1ー1)基本フレームワークの視点
デザイン思考(Design Thinking)という言葉は、デザイン研究の一部として論じられています。
これは、パーシアンである筆者にとっては、耐えがたく曖昧に見えます。
パーシアンは、帰納法は使い物にならない推論であるとして、これを退けて、アブダクション(Abduction)を使います。
ここが、スタート地点です。
アブダクションは、結果から、原因を推定する推論です。
つまり、パーシアンからみたデザイン思考とは、可能であれば、因果モデルを構築するための思考法になります。
ここではこれを、基本的なフレームワークとして、デザイン思考を考えます。
このデザイン思考は、一般的なデザイン思考とは、異質かも知れません。
とはいえ、帰納法を追放したデザイン思考は、基本フレームワークに、ほぼ、一致すると考えます。
1-2)問題の所在
学生数が減って、私立大学では定員われが、多く発生しています。
2023年度から私学助成不交付基準は収容定員超過率に一本化されています。
- 入学定員超過率による不交付基準は廃止
- 入学定員超過率の現行基準に合わせ、収容定員超過率の基準を厳格化
- 収容定員超過率1.07倍以上に対する減額基準も厳格化
文部科学省は、私立大学が破綻した場合に学生を保護する枠組みづくりを開始する計画です。私大法人の1割で経営悪化の兆候があり、少子化の加速で破綻増が懸念されています。非常時に学生が他校へ円滑に移れるようにする策を文部科学省が2024年度までにつくるそうです。
これは、どう見ても、私立大学のあるべき姿をデザインして、それに向かって、政策を進める方法ではありません。
中央教育審議会は、2023年内にも特別部会を設けて議論を始める計画です。
しかし、中央教育審議会には、デザイン思考のできる人がいるのでしょうか。
デザイン思考であれば、あるべき教育の状態(結果)を定義して、それを実現するための方策(原因)を与えます。
つまり、「私立大学が破綻した場合に学生を保護する枠組みづくり」は、問題を解決するデザイン思考ではありません。
デザイン思考をしないとアジリティが低くなって、問題解決に喪に合わなくなります。
政府は、新しい資本主義といいましたが、内容は不明で、デザイン思考にはなっていません。
1978年12月に、鄧小平氏は、「四つの近代化」を掲げ、市場経済体制への移行を試みる改革開放政策を提案しました。
これは、黒猫白猫論に、代表されるように、イデオロギーではなく、生産性を問題にしました。
四つの近代化は、国民経済において、工業、農業、国防、科学技術の四つの分野で近代化を達成することを目標としました。
この4つの目標は、帰納法ではなく、デザイン思考になっています。
過去のデータを取り上げて、4つを抽出している訳ではありません。
1979年に、鄧小平氏が、「四つの近代化」を国の最重要課題と位置付けた内容は、以下です。
まず国民総生産(GNP)を1980年の2倍にする。
20世紀末までにGNPをさらに2倍にし、国民生活をある程度裕福な水準に高める。
21世紀半ばまでにGNPをさらに4倍にし、中進国の水準にする。
これも、明らかにデザイン思考です。
鄧小平氏は、1997年になくなっていますので、 21世紀を見ることはありませんでした。
しかし、2013年に習近平政権が成立するまでは、鄧小平氏の「四つの近代化」のデザインは、生き続けていました。
中国の製造業は、日本の製造業を駆逐しました。
中国の製造業は、1979年には、中国より豊かであったマレーシア、タイを越えました。
その原因は、1つには、絞れませんが、鄧小平氏のデザインも大きな要因であったと思われます。
日本では、新しいことをしようとすると、失敗した場合をとりあげて、現状維持を主張する人がいます。
この場合の問題は、問題解決のためのデザイン思考ができない人が、幅をきかせている点にあります。
新しい提案に問題があれば、代替案を提示して、議論することが、デザイン思考です。
デザイン思考をしなくとも、幹部を続けられる組織は異常です。
ここでのデザイン思考は、問題解決のための設計図をかくことの意味です。
デザイン研究のデザイン思考に比べれば、極めてシンプルですが、それでも、十分に使える概念だと思います。