年功型組織とドキュメンタリズム

(ドキュメンタリズムの問題点を指摘します)

 

1)汚職の祭典

 

渡瀬 裕哉氏は、オリンピックの汚職について、次のように書いています。(筆者の要約)

 

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テスト大会に関連する業務の入札をめぐる談合事件で、組織委員会元次長や電通の元幹部らが独禁法違反で逮捕されました。

 

事件の本質的な原因は、誘致のリスクを低く見せるために、国や東京都からの出向者により構成されるオリンピック委員会がノウハウなどを持ち合わせていなかったにも関わらず招致当初に、極めて甘い予算見積に提示して開催を決定したことにあります。

 

オリンピック委員会が、現実の業務は運営する能力がなく、電通から組織委員会に大量の出向者を受け入れて、大会運営を事実上丸投げしました。

 

当初予算が完全にデタラメであったことから、今回の実際の発注金額が安いか高いかは実は誰にもわかりません。

 

真の問題は、国や東京都などのオリンピック委員会の発注主の能力の低さにあります。

 

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完全にデタラメな当初予算が通った理由は、ドキュメンタリズム(文章形式主義)にあります。

 

予算を通す場合に、予算書の形式ではなく、内容が議論されていれば、完全にデタラメな当初予算は通りません。

 

これは、国会や都議会の予算審議の能力の低さを示しています。

 

国会や都議会の討議は、ドキュメンタリズムに基づいていて、内容は議論されませんでした。



渡瀬 裕哉氏は「国や東京都などのオリンピック委員会の発注主の能力の低さ」を指摘していますが、これは、ジョブ型雇用ではありえません。

 

オリンピック委員会の委員というジョブに対して、求められる条件に、スポーツ大会運営のノウハウが含まれていれば、オリンピック委員会の委員は、まともな予算書を作ることが出来ます。

 

つまり、予算書を作れない年功型雇用のオリンピック委員会の委員に、支払われた人件費は完全に無駄であったことがわかります。



2)オンザ・ジョブ・トレーニン

 

年功型雇用では、オンザ・ジョブ・トレーニングで、色々なポストを経験すれば、何でもできるジェネラリストになれると考えられています。

 

しかし、そのようなエビデンスはなく、「オンザ・ジョブ・トレーニングが万能である」というのは都市伝説にすぎません。

 

オンザ・ジョブ・トレーニングのパフォーマンスが、高等教育よりも高ければ、日本のIT企業は、生成AIを乱発しているはずです。しかし、オンザ・ジョブ・トレーニングの古い知識では、生成AIはつくれません。

 

高等教育のレベルダウンは、日本経済に致命的なダメージを与えています。

 

年功型雇用で、問題を解決する能力のない人が、管理的なポストにつけば、できることは、ドキュメンタリズムだけです。何もしなければ、責任を追求されますが、ドキュメンタリズムで、形式的な文章を作成すれば、責任を問われません。これは、ジョブ型雇用では、能力不足で解雇されるレベルの人が、年功型雇用で解雇されない免罪符の役割を果たしています。

 

給与を分配する企業利益のパイは1つしかありません。

 

年功型雇用で、問題を解決する能力のない人が、管理的なポストにつけるということは、スキルのある高度人材のポストがないことを意味します。

 

スキルを使って問題解決をするよりも、ドキュメンタリズムが優先される組織では、リスキリングは、退職が前提になります。

 

これは、日本企業の国際競争力が低下している原因でもあります。優秀な人材のグローバル企業への流出は止まりません。

 

3)ドキュメンタリズムの蔓延

 

バブル以前の日本社会では、建前と本音はやむを得ないものと理解されていました。

 

ビジョンは絵にかいた餅で、現場は、ケースバイケースで臨機応変に対応すべきと考えられていました。

 

公立病院の医師は、手術する時には、謝金を受け取っていました。謝金の金額で、患者の優先順位を入れ替えたかは不明ですが、失敗の多い医師の謝金は減りますので、年功型雇用であっても、努力するインセンティブがありました。つまり、年功型雇用は原則ではあるが、それだけでは、努力している人が報われないので、チップがあってしかるべきと考えられていました。

 

同様のチップは、社用族の交際費であったり、色々な形で、存在していました。

 

学校の教師が、予備校でアルバイトすることも、正式には認められませんが、ある程度のお目こぼしは当然だと考えられていました。

 

バブル崩壊以降は、チップは禁止のドキュメンタリズムが蔓延します。

 

2001年6月から、予算に骨太の方針が採用されます。

 

それまでは、予算の実施内容は、国会議員の能力では理解できないので、各省庁の予算に対する介入は少なかったです。

 

当時の小泉純一郎 首相は、「骨太の方針というのは大きな傘みたいなもんだ。総論をしっかり抑えてその下に各省の改革プログラムを組み込んでいく。そうすればみんないやでも改革案を考えざるを得なくなる」といっています。

 

大蔵省が握っていた予算編成の主導権を内閣に移すため、2001年1月に内閣総理大臣を議長とする経済財政諮問会議が設置しています。

 

しかし、年功型組織に手が入らなければ、内容がわからず、キーワードに振り回されるドキュメンタリズムになってしまいます。

 

「総論をしっかり抑えてその下に各省の改革プログラムを組み込んで」という発言は、各省の縦割りの存在ありきです。

 

省庁再編は、切り貼りでしか出来ませんでした。

 

最近になると、中身より先にキーワードができています。

 

IT関係の基本戦略は、既に多数作られていますが、骨太の方針を同じように、予算配分以外の効能はありません。



4)ジョブ型雇用の世界

 

投資家678人から回答によるブルームバーグ「マーケッツ・ライブ(MLIV)パルス」調査の結果は、次のようになっています。(筆者要約)

 

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プロの投資家556人の約52%が、高校生にとって進むべき道はテクノロジー業界だと回答しました。個人投資家122人中48%が同じ意見でした。

 

12年後を見通せば、投資家の40%が今年卒園する幼稚園児が進むべき道は、ヘルスケア関連だとしています。AIに取って代わられる可能性が低いことがその理由です。

 

人事コンサルティング会社、チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマスのシニアバイスプレジデント、アンドルー・チャレンジャー氏は「ここ20-30年は金融セクターが最も給料の高い仕事だったが、今のテクノロジーセクターはそれに匹敵する」といい、テクノロジーと金融は向こう20-30年は最も稼げる仕事であると予想しています。

 

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これは、高等教育の学歴が確実に所得に結びつくことを示しています。

 

AIのように、10年もすれば、古い技術の価値がなくなる業界もあります。

 

高等教育の学歴が所得にむずびつくという意味は、学費などの費用を支払った残りで、10年以内に、大きな収入を得られることを意味しています。



年功型組織で、内容を理解できない高齢の幹部が、ドキュメンタリズムを振り回している組織と、ジョブ型雇用で、優秀な人材を高給で取り合っている組織では、勝負になりません。

 

この実態がわかれば、日本のIT企業は、生成AIを作る技術がないのは当然のことです。

 

日本企業は、新卒採用の争奪戦をしているようですが、高度人材がいない企業は、いつまで、存続できるのでしょうか。

 

東京デズニーランドは、開園40周年を迎えました。

 

専門学校を卒業して、開園時の1983年4月にオリエンタルランドに入社した地曵(じびき)睦さん(60)は次のように言っています。

 

「まさか、この会社が40年続く企業になるなんてね。日本で初めてのテーマパークだったけど、世間の評判は3年ぐらいで違う施設になるだろう、とか言われてましたから。わからないもんですね」

 

デジタル社会へのレジームシフトに乗れずに、今から40年経つ前に、なくなっている企業も多数あると思います。



引用文献



汚職の祭典」オリンピックの透明性を高める改革の必要性──今後の国際イベント実施への影響 2023/03/27 Newsweek 渡瀬 裕哉

https://www.newsweekjapan.jp/watase/2023/03/post-40.php



目指すなら技術系か医療系のキャリア、金融ではない-ブルームバーグ調査

Bloomberg 2023/04/17 Jo Constantz

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-04-17/RT8GALT1UM0W01?srnd=cojp-v2





「まさか40年続くなんて」「普通が当たり前」TDL開業から勤続40年の社員、思い出を語る 2023/04/15 日刊スポーツ

https://news.yahoo.co.jp/articles/1e23c9fced6ef5c857bd3624833a95d797051543