古い平和と新しい戦前

(新しい戦争のリスクは上がっています)

 

1)新しい戦前

 

2022年最後のテレビ朝日の「徹子の部屋」で、ゲストのタモリさんが2023年は「誰も予測できない、新しい戦前になるんじゃないですかね」と答えました。

 

それから、「新しい戦前」という言葉が、あちこちで取り上げられるようになっています。

 

2)古い平和

 

新しい戦前は、古い平和の終わりを意味します。

 

次に、戦争が起こるか否かはわかりませんが、その前に、今までの平和を維持してきたシステムが、レジームシフトして、不安定になります。その後で、新しいレジームに平和裏に移行(シフト)できれば、戦争は起こりませんが、レジームシフトに失敗すれば、戦争が起こるリスクは高くなります。

 

古い平和のレジームの幾つかは明らかに崩壊しつつあります。

 

幾つか例を上げます。

 

2-1)パックスアメリカーナの終焉

 

アメリカが絶対的な軍事強者であるというレジームが崩壊しつつあります。

 

軍事力は、経済力の裏づけがなければ維持できません。

 

世界経済におけるアメリカや欧州のシェアは下がりつつあります。

 

経済のシェアが完全に下がってしまえば、軍事大国から、軍事小国に没落します。

 

そのまえに、軍事力によって、経済の優位性を維持しようとすれば、好戦的になります。

 

ただし、好戦的な外交に経済の活性効果があるかは不明です。

 

これは、内政ですが、中国政府が、アリババなどの企業の経済活動に、軍事・警察力を背景に政治的に介入しました。しかし、そのことが、企業の経済活動には、マイナスになると予想する人が多いです。

 

外交についても、同様の問題があります。

 

特に、高度人材を中心とした労働者の国境を越えた移動ができる場合には、好戦的な外交は経済活動にとってマイナスになると思われます。

 

日本は、まだ、経済的には、大国で、ある程度の軍事費を負担できるかもしれません。しかし、北欧の国のように、人口が1000万人未満の国も多数あります。

 

こうした小国は、大国と戦争した場合に、軍事力で勝てることはありません。つまり、軍隊を持つ意義は、戦争に勝つことではなく、戦争を仕掛けた場合には、経済的なダメージが大きく、経済的には見合わないと思わせる効果しかありません。

 

とはいえ、ウクライナとロシアの場合には、この「経済的には見合わない」という予防効果は、機能しませんでした。開戦から、もうすぐ、1年になりますが、終戦が見えないのは、終戦になる条件が不明のためです。

 

冷静に考えれば、経済的に不合理な戦争にメリットはありません。しかし、開戦派が、経済合理性以外を政策の判断基準にとった場合には、戦争が起ってしまいます。

 

軍事費は、GDPの何パーセントという数字には意味はありません。日本は、経済大国ですが、より経済規模が大きく、軍事力の大きな、アメリカか中国と戦争しても、勝てる可能性は低いです。そうなると、何の効果を期待して軍事力を整備するのか、目的を明確にする必要があります。

 

第2次世界大戦(太平洋戦争)のときには、軍事力の差が大きく、冷静に考えれば勝ち目のない戦争に、突入しました。その時の日本は、今のロシアと同じように、経済的合理性の論理は通用しなくなっていました。

 

2-2)日本の工業社会の終焉

 

平和には、コストがかかります。経済的に豊であれば、戦争を起こす可能性は低くなります。

 

1990年頃、日本は一億総中流社会と呼ばれていました。

 

それが可能であった原因は、国際貿易に中国が参入する前の日本の製造業の輸出競争力にありました。膨大な貿易黒字があり、農業など労働生産性が低い国内の赤字部門に所得移転をする余裕があったからです。

 

恐ろしいことに、1990年頃までにできた、赤字分門は補助金など所得移転を受けることが当然であるというルールは1人歩きしています。

 

現在の日本では、家電製品は、輸出競争力がなくなり、世界市場を失いました。

 

自動車はかろうじて黒字ですが、EV化に伴い、今後の推移には、不安材料が残ります。

 

財務省が公表した2022年の貿易収支(輸出額から輸入額を引いた額)は19兆9718億円の赤字となりました。 赤字幅は14年の12兆8161億円を大きく上回り、比較可能な1979年以降で過去最大です。

 

つまり、日本には、貿易黒字を生み出す製造業はなくなりました。

 

1990年頃には、労働生産性が低く、所得移転がなければ立ち行かないゾンビ産業は農林水産業でした。それが、現在は、ほぼ全業種に広がっています。その補助金は、税収ではまかなえず国債の発行で調達しています。

 

補助金がなくなると政治家と官僚の利権がなくなります。このため、貿易赤字で財源がないにもかかわらず、補助金は減りません。

 

補助金は、工業社会のソンビ企業を延命するので、労働生産性はあがらず、賃金はあがりません。

 

官僚の給与は、民間に比べて安すぎるのかも知れませんが、その補填を補助金を通じた天下りで補填するシステムは破綻しています。公務員のなり手が減っていることは、現在のシステムが持続可能と思われていないことを意味しています。しかし、あたらしいシステムは提案されていません。

 

2-3)平和の終焉

 

岸田首相は、2023年1月23日に、施政方針演説を行いました。キーワードは、「成長なき対策に限界」があるというものですが、内容は、少子化対策にしても、補助金の増額で、そのための財源探しです。

 

マクロ経済で見れば、貿易収支が赤字ですから、それに見合って、補助金を減額して、ソンビ企業を淘汰する必要があります。

 

アメリカのビッグテックは、コロナウイルスの終焉に伴う売り上げの減少に伴い大規模なレイオフをしています。これは、労働生産性と株価を維持する健全な経営です。

 

日本でも、コロナウイルスの終焉に伴う売り上げの減少があるはずですが、レイオフの話は、聞きませんので、労働生産性は落ちているいるはずです。現在の政策は、「マイナス成長を促進する対策」になっています。

 

春闘で、名目賃金はあがるかも知れませんは、売り上げが減って、労働生産性が低下して行きますから、賃金は必ず下がります。

 

日本は人口が減っていますから、少子化対策に成功しても、その経済効果が出るのは、20年以上先です。少子化対策は重要ですが、当面は経済効果はありません。

 

そうなると、期待できるのはロボットの利用になります。ロボットの利用は、デジタル社会の基幹技術になりますが、補助金漬けで、ゾンビ企業を残した結果、家電と同じように、既に、中国に勝てなくなっています。(注1)

施政方針演説に補助金のばら撒きと増税を入れても、誰も効果を期待しません。重要なことは、問題解決のロードマップを提示することです。

 

狛江を中心に、強盗事件が多発しています。補助金をばら撒いて、労働生産性を下げ続け、「マイナス成長を促進」する政策は、犯罪を増加させます。

 

その先に、新しい戦争が起こっても不思議はありません。

 

注1:

 

政府はIC工場に巨額の補助金を出していますが、成功しないと思います。

 

その理由は、人にあります。日本の企業のICの世界の生産シェアが低下した時に、対抗策を講ずる人材はありませんでした。これは、予測ですが、ほぼ、間違いないと考えます。というのは、同じパターンが、家電でも、ロボットでも繰り返されているからです。つまり、失敗の原因は、経営の意思決定や、技術者の処遇にあった可能性が高いです。