1)ブリーフの固定化
「ブリーフの固定化法(The fixation of belief)」で、パースは、ブリーフを固定化する方法には、(1)固執の方法、(2)権威の方法、(3)形而上学、(4)科学の方法の4つの方法があると指摘しました。
パースは、4つの方法が存在することを、認めています。
しかし、「(4)科学の方法」以外の3つの方法は、科学の方法に劣ると結論付けています。
これは、一方では、科学の方法を採用する国や企業があり、もう一方では、残りの3つの方法を採用する国や企業があった場合、後者は前者に勝てない(政策や、経営の効率が劣る)ことを主張しています。
2)採点例
2ー1)経団連の夏季フォーラム2023
経団連は。岸田総理を迎えて、夏季フォーラム2023を開催しました。
「夏季フォーラム2023後の記者会見における十倉会長発言要旨」の一部を引用します。
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〔官民連携のあり方について問われ、〕政府の掲げる「新しい資本主義」の実現に向け、成長と社会課題の解決の両立に官民連携で取り組む必要がある。例えば、今回のGX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債での調達による政府支出のように、政府による投資で予見可能性を高め、民間企業の投資を促すことが求められる。
(中略)
〔中央最低賃金審議会で現在議論されている、最低賃金の引上げについて問われ、〕最低賃金は、①労働者の生計費、②労働者の賃金、③通常の事業の賃金支払能力、の三要素を考慮して決定される。足元の物価高による生計費の高まりを踏まえれば、一定程度の引上げは必要である。ただし、中小企業の賃金支払能力を高める支援策とセットで実施することが不可欠である。
【円滑な労働移動】
円滑な労働移動の推進のカギを握る「リスキリング」は3種に大別できる。まず、人生100年時代に働き手個人がよりよく生きるためのものである。次に、企業が自社の働き手のスキルアップを図るものである。最後に、企業の枠を超えた、成長産業等への労働移動を通じて日本全体の生産性を向上させるためのものである。政府には、成長産業等への労働移動に資するリスキリングの支援や、働き手個人への直接的な支援の拡充を求める。
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この発言から、経団連は、「『新しい資本主義』の実現に協力する」といっています。言うまでもなく、「新しい資本主義」は権威の方法です。そして、権威の方法に、協力する代りに、補助金を出してくれと言っています。
「リスキリング」の元の意味は、転職するために、学びなおす意味です。これは、労働を市場原理で再配分することを意味します。
経団連は、春闘を維持して、企業の枠を超えた、成長産業等への労働移動は最小限に止めたい意向です。政府のリスキリングが、春闘を維持した(年功型雇用を維持した)成長産業等への労働移動のないリスキリングになっていますので、それに合わせた発言ともと言えます。
市場経済に合わせた科学の方法を採用すれば、賃金は、生産性に比例します。そのためには、エビデンスの計測と評価の方法を明示する必要があります。しかし、経団連は、年功型雇用を放棄していませんので、科学的な市場経済を反映した雇用体系にする予定はありません。
以上のように、ここでは、従来通りの「権威の方法(年功型雇用)」を続けることがメインになっています。
2-2)北朝鮮のミサイル2発発射
7月25日に、北朝鮮がミサイルを2発発射しました。
これに対して政府は、いつも通り、「国際社会の平和と安定を脅かすものであり、断じて容認することはできない」と発言しています。
北朝鮮に反対の意思表示をすることに問題はありませんが、意思表示をしても、リアルワールドはかわりませんので、この対応は、形而上学になります。
3)まとめ
このように、パースの採点基準をつかって、科学の方法以外を消去して、科学の方法がどれだけ使われているかをチェックすれば、今後の問題解決の進展の可能性が判断できます。
円安やインフレには、時間遅れがあるので、家計から、企業への所得移転が起こります。
権威の方法をつかって、政府に働きかければ、円安は実現できます。
しかし、これは、リアルワールドの変化ではありません。輸出数量が同じでも、円安になれば、円建ての見かけの、輸出が増加するだけです。
つまり、円安で、経済が活性化するという主張は、科学の方法ではありません。
サイバーメトリックスで、ホームランを評価する場合には、球場の大きさの補正係数を書けます。同様に考えれば、円安で株価が上がった場合には、株価の上昇を円安効果とそれ以外の効果に分離して、評価すべきです。
これは、実質賃金の上昇は、物価上昇分を差し引く必要があるのと同じです。
このように、科学の方法がどこで使わているかをチェックすれば、政策や企業経営のどこに問題があるのかが、浮き上がってきます。
引用文献
夏季フォーラム2023後の記者会見における十倉会長発言要旨 2023/07/21 経団連
https://www.keidanren.or.jp/speech/kaiken/2023/0721.html