年金の個人収支

日本の公的年金は「賦課方式」を基本にしています。

 

厚生労労働省のHPには、「賦課方式と積立方式の特徴」の説明が書かれていますが、この説明は間違いです。

 

間違いという理由は、この説明を書いている人は、年金(オブジェクト)を取り上げているだけで、ここには、インスタンスが抜け落ちているからです。

 

説明の結論は、以下です。

 

公的年金の財政方式は、賦課方式を基本とした財政方式である。これは賦課方式と積立方式のよいところを組み合わせる方式で、積立金を活用することによって、賦課方式のデメリットを補っている。

 

「積立金を活用することによって、賦課方式のデメリットを補っている」というインスタンスは示されていません。

 

年金のインスタンスは、確率密度関数になります。

 

データサイエンスの理解なしに、年金のインスタンスは扱えません。

 

「説明は間違い」というのは、説明を書いている人は、データサイエンスのリテラシーが欠けているという意味です。

 

年金のインスタンスの説明は、今回は、脇に置きます。

 

個人単位で、積み立てと受取の収支のバランスがとれる年金は、積み立て方式しかありません。

 

インスタンスのない賦課方式の議論は無意味です。

 

以下に、積立方式のインスタンスを考えます。

 

個人単位で、積み立てと受取の収支のバランスを考えると、老後に十分な年金を受け取れない人が出てきます。

 

その場合には、公平性の点で、生活保護などで、高所得者から、低所得者への所得移転が発生します。

 

しかし、生活保護は、緊急事態に対する対策です。

 

生活保護が蔓延する社会では、経済発展は望めません。

 

積み立て方式で、運用で利益をだすことは確実ではありませんので、考えないことにします。

 

ただし、インフレになると預貯金では目減りしてしまいますので、インフレに比例して、減額しないように、インデックス系の運用をすることにします。

 

この前提を置けば、インフレの問題は無視して議論できます。

 

20歳から、65歳まで、45年間働いて退職した場合を考えます。

 

男女の寿命の差をならして、85歳まで生きるとすると、20年間年金生活をすることになります。

 

これは、45年間の収入で、65年間生活することになります。

 

45/65=0.69になるので、働いている時には、平均すれば、可処分所得の30%を年金として、積み立てる必要があります。実際には、年金収入にも課税されますので、積立額は30%では不足で、35%から40%は必要になります。

 

最新の平均年収は403万円で、男性は449万円、女性は347万円です。

 

年収400万円の所得税率は、20%です。これから、社会保険料と消費税が引かれます。

 

サラリーマンの場合、税金と社会保障費の負担が収入の半分になりますので、可処分所得は約200万円です。

 

少なくとも、200万円のうちの30%を積み立てないと、老後の生活ができなくなります。

 

この場合に、使える可処分所得は140万です。

 

政府の年金資産では、老後の収入は、現役時代の可処分所得の半分を基準にしています。そその場合の年金収入は100万円です。これから、税金(5%)、介護保険料、消費税を引かれれば、月8万円になり、生活はかなり困難になります。

 

生活保護の支給額が、ひと月10万円ですので、それより少なくなってしまいます。

 

これからすると、老後に、生活保護を受けない生活をするためには、年収400万位は必要です。

 

非正規社員の場合には、年収400万円に達していないことが多くなります。

 

その場合は、年金額より、生活保護の支給額の方が多くなります。

 

これが意味することは単純です。

 

非正規採用は、企業の利潤をあげます。しかし、非正規雇用の年収では、老後の積み立てができませんので、老後の生活は、政府が税金で面倒をみることになります。

 

正規雇用の安い賃金のつけは、生活保護などで、増加する老後の生活費の政府負担に転嫁されます。

 

この税負担には、所得税や消費税が含まれます。

 

これから、非正規雇用の安い賃金は、家計(将来の増税)から、企業への所得移転に他なりません。

 

将来の増税を回避するためには、最低賃金は年収400万円は必要になります。

 

政府は、130万円の非課税枠の議論をしていますが、それは、どうでもよい議論です。

 

できるだけ早期に、最低年収を400万円近くまであげないと、将来の生活保護で、税収がパンクしてしまいます。

 

女性の一人親世帯の半数は、年収200万円に達していません。

 

この収入は、現役時代には、ぎりぎりで、生活保護にならないレベルです。

 

しかし、老後になれば、100%生活保護の対象になってしまいます。

 

その分は、増税で補うしかありません。

 

生活保護が十分で出来なければ、日本の治安は崩壊します。

 

老後に、生活保護になるような低い賃金は、SDGsに反しています。

 

企業は、近視眼的には、安い賃金で、利潤をあげられます。

 

しかし、その代価として、将来に大きな負担をすることになります。

こう考えると、時給1000円が払えない企業は、反社会的な企業であって、撤退してもらうべきだと感じます。

 

断わっておきますが、非正規雇用は、強欲資本主義ではなく、強欲社会主義がもたらしています。資本主義で、労働市場があれば、同一労働同一賃金になります。

 

以上のインスタンスの計算の数字には、改訂すべき点があると思いますが、論理展開は、大筋まちがっていないと思います。

 

ここでの視点は、積立方式の年金の個人収支を考えれば、年金問題を検討する基準が選られるだろうということです。

 

論点は、非正規雇用の現在の安い賃金は、将来の増税とセットになっているはずだという点です。

 

目先の政策だけを論すると、将来に禍根を残すことになります。

 

一見すると、400万円は高すぎるように見えます。

 

ここには、トリックがあります。

 

その点は、次回に述べます。



引用文献

 

賦課方式と積立方式

https://www.mhlw.go.jp/nenkinkenshou/manga/05.html