護送船団方式のコスト(5)科学と政治のメカニズム

5)科学と政治のメカニズム

 

産業振興や技術開発のために、過去30年にわたって、膨大な補助金が、つぎ込まれています。しかし、結果を見れば、成功した例は殆どありません。

 

太陽光発電のパネルに補助金を出した時期もあります。しかし、国産のパネルメーカーは、価格競争に勝てずに、撤退しています。

 

半導体や液晶にも、補助金をつぎ込んできましたが、撤退しています。

 

最近では、再度、半導体補助金をつぎ込んでいますが、過去の例をみれば、成功する確率が高いとは思えません。

 

実は、補助金をつぎ込むと、その業界がダメになるというモデルは簡単に作ることが出来ます。

 

5-1)文系・理系X年功型雇用

 

以下では、採用枠に、文系・理系の区別があること、年功型雇用であることを前提にします。

 

図1は、科学と政治のモデルです。

 

このモデルは、2次元空間に書かれているので、1次元のモデルよりも、バイナリーバイアスが弱まっています。とはいえ、2次元のバイナリーバイアスがありますので、極度に単純化された場合と言えます。

 

モデルでは、経営を2つの軸で分けます。

 

縦軸は、時間スケールで、短期か、長期かに別れます。

 

横軸は、技術スケールで、左にいくほど、技術依存性が下がり、右に行くほど、技術依存性が上がります。

 

次に、年功型雇用と文系・理系の区別を考えると、2つの社内政治グループが考えられます。これは、文系のポストと理系のポストが大まかに決まっているモデルです。

 

アメリカのようなジョブ型雇用であり、文系・理系の区別が曖昧な場合には、2つの社内政治グループはできません。社内政治グループはできますが、日本のように固定的ではなく、流動的になります。

 

イメージしやすい半導体を例にします。

 

ある企業の半導体の売り上げが落ち込んできて、手を打つ必要がある局面を考えます。

 

第1の対策には、時間は、かかりますが、競争力のある技術開発をしたり、DXによって、製造原価を下げる方法が考えられます。

 

これは、図1では、右下のLM領域に位置します。この対策を採るには、半導体の製造工程や技術に熟知している必要があります。つまり、エンジニアでなければ、歯が立ちません。

 

第2の対策には、政府から補助金を獲得、円安、低金利で資金調達を容易にするなどしてもらう方法が考えられます。

 

これは、図1では、左上のSM領域に位置します。この対策を採るには、半導体の製造工程や技術に熟知している必要はありません。つまり、エンジニアである必要はありません。

 

ここで、社内政治が、文系グループと理系(エンジニア)グループに分かれていると仮定します。

 

理系グループは、第1の対策を目指すと思われます。

 

文系グループは、第2の対策を目指すと思われます。

 

ゲーム理論考えると、第1の対策が有効な場合には、理系グループが出世し、第2の対策が有効な場合には、文系グループが出世する、社内政治ゲームが成立します。

 

ここで、政府が、補助金を増やしたり、円安にすれば、第2の対策が有効になり、文系グループが出世することになります。

 

その結果、技術開発やDXは進まないことになります。

つまり、社内政治ゲームモデルが成立していれば、補助金を増やば、それだけ、技術革新が遅れることになります。

 

最近の政府の対策は、殆ど、左上のSM領域にあります。

 

つまり、補助金を増やせば増やすほど、技術が遅れる可能性が高くなります。

 

社内政治ゲームは、企業幹部候補生が、企業の収益ではなく、自分の出世を優先しているモデルですので、株式会社(資本主義)の原則に違反します。これが、成立する条件は、「文系・理系X年功型雇用」です。

 

第2の対策では、企業の利益は短期的な見かけでは良くなりますが、技術進歩がないので、中期的には、減収になります。つまり、企業は撤退する可能性が高くなります。




         

          

 図1 科学と政治のモデル



5-2)技術と形而上学

 

技術は生きものです。

 

何が起こるかは、実際に、ものやサービスを作って見なければわかりません。

 

スペースXのロケットは、事故を起こします。

 

何が、原因で事故が起こったかという因果モデルを検証するためには、Casual Universeのデータの半分近くは、失敗データである必要があります。反事実条件を思い出してください。失敗のデータなしに、失敗を回避することは、データサイエンスによればできません。

 

JAXAのように、ひとつでも失敗すれば、マスコミにたたかれる状態では、技術開発はできません。

 

文系のリテラシーでは、科学史は理解できますが、科学は理解できません。

 

岸田首相は、生成AIの開発者規範を提案すると言っています。

 

これは、形而上学であって、科学の方法ではありません。

 

2023年9月までの生成AIの歴史は、生成AIではありません。

 

問題は、生成AIで、これから何が起こるかです。未来はだれも予言できませんので、これから何が起こるかは、実際に起きてみるまでわかりません。

 

対策は問題が起きてから考えるしか方法がありません。

 

インフルエンザの予防注射をいくら沢山うっても、想定外のウイルスにかかることはあります。おなじことです。

 

もちろん、問題が深刻になる前に発見できるように、可能であれば、モニタリングすべきですが、全ての項目をモニタリングはできません。

 

冷泉彰彦氏は、岸田首相には、過去の日本のIT規制が、産業潰しであった反省がないと批判しています。

 

日本のIT規制の問題点は、未来が予測できる、問題点は事前にわかるという形而上学に基づいていたことです。

 

原因は、スノーの「人文的文化では、科学的文化を理解できないという」主張の理解の欠如にあります。




引用文献

 

生成AIの開発者規範、岸田首相がG7による策定方針を表明へ…あす国際会議で演説 2023/10/08 読売新聞

https://news.yahoo.co.jp/articles/ba09b8bd4f21bbed2975a954069148ca6109ec46

 

日本がAI規制を主導? 岸田構想への4つの疑問 2023/10/04 Newsweek 冷泉彰彦

https://www.newsweekjapan.jp/reizei/2023/10/ai4.php