにできないんですよ。一つのことをやるのに2年かかるんです。

 

インタビューを見ると、竹中平蔵氏が、途中で間違いに気付いた可能性も考えられます。

 

<< 引用文献

私への批判は既得権益グループの悪意あるキャンペーン――竹中平蔵が語る「本当の敵」 2023/12/29 Yahoo ニュース

https://news.yahoo.co.jp/articles/5f9cde52bf5b4c0160773f4aa5dce103e7f87247?page=1

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