どうして科学技術開発の対策は常に遅れるのか(1)

1)科学技術開発の対策のタイムラグ

 

最近政府は、生成AIの開発に対して補助金をつけています。

 

しかし、金額のオーダーが、GAFAMの100分の1以下なので、はたして、補助金に効果があるのかは、疑問です。

 

GAFAMも、現在は、規模が大きいですが、20年前は、小さかったです。現在、補助金をつけるにしても、生成AIのように、開発費が1兆円を越える場合には効果はありません。

 

一方、ChatGPTより、規模が小さく、コストのかからない「Llama(ラマ)2」で競争している企業もあります。この場合には、補助金は不要です。

 

生成AIの技術革新は、画像認識で、2013年にはブレークスルーが見えていました。つまり、生成AIに補助金を付けるのであれば、適期は10年前でした。

 

中国は、2008年に、千人計画(簡: 千人计划; : Thousand Talents Plan; TTP、海外ハイレベル人材招致計画)をスタートしています。高度人材の誘致計画をスタートする再適期は、2008年頃だったと思われます。

 

シンガポールは、1991年に、南洋理工大学(Nanyang Technological University、NTU)を設立しています。

 

香港は、1991年に、香港科技大学(HKUST、 The Hong Kong University of Science and Technology)を設置しています。

 

これから、大学における科学技術人材の育成を拡充する適期は、1991年頃だったと思われます。

 

1991年頃は、バブルの盛りで、大学の文系を卒業すれば、社長になれるが、理系を卒業すれば、安月給でこき使われるだけだと言われていました。

 

大手銀行のトップエリートは、MOFF担当と呼ばれ、大蔵省の官僚を接待することが重要な仕事でした。護送船団方式の維持が最優先でした。

 

最近、文部科学省は。科学技術系の大学定員の拡充を認めています。

 

しかし、1991年に比べれば、実に、30年以上遅れています。

 

科学技術が変化すれば、雇用は流動化せざるを得ません。

 

アメリカの雇用は、ジョブ型雇用ですが、1980年頃まで、自動車のビッグ3やATTは不動にみえていました。つまり、一生同じ会社に勤務することも多かったです。

 

1984年に、AT&Tは長距離交換部門だけを持つ電話会社となり、それ以外の事業は会社分割されました。

 

このころから、ジョブ型雇用で会社の間を移動する人が多くなり、1990年代には、退職金の408Kが整備されます。

 

日本の1990年代は、逆に、解雇規制を強化しています。

 

日本では、現在一部で、確定拠出年金(日本版401K)の導入が始まっていますが、30年以上遅れています。

 

TSMCは、1987年に創業者である張忠謀によって、台湾や世界初の半導体専攻のファウンドリとして設立され、1993年に台湾証券取引所に上場、1997年には台湾企業として初めてニューヨーク証券取引所に上場しています。

 

TSMC半導体体製造は、1990年代にスタートしています。これから、日本で、TSMCをモデルに、国産半導体を作るとしたら、適期を30年過ぎています。

 

以上のように、科学技術開発の対策のスタートは、世界標準から、10から30年遅れています。



そして、2023年現在も、10から30年遅れた政策が繰り返されています。



2)何故、科学技術開発の対策のスタートは遅れるのか

 

ここで、科学技術開発の対策のスタートが遅れる原因を考えます。

 

2-1)間違った推論

 

画像認識で、2013年にはブレークスルーが見えた時に、生成AIに補助金を付ける場合を考えます。

 

この時には、生成AIが成功するかは不明です。

 

生成AIが成功する条件は、技術、人材、資本などです。成功するための青写真を作成する方法は帰納ではありません。材料を組み合わせて、演繹で、プランをつくり、データを集めて、問題点が見つかれば、プランを修正する科学の方法をとる必要があります。成功する方法はわかりませんが、失敗の確率を減らす努力はできます。

 

それなりの高度人材を集める場合には、給与もかかります。雇用はジョブ型で、失敗すれば、開発チームまたは企業は解散して、解雇されます。

 

ジョブ型雇用は、アウトカムズ評価ではありません。自動車のセールスマンのように、販売台数で、ジョブ評価ができる場合は、例外です。生成AIのソフトウェアをつくっても、それが、販売されて収益を得るまでには、大きなタイムラグがあります。給与は、出来あったソフトウェアを評価して、決める必要があります。

 

つまり、2013年に、生成AIビジネスを始めるには、AIの技術動向、ソフトウェア・エンジニアや、ソフトウェアの評価ができることが必須です。

 

2013年の日本政府は、そのような能力のある人材がいなかったことがわかります。

 

2023年に、生成AIは成功をおさめました。

 

帰納を使えば、生成AIの成功の歴史をまとめることができます。

 

歴史は必然であるという間違った信念によれば、帰納を使ってえられたルール(資本、人材、技術の配置など)を使えば、成功は間違いないように見えます。

 

しかし、帰納は検証を含みませんので、この推論は、科学的に間違っています。

 

2023年から次の10年の間に起こることは、まだ、予測できません。

 

「Llama(ラマ)2」は、2023年7月に公開されましたが、同様に新しい技術が出て来る可能性があります。

 

2023年の現在でも、2013年同様に、成功するための青写真を作成し、データを集めて、問題点が見つかれば、プランを修正する科学の方法をとる必要があります。成功する方法はわかりませんが、失敗の確率を減らす努力はできます。

 

つまり、2013年と同しレベルの技術マネジメントが出来なければ、ほぼ、確実に失敗することがわかります。

 

技術マネジメントは、科学の方法ですから、企業のトップが、新しい青写真を示せること、データを集めて、問題点が見つかれば、プランを修正する科学の方法をとれることが最低の条件です。

 

企業のトップが、最近生成AIが流行しているので、わが社でも、同様の製品を出しますというレベルでは、問題外です。