どうして科学技術開発の対策は常に遅れるのか(3)

4)科学的文化の基本

 

少子化労働生産性の低下(DXの遅れ)など、現在の日本には、問題は山のようにあります。

 

例えば、次の例があります。

 

森まさこ首相補佐官の「ブライダル補助金(正式名:特定生活関連サービスインバウンド需要創出促進・基盤強化事業)」に関するツイート(X)が炎上しています。

 

渡邉 哲也氏は、次の様に説明しています。

 

ブライダル補助金は一見、少子化対策の一環のようにみえるが、実はそうではない。ブライダル業界を支援するものであり、結婚式場をシェアオフィス化することと、インバウンドを支援するもので「外国人による日本での挙式を促す補助金」です。結婚式場などウエディング業界には恩恵がありますが、外国人への補助金政策ともいえるものです。

 

森まさこ議員の企業献金の6割以上がブライダル大手のT&G社からのものだそうです。

 

ブライダル補助金は違法ではありませんが、森まさこ議員は、利益相反になっています。

 

「投票と任期の関係から言うと、利権の絡まない政策では政治家として生き残れない。利権ではない政治を、政治家ができるような構造になっていない」という人もいます。

 

しかし、「利権の絡まない政策では政治家として生き残れない」のであれば、先進国としての最低条件を満たしていないことになります。

 

また、利権団体は、現在の産業なので、利権の構造を温存する限りは、産業構造の転換ができません。新しい科学技術は、利用される場面がありません。技術革新よりも、補助金獲得が優先します。その結果、日本は、生産性が上がりません。つまり、ひたすら、貧しくなっていきます。株価は上がりません。

 

先進国の政策選択は、大きい政府か小さい政府かです。

 

大きい政府は、課税は多いが、社会保障が厚くなります。

 

小さい政府は、課税は少ないが、社会保障が少なくなります。

 

ところが、この議論には、産業助成の補助金が含まれていせん。

 

現在の日本は、「社会保険料を含めると課税は多いが、社会保障が少ない」という逆立ちした政府になっています。



社会保障国債の変化、地方交付税を除いたネットの予算額は35兆円しかありません。

 

この35兆円の中に、生産性を向上させる効果のない産業助成の事業費が含まれています。

 

その場合には、課税と社会保障の差額が、生産性を向上させる効果のない事業費に流入して、「課税は多いが、社会保障が少ない」という逆立ちした政府になります。

 

ダムを建設すれば、建設業界にお金が流れます。これは、不必要なダムが建設される可能性を示しています。人口が増加している場合には、ダムの水は将来的に使われる可能性があります。しかし、現在の日本では、人口は減少していますので、合理的に考えれば、過去に建設されたダムが不要になり撤去されるはずです。一方では、人口減少にともない過疎地域では、水道管の維持管理費が捻出できないので、政府は、タンク配水に切り替える計画です。こうなれば、人口減少の影響以上に、不要なダムは多くなります。

 

民主党政権は、ダムに反対しました。公共事業の見直しをしました。しかし、その内容は、中世の魔女狩りと変わりませんでした。

 

使われて効果のあるダムもあります。一方では、使われる予定のすくない経済効果のないダムも建設されました。

 

因果モデルで考えれば、使われる予定のすくない経済効果のないダムが建設される原因を取り除くことが問題解決になります。使われる予定のすくない経済効果のないダムが建設されるという結果から、アブダプションで、原因を推定し、仮説を作ります。次に、その仮説をもとに、原因除去の効果をエビデンスで検証する、これが科学的な推論です。

 

民主党政権は、経済効果のないダムが建設される原因を放置しました。つまり、民衆党の議員には、科学的な推論ができる人がいなかったことになります。

事業見直しの影響をうけて、現在では、公共事業の見直しをするルールになっています。しかし、このルールは、ドキュメンタリズムの形而上学で、科学的には全くの無駄です。つまり、税金の無駄づかいにすぎません。

 

ダムを建設して、上水道を作った事業の事業効果の判定には、使うツールは、アンケートであって、エビデンスではありません。水道事業の受益者に対して、水道が必要ですかというアンケートをすれば、利用者は、必要ですと答えます。しかし、賛成がいくら多くても、財政負担にたえられなければ、水道は廃止されます。

 

つまり、アンケートは無意味です。

 

猫理論では、生産性が向上しないと貧しくなります。

 

過疎になって、水道の利用者が減れば、水道水の生産性の低下(あるいは単位量あたりの製造コストの増加)が起こります。

 

水道を廃止する前から、自治体や日本はどんどん貧しくなっているわけです。

 

本来、公共事業の見直しの判定基準は、猫理論の生産性を無視できないはずです。

 

これが、経済学の科学的文化の基本です。

 

まず、水道用水やダムの生産性指標(単位水量の製造原価)が、公開します。

 

次に、問題の大きな事例について、因果モデルを作って、原因を処理する、これが科学的な文化です。

 

「利権の絡まない政策では政治家として生き残れない」という状況は、科学を無視しているから起こります。

 

生産性指標が公開されれば、極端に無駄な補助金は排除されます。

 

生産性指標の端数の範囲では、利権は動くと思います。利権はゼロにはできないと思います。しかし、経済成長を阻害するような規模の利権は、排除できます。

 

「利権の絡まない政策では政治家として生き残れない」とう思考には、バイナリーバイアスがあります。問題は、経済成長を阻害するような規模の利権の排除であって、全ての利権を排除することではありません。

 

アメリカでは、ネオコンが大きな利権団体です。ネオコンは、問題が起こさずに活動できる国内予算の規模を熟知しています。それをこえる部分は、海外に武器を売って利益をあげています。ベトナム戦争で、無茶をした結果の問題点を学習しています。

 

日本の利権団体は、国内予算で問題が起こらない範囲を超えて活動するので、経済が縮小しています。その原因は、科学的な推論の欠如にあると考えます。

 

政治家は与党も、野党も、科学に基づく政策をしません。世の中はすべて利権であるような発言です。

政策合意形成の研究をしている人もいます。

 

話し合えばわかるといった発想です。

 

パースは、ブリーフの固定化法を100年以上前に書きました。

 

ブリーフの固定化法は仮説です。

 

しかし、過去100年以上にわたって、ブリーフの固定化法の仮説は、検証されています。

 

つまり、科学の方法によらないで、ブリーフの固定化はできますが、そのブリーフは有効ではありません。

 

パースの論文には、仕掛けがあります。

 

政策合意形成の研究をしている人は、どうしたらまともな合意形成ができるかと考えます。

 

「ブリーフの固定化法」では、過去の事例を参考に、まともな合意形成ができることは殆どないと考えます。そして、論点を、合意形成ではなく、固定化されたブリーフが有効に機能する条件に切り替えています。

 

つまり、合意形成(ブリーフの固定化)が原因になって、起こる結果を論じます。

 

パースが科学の方法を推奨する理由は、科学の方法によっておこる結果が、相対的に一番良くなるからです。

 

その理由は簡単です。

 

科学の方法は、複数のブリーフを検証して、その中から、一番結果のよいブリーフを選抜するからです。

 

何は良いかは、実際に実施してみないとわかりません。そこで、モニタリングをしっかりして、ブリーフをブラッシュアップしていく方法が科学の方法です。

 

ともかく、科学的な推論ができなければ、議論は空回りして、全く先に進みません。

 

引用文献

 

結婚式離れに喘ぐブライダル業界を補助金で救う必要はあるか…税金の無駄遣いを招く"利権暴走"のカラクリ 2023/08/24 渡邉 哲也

https://president.jp/articles/-/73161

 

改善したのは「結婚できた女性」の環境だけ…政府はなぜ「未婚女性」の問題を無視し続けるのか 2023/07/28 President Woman 海老原 嗣生

https://president.jp/articles/-/72200

 

なぜ、人々の声は政府に届かないのか人々と政府の意識をつなぐ政策共創 2023/06/12 NIRA

https://www.nira.or.jp/paper/opinion-paper/2023/67.html