プレとポスト・デジタル・シフト・エコシステムの労働生産性の違い~2030年のヒストリアンとビジョナリスト

エコシステムの違いが、労働生産性の問題を考える上で、重要です。エコシステムは、どこに着目するかで、重層的に複数のエコシステムが併存しています。

 

この複数のエコシステムの中で、デジタル・シフトが、労働生産性の決定的な違いを生み出します。

 

ここでは、その理由を考えます。

 

デジタル・シフトが、労働生産性を上げる理由をよく理解できていないと、DXは十分な効果を上げられません。

 

1)労働生産性の計測の課題

 

大量生産時代に労働生産性の概念が出来上がります。テイラーは、ストップ・ウォッチで、作業の時間を計測することで、作業単位の労働生産性を数値化し、弱点を改善することで、全体の労働生産性を改善する手法を開発しました。

 

ここで、労働生産性の概念が誕生します。

 

これは、時間当たりの労働生産性ですが、企業経営では、費用当たりの労働生産性も重要です。こちらは、ストップ・ウォッチでは計測できません。

 

DXを考えると、システムの作成と導入に時間と費用がかかります。

 

ある程度、DXシステムを利用すれば、減価償却が進むので、生産性は、導入前より改善します。労働生産性の評価には、評価期間を長くとる必要があります。



DXが、労働生産性に与える影響を要素ごとに考えます。

 

(1)作業のデジタル化の効果

DXの効果として、直接的に評価できるのは、スループット(単位時間あたりに処理できる量)です。

DXの費用が、初期投資だけであれば、減価償却を考えるだけですみます。しかし、実際には、これに加えて、バグフィクス、機能改善、セキュリティ対策の維持管理費用がかかります。バグの数、機能改善の容易さは、プログラムによって異なります。優秀なプログラマーの作ったソフトウェアであれば、維持管理費用が押さえられます。つまり、より高い人件費を払って、優秀なプログラマをやとって、コーディングした方が、トータルコストが安くなることもあります。システム開発の費用を落としても、維持管理費用が膨らむともとがとれなくなります。

バグのない万能のソフトウェアはありませんので、バランスをどこでとるかが、ポイントになります。この点で、ソフトウエア開発は、アートです。

 

(2)複合速度効果

スループットは、単位時間当たりに処理できる、一種類の作業の量を計測します。

システム全体が、クラウド上に乗れば、複数の種類の作業をパイプラインで繋いで処理でき、全体の速度が向上します。それには、DXのトランスフォーメーションが前提になります。全ての処理が、クラウド上でデジタル処理されれば、ジョブとジョブの間の待ち時間はほぼゼロになります。

 

(3)ネットワーク効果

対面のコミュニケーションは、1対1が原則です。しかし、クラウド上のネットワークを使えば、1対多のコミュニケーションが可能になります。

 

2)DXの加速度の課題

 

アメリカのIT企業の社員1人当たりの利益は、日本のトップ企業の10倍近くあります。

3つの効果が、相乗して大きな差が生まれます。

 

特に、意思決定から、成果が出るまでのスピード(時間遅れ)は、ポスト・デジタル・シフト・エコシステムの決定的な要素です。

 

2019/12/30のEVsmartブログは次のように書いています。

 

「EVのテスラは、2019年1月7日に上海のギガファクトリー3の起工式をします。

2019年12月30日に、ギガファクトリー3から、中国で現地生産された「モデル3」15台を初めて出荷しています。

わずか11カ月で巨大な工場を完成させてデリバリーを開始しています」

 

 2022/02/21の東洋経済によると「中国における2021年のEV販売首位は、約50万円の格安EVをラインナップに持つ上汽通用五菱汽車は、約44万台、3位のテスラは約44万台、32位のホンダは0.8万台、33位のトヨタは0.6万台です」



ポスト・デジタル・シフト・エコシステムでは、学習曲線に従って、コストダウンが進みます。先手、かつ、スピードの速い企業だけが生き残ります。

 

ホンダや、トヨタは、他のEVメーカーに、追いつくことができるのでしょうか。

 

エンジン自動車の工場は初期投資が大きく、参入が難しいので、大企業が、中小企業を後から追いかけて、追い越すことは、難しくありません。

 

一方、ソフトウェアが中心の産業の場合には、規模の経済は働かないので、追いつくことは容易ではありません。

 

実際に、日本は、DXが遅れているから、DXをすすめて追いつくというシナリオの議論が多いですが、DXが進んでいる企業は、日本企業がDXをすすめる間に、さらにDXを促進します。変化の速度は、DXの進展に伴い加速度的に増加します。マラソンでは、先を走っているランナーは止まっていません。いったん、引き離されたら、よほど地力がないと後ろを走っているランナーは追いつくことはできません。そもそも、DXで先に行っている企業に、引き離されたら、追いつくことは容易でないと考えている企業のDXは、大きくは遅れていません。

 

分野によっては、補助金で、「DXをすすめて追いつくというシナリオ」は絵空事です。

 

2022/04/16の日経新聞は、「1ドル=126円今や重荷 怠った改革競争力失う」と日本企業が、競争力を失っていると指摘しています。

 

DXが遅れている日本企業のうち、回帰不能点(The Point of No Return)を過ぎている企業も多いのではないでしょうか。官公庁は競争が表にでないだけに、更に重症の可能性があります。

 

引用文献

 

テスラが中国・上海のギガファクトリー3からモデル3を今日出荷するというスピード感 2019/12/30 EVsmartブログ

https://blog.evsmart.net/tesla/model-3/made-in-china-model-3-delivery-from-shanghai-gigafactory/

 

テスラ、中国市場の躍進を支える「重要拠点」 2022/02/21 東洋経済 木皮 透庸

https://toyokeizai.net/articles/-/576874