1)年金ボーナス
野口悠紀雄氏は、将来の年金負担(社会保障制度を通じた再分配)を、次のように分析しています。(筆者要約)
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社会保障給付統計によると、2019年度の社会保障給付は、年金55.4兆円、医療40.7兆円、福祉(介護を含む)27.7兆円、合計で123.9兆円で、GDPの22.2%に相当します。(注1)
2000年から2019年までの20年間に、65歳以上人口は、63.2%増加し、それに合わせて、社会保障給付は、58.1%増加しました。
この増分に合わせて、消費税率の引き上げ、年金保険料率の引き上げ、健康保険料率や介護保険料率の引き上げなどが行われました。
15から64歳人口は、この間に、13.5%減少して、8622万人から7462万人へと0.865倍になり、1人当たりの社会保障負担は、1.58÷0.865=1.83倍になっています。
では、2040年には、この数字(1.83倍)はいくらになるでしょうか。
内閣官房・内閣府・財務省・厚生労働省が2018年に作成した社会保障給付の将来推計「2040年を見据えた社会保障の将来見通し」は、非常に高い、物価上昇率と賃金上昇率を仮定しています。
その計算結果は、以下です。
・社会保障給付は、121兆円から188.5から190.3兆円へと1.56倍になる
・社会保障負担は、117.2兆円から185.9から187.7兆円へと1.59倍になる
前提とされている2018年度以降の賃金上昇率は2.5です。この伸び率だと、賃金は22年間で1.4倍になります。(筆者注:この場合の負担増は、1.58/1.3=1.14倍になります)
ベースラインとしては、ゼロ成長経済の場合を考えます。
一方、2018年から2040年までの人口の変化は、つぎになります。
・15から64歳人口は7516万人から59.78万人へと0.795倍になる
・65歳以上人口は、35606万人から39206万人へと1.101倍になる
負担は、2018年度の20.8%から、2040年度の23.5から23.7%へと、13.0から13.9%増加します。
これは、65歳以上人口の増加率1.10倍に近い値です。
負担が1.13倍になれば、1人当たりでは、1.13÷0.795=1.42、つまり42%増になります。
負担が1.139倍になれば、1人当たりでは、1.139÷0.795=1.43、つまり43%増の1.43倍になります。
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<< 引用文献
日本の政治家が社会保障の議論から逃げている訳 2021/10/31 東洋経済 野口悠紀雄
https://toyokeizai.net/articles/-/464277
>>
野口悠紀雄氏は、社会保障制度を通じた再分配(年金ボーナス)をつづけるという前提の計算です。
加谷珪一氏は、現状の賦課方式(年金ボーナス)を解消する場合の試算をしています。
加谷珪一氏は、現状の賦課方式の年金制度では、払った金額の2.5倍が返ってくるが、積立方式にすると1.5倍程度しか返って来ないとなると、概算しています。
つまり、払った金額の1.0倍が税金を通じて所得移転される年金ボーナスになっています。
積み立て、年金額が減らないためには、賃金を1.6倍にする必要があります。
これは、税金を通じた年金ボーナスを解消する条件です。
加谷珪一氏は、更に、年金オーナスで、仮に保険料の不足分が600兆円、移行期間が40年と仮定しても、毎年15兆円の負担増が生じると計算しています。
<< 引用文献
今より年金の受給金額が少なくなる…?「積立方式」移行で起こるヤバいリスク 2023/10/25 現代ビジネス 加谷珪一
https://gendai.media/articles/-/118154
>>
赤字国債の増加額は、年約30兆円です。
同じ速度で、減額するのであれば、合わせて毎年45兆円の節約が必要になります。
現在の日本は、人口オーナス期ですが、年金ボーナス、国債ボーナスになっています。
このボーナスの解消は、増税では不可能で、生産性を上げて、賃金をあげる以外の方法では解決が不可能です。
注1:
財務省は3日、2022年度の国の一般会計の税収が71兆1373億円で、3年連続で過去最高だったと発表した。消費税は23兆792億円、所得税は22兆5216億円、法人税は14兆9397億円で、それぞれ前年度より1兆円余り増えました。
2023年度の社会保障給付は、年金60.1兆円、医療41.6兆円、福祉(介護を含む)32.5兆円、合計で134.3兆円です。
負担は、保険料が77.5兆円(被保険者41.0兆円、事業主36.5兆円)、公費が53.2兆円(国36.7兆円、地方16.4兆円)です。
2)賃金の課題
最低賃金をあげる方法を主張している人もいます。
しかし、日本の賃金はあがりません。
リチャード・カッツ氏は、次のように言っています。(筆者要約)
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成熟した国では、賃金は、100年以上GDPとほぼ同じ割合での成長をしていました。しかし、豊かな11カ国で、1995年から2017年の間に、生産性(労働時間あたりのGDP)は30%成長しましたが、実質的な時間当たりの報酬(賃金+福利厚生)は、16%しか伸びませんでした。
日本の生産性の伸びは30%と、他国と同じでしたが、労働者の賃金は1%減少しています。最近まで他国よりも、日本の労働者の賃金が国民所得に占める割合が高かったので、この状況は特に衝撃的です。
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<< 引用文献
日本人の賃金が停滞し続ける「日本特有」の理由 2021/12/13 東洋経済 リチャード・カッツ
https://toyokeizai.net/articles/-/475188
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あるいは、IT人材について、リチャード・カッツ氏は、次のように言っています。(筆者要約)
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日本では、優秀な学生がデジタル専門人材になるインセンティブは、他の富裕国よりはるかに低い。ほとんどの企業では、ジョブよりも年功序列で給料が決まる。
ある調査によると、デジタル人材の65%の年収が390万円から540万円であり、615万円以上は5%、1000万円は一握りである。また、(OECDの)他の17カ国では、IT技術者の給与が日本より高いという調査結果も出ている。
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<< 引用文献
27カ国中最下位…日本がIT人材足りない根本理由 2023/05/02 東洋経済 リチャード・カッツ
https://toyokeizai.net/articles/-/669331
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溝上 憲文氏は、賃金があがらない理由をつぎのように分析しています。(筆者要約)
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給与が上がらなくなった起点は1997年です。実質賃金は1997年をピークに長期低落傾向にあり、1997年を100とした個別賃金指数は2020年も95にとどまっています。
当時、リストラと並んで賃金抑制策、特に、年功賃金が、ターゲットになりました。
トヨタは2002年3月期決算の連結決算で過去最高の経常利益1兆円をあげました。
当時、日本経団連会長だった奥田氏は賃上げについて「高コスト体質の是正を図るうえで、ベアはなくてもよい。業績がよければ一時金で報いればよい」と述べました。ベア=ベースアップとは、定期昇給以外の賃金の上乗せです。
「ベアはなくてもよい」との発言は、無理して賃上げする必要はないという安心感を他の企業にも与えました。
奥田発言はその後も経団連の方針として受け継がれていきます。
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<< 引用文献
「竹中平蔵氏のせいなのか」ボーナスも退職金もダダ下がり…正社員の待遇悪化"真の黒幕" 2022/02/16 President 溝上 憲文
https://president.jp/articles/-/54703?page=1
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カッツ氏が指摘した日本の生産性の伸びが、労働者の賃金に全く反映されない経営は、経団連が主導したことがわかります。
これは、労働者の賃金が国民所得に占める割合が高い内需主導の経済からの撤退です。
ボーナスは、オーナスをへて、均衡に回復します。
労働者の賃金を単独で、評価はできません。
「労働者の低い賃金+内需の縮小+経済成長の低下+後年の社会保障費のための高い税率+若年層から高齢者への所得移転」は、セットで起こります。
3)トライアングルの疑惑
政治資金パーティーの売り上げの一部がキックバックされた疑惑が出ています。
利権のトライアングルが出来ると、企業は補助金の一部を政治家に還流し、選挙に協力します。官僚は、天下りポストと引き換えに、補助金を流し、円安や法人税の引き下げを行ないます。
政治資金パーティーの売り上げの一部のキックバックは、企業が受け取った補助金の一部の政治家への還流の可能性があります。
もちろん、それは簡単には、検証できないのですが、利害関係者以外によるモニタリングやチェックを行なうことが、民主主義の原則です。
円安は、内需を縮小して経済発展を阻害します。
トライアングルができると、問題解決よりも、円安や補助金の還流が優先して、問題解決はどこかにいってしまいます。
野口悠紀雄氏は、「異次元の金融緩和政策の目的は消費者物価上昇率の引き上げとされたのだが、実際の目的は、円安だったと考えられる」と断じています。
<< 引用文献
政府の過剰な介入が日本企業をダメにした…インフレがピークアウトしても日本経済は復活しない理由 2022/11/26 President 野口悠紀雄
https://president.jp/articles/-/63757
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OECDは7月11日、2023年の雇用見通しを発表しました。日本の最低賃金の伸び率は、名目・実質とも平均値の3分の1にとどまっています。
消費者物価上昇率の引き上げが政策目標であれば、賃上げをすれば、簡単に達成できます。
賃上げをすれば、需要が伸びるので、物価は上昇します。
逆に言えば、賃金をさげれば、購入金額が減りますので、生産量が変わらなければ、物価が下がります。
これが、輸出中心の経済でなくなった場合には、内需中心の経済が必要な理由です。
賃金が下がれば、物が売れなくなるので、生産量が減って経済はデフレの縮小サイクルに入ります。
ケインズは、不景気のときに公共事業で有効需要をつくれば、景気が回復すると主張しました。ケインズが、公共事業に注目した理由は、公共事業は、着工時期に自由度があるからです。
つまり、国債を発行して、必要な公共事業を少しだけ前倒し着工して、中期的に平均化してみれば、財政負担をあまり増やさずに、景気の回復ができるからです。
賃金をあげれば、同様に、需要が増え、インフレにシフトします。
金融緩和で、仮に、物の供給を増やしても、賃金が減って需要が減っていれば、物は売れません。企業は、物を増産しても売れないことがわかっているので、設備投資をして増産せず、内部留保が増えます。
円安であれば、一部の輸出企業は、円換算の販売額が増えます。しかし、ドル換算(あるいは輸出量)の伸びは小さいです。生産量は、増えませんが、円安によって、家計から企業への所得移転が生じて、輸出企業の利益が増えます。
しかし、円安の恩恵をうけるのは、一部の企業に限定されます。
円安は、家計から、企業への所得移転を生みますが、これは、長期的には、将来の社会保障の支出を増やします。国から、企業への所得移転になります。
トライアングルができると、利権の確保(官僚であれば、天下りポスト)を維持するための産業再編の補助金の確保や、円安が、経済成長よりも、優先します。
こう考えると、政治資金パーティーの売り上げの一部がキックバックは、賃金が上がらない原因である可能性が高いです。
<<引用文献
日本の最低賃金の伸び、OECD平均の3分の1未満 2023/07/11 日経新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA112IJ0R10C23A7000000/
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