(最近の日本企業のSDGsの課題を取り上げます)
1)日本の水力発電のODA(1989年まで)
1968年に着工、1971年12月に完成したラオスのナムグムダムは、戦後の日本のODAの第1号でした。
この頃、国内では、下筌・松原ダム建設の反対闘争が起こり、1963年に、反対派の敗訴が確定していました。
つまり、現在流に考えれば、ダムの公益性が、個人の便益や、自然資本の減少を上まわっていると考えられていたことになります。
とはいえ、反対闘争の中で水没移転保障は、改善が進みました。また、自然資本の概念もなかった時代の話です。
1971年に、 環境庁が出来ますが、主なテーマは、公害で、この時代の「環境」は、まだ、自然資本を意味する単語ではありませんでした。
1990年のバブルの頃になると、日本の一人当たりGDPは増加して、ダムの反対運動がおこります。
下筌・松原ダム建設の反対闘争では、自然の破壊と、山村で生活を継続する権利が争点でしたが、1990年ころになると、山村の過疎は明白になり、争点は生活権ではなく、自然保護にシフトしていました。一方、1990年頃には、自然資本の経済学はありませんでしたので、かなり、感情的な議論が中心でした。
1990年には、生物多様性条約もSDGsもありませんでしたが、企業の社会貢献(社会的責任ではありません)が取り上げられ、メセナがブームになりました。企業イメージが大切にされ、環境配慮が重視されるようになります。国内のダムの建設は一巡していましたが、「ダム建設の推進が撤退か」は、科学の問題ではなく、政治的な取引の問題であると考えられていました。
次の様に古くから計画されたダムの建設は、中止されることはありませんでした。
八ッ場ダム1987年着工
徳山ダム 2000年着工
駒込ダム 2019年着工
2)日本の水力発電のODA(1990-2010年)
1990年から2010年までのODAの案件では、都市部を除けば、大規模土木開発は、封印されていきます。転換点がいつかはよくわかりませんが、ここでは、仮に、1990年としておきます。
この20年の間にリオサミットがあり、生物多様性条約が成立して、自然資本の経済学が進歩します。
2000年10月から2006年8月まで、長野県知事は、ダム反対派の田中康夫氏でした。
2009年 - 2012年には、民主党政権が成立して、公共事業の抑制に動きます。
2009 年のマニフェストの目玉は「統治能力強化、子ども手当や月額7万円の最低保障年金といった社会保障の拡充、財源確保のための無駄撲滅」でした。
社会保障の拡充の財源確保が無駄撲滅だけで可能とされ、マクロ経済運営・成長戦略には言及がありませんでした。
民主党の政策を一言でくくることは不可能ですが、ダムとの関連で言えば、ダムの建設の推進か中止かは、政治取引の課題であるという視点が維持されたことが重要です。
日本は、生物多様性条約に入っていますし、自然資本の経済学は急速に進歩しています。
このため、世界では、「ダム建設の推進か中止か」は、政治取引の課題ではなく、自然資本の経済学の課題になりつつあります。
2014年のInternational Riversのパンフレットは、中国のダム建設を批判しています。
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[中国の水力発電の実際のコスト]
水力発電は、中国が手頃な価格で排出量を削減できる、安価な低炭素エネルギーの選択肢として多くの人に考えられています。
近年、中国のエネルギーミックスの一部として水力発電の開発が大幅に増加することを予測した、多くの重要なエネルギーシナリオが発表されています。 ある研究では、水力発電の設備容量は、現在の政府予測の 280GW から 510GW に増加すると提案されています。
[水力発電は安価なエネルギー源ではない]
中国の水力発電の真のコストは、環境コストや社会コスト、インフラコスト、季節変動の影響などを含め、一貫して過小評価または無視されています。
True Cost of Hydropower in China 2014
https://archive.internationalrivers.org/resources/true-cost-of-hydropower-in-china-8445
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パンフレットには、実際のコストに試算の数字が並んでいますが、これは、環境NPOの数字ですので、バイアスがかかっている可能性があります。とはいえ、計算手順には、大きな間違いはなさそうです。
自然資本の経済学(生物多様性の経済学)では、便益は、生態系サービスの利用によって、生じます。
この手順で計算すれば、水資源の利用率の極端に低い徳山ダムの場合には、トータルの生態系サービスはマイナスになるはずです。
これは、使わないものは作るなという常識的な評価です。
ダムが環境に悪いと決めつけている訳ではありません。水資源利用サービスの価値も生態系サービスの一部なので、使っているダムではあれば、その他の生態系サービスの便益とのバランスを考えます。しかし、使われていないダムを残す理由はありません。
トータルの生態系サービス評価がなされていないのは、徳山ダムだけではなく、公共投資の99%が該当します。つまり、無駄な投資が沢山ある可能性が高いです。
トータルの生態系サービス評価は、EBPM(Evidence Based Policy-Making)の一部です。
つまり、日本のアカデミズムは、政府に忖度しますが、科学と学問の中立性を無視して、社会貢献していないように見えます。
民主党政権は、「統治能力強化」といって、科学を無視したので、科学的な手続きを導入できませんでした。
この悪しき伝統は、現在の野党にも、引き継がれています。
さて、1990-2010年の日本の水力発電のODAについては、述べるべき内容はありません。
繰り返しますが、日本政府は、環境配慮の点から、都市部開発以外の土木工事のODAは小規模なものを除いて撤退しています。
一方、この時期に、中国は、ダム開発を世界に輸出し始めています。
4)日本の水力発電のODA(2011年から)
2010年に世界のGDPランキングで、中国が日本を越えました。
2013年には、中国は、巨大経済圏構想「一帯一路」を推進し始めています。
最近は、債務の回収に手間取って、「一帯一路」は撤退気味になっています。
とはいえ、これは新規案件についてて、現在進行中の案件については、中国のODAの出資率は群をぬいています。
1990-2010年の間に、日本のODAは、環境配慮から、水力発電のような大規模土木工事から撤退しています。この時期の日本のODAは、住民参加型のソフト事業にシフトしています。その実態は、各国にあるNGOに予算をつけえてデータを集めてもらって、レポートを作成するものでした。
この時期に、資金規模は小さいながら、中国は、ダム建設のODAを進めてきました。
また、日本国内では、1990年以降、少数の例外を除いて、新規のダム建設のような大規模土木工事を行っていませんので、分野によっては、既に、設計のできる人材が枯渇しています。
1990-2010年の間の後半には、中国のGDPの増加が急速に進みましたので、ひたすら気前よく、お金をばら撒くというODAが限界に達していることは明らかでした。
しかし、2023年になっても、日本のODAには、戦略はなく、気前よく、お金をばら撒くことを続けています。
2023年5月9日のNewsweekni、六辻彰二氏は、岸田首相のアフリカ4カ国歴訪に伴う687億円の拠出には全く効果が期待できないと批判しています。(*1)
これは、687億円という金額は、中国のODAに比べると、桁が違いすぎて、全く効果がないことを言っています。
デンマークのような小国のODAは、対象を絞って、その問題について、ホットスポットになっている国に、集中しています。
日本経済は、中国経済より小さいので、全方位ではのODAは、不可能になっていますが、集中化の戦略はありません。
*1)アフリカ4カ国歴訪の岸田首相、687億円の拠出にどんな意味が 2023/05/09 Newsweek 六辻彰二
https://www.newsweekjapan.jp/mutsuji/2023/05/687.php
5)カヤン川水力発電所
2019年12月18日のVOIは次のように伝えています。(*2)
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カヤン川水力発電所の建設は、2018年10月31日に署名されたPTカヤン水力エネルギーとPowerchina International Groupの間の協力契約によって特徴づけられました。その後、2019年8月15日木曜日に、両社はプロジェクトの実施に署名しました。
署名は、大統領首席補佐官(KSP)のMoeldokoの直接の監督下で、KSP事務所で行われた。当時、Moeldoko氏は、署名された協定は、カヤン川水力発電所の建設を含む、北カリマンタンでの3つの国家戦略プロジェクトを対象としていると述べた。
12,000ヘクタールの面積に建設されたカヤン川水力発電所は、段階的に建設された5つのダムから9,000メガワットの電力容量を生成すると予測されています。
最初のダムは900メガワットを生産すると予測されています。さらに、1,200メガワットの容量を持つ2番目のダム、それぞれ1,800メガワットを生成する3番目と4番目のダム、3,200メガワットの5番目のダムの建設が行われます。
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*2)カヤン水力エネルギー水力発電所開発の進捗状況ジョコウィ大統領によるレビュー 2019/12/18 VOI
2022年10月6日のVOIは次のように伝えています。(*3)
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ジャカルタ - PT Kayan Hydro Energy(KHE)は、住友商事と共同でカヤン水力発電所の建設に資金を提供するとともに、建設する水力発電所のエネルギーを利用して北カリマンタン(カルタラ)のグリーン産業の発展を模索しています。
KHEのアンドリュー・スリヤリ社長は、この協力は170億ドルの投資価値を持つと述べた。
PTカヤン水力エネルギーと住友商事のカヤンカスケード水力発電開発プロジェクトに関する協力は、10月6日木曜日開始され、アンドリュー氏は、次のように言いました。「この協力の開始により、KHEと住友商事は、グリーンエネルギー発電所プロジェクトであるカスケード水力発電所の建設と、建設される水力発電所からのエネルギーを利用して北カリマンタンのグリーン産業開発の探求においてパートナーシップを結ぶことに合意しました」
アンドリュー氏は、KHEは北カリマンタン州、正確にはブルンガンリージェンシーのペソ地区にあるカヤンカスケード水力発電所(PLTA)プロジェクトの創始者であり開発者であり、9000メガワットの容量を持ち、5つのダムに分かれています。
このプロジェクトは2011年から実施されており、必要な許可をすべて完了しました。
「現在、KHEはダムの初期インフラ建設を進めています。2023年には、カスケード階段の第一歩であるダムとダム回避ビル(迂回チャネル)の支援インフラを建設し続けると推定されています」とアンドリューは続けた。
ご存じのように、この水力発電プロジェクトで発電された電力は、PTが開発したグリーン工業地域に供給されます。インドネシア戦略産業(ISI)とカリマンタン島の電力需要全般。
Kayan水力発電所の建設により、このグリーン工業地帯の魅力は、炭素排出量の削減に関心を持つすべての産業にとってより強くなります。
「そして住友商事は、再生可能エネルギー源由来の電気エネルギーを使用するという確固たるコミットメントを持つ日本企業にこの地域を宣伝する予定です」と彼は付け加えました。
また、KHEと住友商事は、エネルギー転換加速プログラムを支援し、国のエネルギーミックスにおける再生可能エネルギーを増やすため、パリ協定及びCOP26におけるインドネシア政府のコミットメントに従い、炭素排出削減の加速を支援するPLNとの協働イニシアティブを通じて、国家政策を支援する相乗効果の機会を模索します。
「KHEと住友商事は、政府のコミットメントを支持する準備ができています」とアンドリューは締めくくりました。
住友商事(株)アジア・オセアニアのインフラ事業アジア・オセアニアユニット責任者、松井聡氏は、KHEと住友商事の協力に満足していると述べました。
住友商事は1970年より電力インフラ事業に取り組んできました。グローバルポートフォリオとして、住友商事はフィリピンに水力発電揚水貯蔵資産を所有し、トルコにかつて水力発電資産を所有していました。
住友商事は「2050年のカーボンニュートラル」をグローバル企業方針としていますが、インドネシアにおける住友商事の戦略の一環として、インドネシアのエネルギー転換プログラムに貢献する再生可能エネルギーの開発も行っています。
「住友商事は、カヤン水力発電所の建設がこの戦略に沿っていると信じています」と彼は言いました。
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*3)カヤン水力発電ダムを建設、住友商事と戦略的協力関係を構築 2022/10/06 VOI
https://voi.id/ja/keizai/216036
2022年10月7日のNNA ASIAは次の様につたえています。(*4)
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インドネシアの経済担当調整省は2022年10月6日、北カリマンタン州で計画されている東南アジア最大級の水力発電所建設事業について、事業主体の地場カヤン・ハイドロ・エナジーと住友商事が協力すると明らかにした。同日、両社の協力を記念する式典が開催された。
住友商事の広報担当者はNNAに対し、この案件への参画はまだ決定していないが、参画に向けて前向きに検討しているところだと説明した。
建設が計画されるカヤン水力発電所の総発電容量は9,000メガワット。経済担当調整省によると、完成すれば東南アジアで最大級の水力発電所になるという。同発電所の建設は、国家戦略事業に指定されている。
総投資額は178億米ドル(約2兆5,800億円)で、5基のダム建設を計画している。発電容量は第1ダムが900メガワット、第2ダムが1,200メガワット、第3、4ダムがそれぞれ1,800メガワット、第5ダムが3,300メガワット。第1ダムは2026年の完成を予定している。
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*5)住商、東南ア最大級の水力発電開発に協力へ 2022/10/07 NNA ASIA
https://www.nna.jp/news/2413443
つまり、住友商事は、過去30年間殆ど停止していた海外の水力発電ダムプロジェクトにのりだしています。その主たる目的は、「2050年のカーボンニュートラル」にあると言っています。水力発電が、「カーボンニュートラル」に貢献するという主張は、インドネシア政府の主張と思われます。
International Riversの自然資本の経済学や生物多様性条約でも、「カーボンニュートラル」に貢献するかは検証すべき課題です。
日本国内では、森林を伐採して、太陽光発電パネルが設置されましたが、その「カーボンニュートラル」効果は、自然資本の経済学で検証されているとは思えません。
北カリマンタン州の環境便益は非常に大きいので、自然資本の経済学をクリアしているかは不明です。
6)ナムニアップ1水力発電所
OCAJIによれば、2013年から、ナムニアップ1水力発電所が、ラオスに建設されています。(*6)
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ナムニアップ1水力発電所建設プロジェクトは、関西電力、タイ電力公社およびラオス国営投資会社が出資するBOT (Build Operate Transfer) 方式による水力独立系発電事業者プロジェクトであり、ラオス国の首都ビエンチャンより北東約 130 km に位置するメコン川支流のナムニアップ川中流域に、2つのダム・発電所(主ダム/主発電所 27.2 万 kW、逆調整ダム/逆調整発電所 1.8 万 kW)を建設しました。当水力発電所は27 年間の営業運転の後、ラオス国に資産が無償譲渡される予定です。
(中略)
当プロジェクトも東南アジアのバッテリーの一つとして新たな水力発電所を備えたダムの建設を実施したもので、2013年に着工して以来、様々な困難を克服して、当初の予定通り2019年1月に主要工事を終え、同年9月に商用運転を開始しました。
大林組は、メインおよび逆調整用のダムのみならず、道路工事、転流用トンネル工事、発電所建設工事、管理棟建築工事など土木建築工事の全般を担当しました。そのほかの発電所電気-機械工事および金物工事も日系企業が担当するなど、オールジャパンで品質および工程管理に万全の体制で臨んだプロジェクトです。
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*6)ナムニアップ1水力発電所建設プロジェクト OCAJI
https://www.ocaji.or.jp/feature/award/award/project/tabid189.html
以上のように、1990-2010年の間にあった「水力発電ダムのODAは行わない」というルールは、少なくとも、民間部門では、通用しなくなっています。
一方では、政府のODAのルールは、不明確なままです。
7)サナカム・ダム
2021年1月20日のNikkei ASIAは次のように伝えています。(*7)
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バンコク 発: タイは、隣国ラオスのメコン川に計画されている中国開発のダム計画の中止を求めたが、これは東南アジア最大の水路を三国が共有する地域での対立の高まりを示唆する異例の要請だ。
タイ政府は昨年末、政府当局者が外交儀礼を破り、同プロジェクトに対してメディアで批判的な発言をして以来、20億ドル規模のサナカム・ダムに反対を表明してきた。
中国大唐が開発中のこのダムは、2028年までに実用化されれば684メガワットの電力を生成する予定で、「東南アジアのバッテリー」になるというラオス政府の戦略の不可欠な部分とみなされている。
バンコクは今月、ラオスの首都ビエンチャンに本拠を置くメコン川委員会主催の会議で新たな技術報告書を拒否したと述べ、再び懸念を表明した。メコン川委員会は、カンボジア、ラオス、タイ、ベトナムのメンバーが共有するメコン流域の水資源を管理するために設立されています。
「私たちは、メコン川委員会を通じて、不十分で古いデータを私たちに送ってきた懸念を表明している」と国家水資源局のソムキアット・プラジャムウォン事務局長は日経アジアに、メコン川委員会がラオス政府と大唐からのデータに基づいて提出した報告書に触れながら語った。
タイは、このプロジェクトが国境側で環境に与える潜在的な影響に根ざした複数の懸念を示している。このダムは、タイ北東部の人里離れた山間部のルーイ県チェンカン地区から2キロの場所に建設される予定だ。
ソムキアット氏は「タイにこれほど近い場所に建設されるダムは初めてだ」と語った。「影響は予断を許さないので心配です。」
タイの東部国境一帯に影響を与える恐れがあるため、ダムがメコン川の流れを変えるのではないかというタイ国民の懸念も排除されていない。ソムキアット氏は、「このダムが建設されれば、メコン川の深い水路の境界を管理することがさらに難しくなるだろう」と付け加えた。
タイ側は、電力購入契約(PPA)に署名しない可能性があるとして、金銭的な価格を引き出すと脅迫まで行っている。この協定は通常、ダムが建設される前に締結されるのが慣例であり、これにより、開発者は融資を確保し、投資収益率を保証することができます。この動きは、ラオスの水力発電輸出の最大の購入者としてのタイとラオスとの長年にわたる二国間関係からの離脱を示唆しています。PPA は、国営電力会社であるタイ発電公社 (EGAT) が引き受ける契約です。
バンコク政府がこのプロジェクトを支持にに消極的であることに、タイの環境活動家は眉をひそめている。ラオス・ダム投資モニターのコーディネーター、プレムルディー・ダロウン氏は、「現在、多くの初めてのことが起きている。タイが公の場でラオスのダムについて反対しているのは初めてであり、PPAに署名しないという発表も初めてだ」と述べた。「PPAに関するソムキアット氏の立場は、タイがラオスから電力を購入するというEGATとエネルギー省の既存のタイ政策に反するものであり、これまで一度も実現したことはない。」
サナカムダムに対する反発は、将来的にラオスから電力を輸入し続ける必要性について疑問が生じ、タイのエネルギー政策が精査されている中で起きた。タイの環境保護団体は、タイの電力消費率とその埋蔵量によって促進されたこの議論を推進しています。EGAT によると、2020 年 12 月のピークは、この国の予測ピークである 27,500 MW よりわずかに少なかったが、当時の設置電力容量は 45,480 MW であり、電力備蓄が 50% 近く過剰であることが明らかになった。これは、コロナウイルスのパンデミックの影響による経済減速によるものである。
「これは、タイが国内使用のためにラオスから現在の料金で電力を購入する必要がないことを示す明らかな兆候だ」と、国際環境圧力団体インターナショナル・リバーズのタイ・キャンペーン・ディレクター、ピアンポーン・ディーティース氏は語った。「今日のダム建設は電力のためだけではなく、政治のためでもある。EGATは政策を調整すべきだ」
ラオスと中国は、メコン川とその支流のダム建設をめぐって長年にわたり対立してきた。この川は世界で12番目に長い川で、全長4,600kmのコースは中国のチベット高原から始まり、中国南部の雲南省を曲がりくねって流れ、その後ミャンマーとメコン川探査委員会の4カ国が共有するメコン川流域を通過し、メコンデルタにあるベトナムのメコン川を流れ海へ至る。中国は、瀾滄江(中国ではメコン川の上流域と呼ばれる、瀾滄川を流れる川)に11の大きなダムのカスケードを建設した。
同国のエネルギー・鉱山省によると、ラオスはメコン川の本流と支流にすでに79のダムを建設しており、2030年までに100のダムを建設する予定である。内陸に囲まれた貧しいこの国の政府は、金融のライフラインとして融資によって建設されたダムに目を向けた。一党独裁国家の指導者らは、タイが「東南アジアのバッテリー」になるための主にタイへの無制限の電力輸出に期待を寄せており、2030年までに20ギガワットの電力を輸出するという目標を掲げている。
しかしアナリストらは、タイでサナカムダム(反対)への移行が進みつつあることは、ラオスが経済を刺激するためにダムに依存していることへの警告を示していると指摘する。この警告は、ラオス政府が対外債務の膨れ上がりに関する厳しいニュースに直面している中で発せられたもので、その多くは予想された財政収益を下回ったダム建設に起因している。
「代替市場に電力を供給する送電線が不足しているため、中期的には(タイに)代替の買い手は存在しないと思う」と日本人学者でラオスの政府の元政策顧問の西沢敏郎氏は語った。「政府は、水力発電プロジェクトの一部が非生産的であり、債務負担の高騰の一端を担っていることを認識している。」
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*7)Thailand challenges Laos dam building spree on Mekong River 2021/01/20 Nikkei ASIA
これから、ラオスにおいても、徳山ダムと同じように、つくっても使われない可能性のある水力発電ダムが出てきていることがわかります。
中国は、「一帯一路」で、工業化による経済成長モデルを輸出しました。
しかし、現在の中国の生産能力だけでも、過剰な部門が多くあります。
これから、途上国が、工業化して製品を作っても、商品が売れるマーケットが無限にある訳ではありません。
ベトナムやインドネシアなど、2022年に大きく経済成長した国もあります。しかし、逆に行き詰った国もあります。成長には濃淡が付き物です。
過去のダムの建設反対は、全て覆されています。
環境保全は、代替案の提案なしには、実現不可能と思われます。
欧米の河川管理は、natural flood managementにシフトしました。
これは、ダムの副作用があまりに大きいこと、代替エネルギーが出てきたことにあります。
1990-2010年の間にあった「水力発電ダムのODAは行わない」というルールが妥当であったは、筆者にはわかりません。
しかし、小規模水力、風力、太陽光発電などの効率が劇的に向上しているなかで、みかけの「カーボンニュートラル」にシフトして、ダム開発に復帰すべきか否かは、検討すべき課題であると考えます。
特に、表面的に歪曲されたSDGsには大きな問題があります。