CUハッキングの技術

1)証券会社にて

 

証券会社に行くと、アクティブファンドを勧められることがあります。例をあげます。

 

AキャピタルファンドのBという商品の過去5年間の実績は、以下です。(図を省略)手数料(2%)を差し引いた後のリターンは、最低では1%、最高では40%あります。5年間の手数料を引いた年平均の利回りは、5%です。

 

この説明は、CU(Casaul Universe)ハッキングになっています。

 

この話を聞いた人は、Aキャピタルファンドの商品を購入すれば(原因)、手数料を引いた年平均の利回りは、5%が得られる(結果)と考えます。

 

しかし、ヒュームの反事実的思考によれば、Bという商品1つについて因果モデルをつくることは出来ません。

 

「Aキャピタルファンドの商品を購入すれば(原因)、手数料を引いた年平均の利回りは、5%が得られる(結果)」という因果モデルは、複数のサンプル(インスタンス)をふくむ母集団(Casaul Universe)に対してのみ有効な命題です。

 

そこで、Casual Universeを考えます。



Aキャピタルファンドは、B,C,Dの3商品を販売していたと仮定します。

 

3商品の5年間の手数料を引いた年平均の利回りが、5%、ー3%、ー2%だったと仮定します。

 

つまり、商品CとDは、マイナスの利回りだったことになります。

 

Aキャピタルファンドは、商品CとDは売れませんので、廃盤にして、改良商品C2とD2を今後販売する計画です。一方、商品Bの実績はよいので、引き続き販売することにしています。

 

今年、Aキャピタルファンドの商品B、C2、D2から1つを選んで、5年後の手数料を引いた年平均の利回りはいくらと考えるべきでしょうか。

 

期待値は、5%ではなく、5%、ー3%、ー2%の平均の0%であるべきです。Casual Universeは{B,C,D}の集合なので、これが、合理的な判断です。

 

つまり、統計的因果モデルを構築するのであれば、商品CとDといった失敗事例の情報が必要です。

 

これはデータサイエンスの基準では、過去の成功実績だけ評価できないという意味です。

 

前例主義や過去の実績は、成功事例だけで評価してはいけないことになります。

 

これは、直感には反しますが、科学的な真理です。

 

2)金メダルには価値がない

 

日本では、オリンピックの金メダルには、格別の価値があると考えられていますが、データサイエンスは、これを否定します。

 

選手は体調を調整しますが、完全には制御ができません。ほとんど、実力が拮抗している選手Pと選手Qが競争した場合、どちらが、金メダルをとるかは予測不可能です。

 

この場合、「P選手には実力があったので(原因)、Q選手に勝って、金メダルをとれた(結果)」という因果モデルは、、ヒュームの反事実的思考に反しているので間違いです。簡単にいえば、サンプル数1の母集団からは、いかなる因果モデルもつくることができません。




「P選手には実力があったので(原因)、Q選手に勝った(結果)」という因果モデルは作ることが可能です。

 

P選手とQ選手の過去の対戦試合を、Casual Universeにして、因果モデルの検証をすることができます。

 

この場合でも、P選手とQ選手の間に大きな年齢差がある場合には、全ての対戦試合をCasual Universeにすべきではありません。高齢の選手の実力は経年変化で低下し、若い選手の実力は、経年変化が増加します。

 

つまり、Casual Univseに含める試合の取り方で、結果は変わってしまいます。

 

このように、サンプルが複数の場合でも、CUハッキングは容易です。

 

3)証券会社の生き残り

 

3-1)アクティブ投資とインデックス投資の違い

 

三井住友DSアセットマネジメントは、「アクティブ投資とインデックス投資の違い」を次のよう書いています。

 

投資信託はアクティブファンドとインデックスファンドの2種類に分類することができます。まずインデックスファンドは、日経平均株価やTOPIXといった指数に連動するように設計された投資信託です。一方、指数を上回る、または指数に捉われずにリターンの獲得を目指す投資信託がアクティブファンドです。 



アクティブファンドの特徴

 

アクティブファンドは、ファンドマネージャーと呼ばれる運用のプロフェッショナルが投資判断をしています。ファンドマネージャーは、企業取材等を通して様々な企業を調査・分析することで組入銘柄を決定しています。

 

株式市場においては、その企業の価値が適切に評価されておらず、その評価の見直しが見込める企業も存在します。多くの企業の中から、こうした企業を選別して投資を行っていくのがアクティブファンドの特徴です。



インデックスファンドの特徴

 

インデックスファンドは、比較的低コストで効率的に市場平均のリターンが取れるという分かりやすさが特徴です。組入銘柄は、基本的には指数の構成銘柄と同一となり、銘柄の調査や分析といった手間がかからず低コストで運営することができるため、手数料(運用管理費用)も低く抑えることができます。



アクティブファンドとインデックスファンドはどっちがいいの?

 

どちらがいいか一概に言うことはできません。インデックスファンドは低コストで市場並みの運用成果を狙える一方で、アクティブファンドはより大きなリターンが獲得できる可能性があります。ご自身の運用の目的やスタンスと照らし合わせて決めていったり、アクティブファンドであれば、ファンドマネージャーの考え方に共感できるかといった視点でファンドを選んでみてはいかがでしょうか。

 

 

「どちらがいいか一概に言うことはできません」が、三井住友DSアセットマネジメントのいいたい本音です。アクティブファンドが、インデックスファンドに常に負けるのであれば、ファンドマネージャーは要らなくなり、アセットマネジメント会社の規模縮小になります。



インデックスファンドは、Bogleheadsによって1976年世界で初めて個人投資家向けに提供されています。(Bogleheads ®の投資哲学 楽天証券)比較的新しい手法です。これは、ファンドマネージャーの実力の差は小さいという投資モデルなので、当初は、異端視されていました。

 

3-2)アクティブファンドの実力

 

三井住友DSアセットマネジメントのいうようにインデックスファンドは、「基本的には指数の構成銘柄と同一」ですが、全く同じではありません。指数の構成銘柄の購入比率を配慮します、銘柄の構成は、複数の国のマーケットにまたがっているものもあります。この点でみれば、インデックスファンドは、逆張りをしない投資と解釈できます。指数の構成銘柄は、株価の高い優良企業ですから、株価自体は高めです。伸びしろは大きくはありません。しかし、業績は安定しています。一方、ファンドマネージャーは、伸びしろを見て、現在の株価が低いが、今後上がる銘柄が予測できると仮定して銘柄を選びます。

 

これは、三井住友DSアセットマネジメントの次の説明に対応します。

 

株式市場においては、その企業の価値が適切に評価されておらず、その評価の見直しが見込める企業も存在します。多くの企業の中から、こうした企業を選別して投資を行っていくのがアクティブファンドの特徴です。

 

これは一種の逆張りになります。

 

インデックスファンドは、将来の株価は予測できない、あるいは、株価以外の情報を加味して将来の株価を予測してもボラリティが大きすぎると考えます。「指数の構成銘柄」は優良企業ですから、今後の株価の大きな伸び率は期待できませんが、株価が大きく下がるリスクも低いと考えられます。その結果、インデックスファンドは、どの商品も利回りは、市場平均に近く、大きな差はなく、手数料の差で選択されます。現在の手数料は、0.1%程度です。



アセットマネジメント会社は、インデックスファンドは、「指数の構成銘柄と同一」で、「市場平均のリターンが取れる」のに対して、アクティブファンドはより高いリターンが見込めると言いたい訳です。そうでなければ、アクティブファンドは売れず、ファンドマネージャーは失業するからです。

 

2022までの過去10年で、実際に市場平均(インデックスファンド)を上回っているアクティブファンドは、S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス社の調査では、日本で18%、米国9%、欧州10%、インド32%、ブラジル11%です。(日経新聞 9月2日)

 

2020年までの5年間で、インデックスファンドを上回っているアクティブファンドの比率は「ほったらかし投資術」によれば、以下です。

 

米国25%、カナダ3%、メキシコ20%、ブラジル20%、チリ7%、欧州27%、南アフリカ46%、インド20%、日本33%、オーストラリア19%。

 

新しい企業が、「指数の構成銘柄」に入れ替わる比率が高くなれば、アクティブファンドは、インデックスファンドより有利になります。南アフリカの成績がよいのはこのためと思われます。特定の分野が、今後伸びて、「指数の構成銘柄」に入るだろうと確信がもてるのであれば、インデックスファンドにこだわる必要はありませんが、その場合を除けば、インデックスファンドがよい選択になります。

 

S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス社の調査は、市場平均を下回ったアクティブファンドについては何もかかれていません。

 

小松原審宰明氏は、米国の1856投信の専攻する10年間と次の10年間の指数に関する超過リターンを分析して、両方ともプラスは少数で、「前半と後半の成績はほど無関係だった」いいます。(2023年9月2日)

 

つまり、過去の実績は、将来の実績とは無関係です。これは、過去と将来は、全く別のCasual Universeを構成することを考えれば自明です。

 

これから、市場平均を上回ったアクティブファンドと市場平均を下回ったアクティブファンドのリターンの分散に差がないと仮定します。市場平均を下回ったアクティブファンドのマイナスのリターンは、市場平均を上回ったアクティブファンドのプラスのリターンと同じ分布をすると仮定します。そうした場合、市場平均を上回っているアクティブファンドの割合が50%を超えなければ、アクティブファンドは、インデックスファンドに負けていることになります。

 

これから投資する人は、どのアクティブファンドが良いかわかりません。つまり、Casual Universeは、市場平均を上回っているアクティブファンドではなく、すべてのアクティブファンドにする必要があります。

 

市場平均を上回っているアクティブファンドをCasual Universeにするのは、議論のすり替えで、CUハッキングです。



9月2日の日経新聞は、市場平均を上回っているアクティブファンドが少ない理由は、高い手数料が原因であるとしています。しかし、これは、CUの議論を回避している点で、CUハッキングです。

 

武石謙作氏の分析では、アクティブ投資の運用コストが低いほど長期的な成績がよい傾向があります。(日経新聞9月2日)

 

手数料が市場原理できまり、三井住友DSアセットマネジメントがいうように、「どちらがいいか一概に言うことはできません」といえるためには、市場平均を上回っているアクティブファンドの比率が、50%になるまで、手数料が下がる必要があります。そうならないことから、アクティブファンドの手数料には、市場原理が働いていないことがわかります。

 

以下は、個別のアクティブファンドの良し悪しについて、各段の情報がない場合(つまり、CUがアクティブファンド全体をサンプルにする場合)の判断です。

 

手数料が下がって、均衡するまでは、インデックスファンドをやめて、アクティブファンドにすべき理由はありません。

 

2006年に外資投資銀行マンの藤沢数希氏は、「なぜ投資のプロはサルに負けるのか」を出版して、概ね次のように言っています。

 

 

現代ポートフォリオ理論による最も効率的な投資法は、インデックスファンドをなるべく安い手数料と運用報酬で購入し、長期保持することです。理由は、1:市場はかなり効率的、2:インデックスファンドの手数料などのコストはアクティブファンドにより安い。3:長期保持するので自分の時間をつかうコストがない。

 



三井住友DSアセットマネジメントは、「アクティブ投資はインデクス投資に負ける」とはいいません、あるいは、言えません。

 

これは、日経新聞も同じです。



3-3)証券会社の将来

 

日本の証券会社は、運用会社は、販売会社の子会社になっています。

 

8月22日の日経新聞によると運用会社の経営トップは73%がグループ内他社(筆者注:販売会社からの天下り)、9%が内部昇進、18%がグループ外他社です。

 

販売会社は、リターンのよい商品より、手数料の高い商品を売ります。これは、顧客の利益に反します。運用会社は販売会社の子会社であれば、運用会社は、利回りの良い商品よりも、手数料の高い商品を開発させられるバイアスが働きます。利益相反です。これが、今までの日本の証券会社の実態です。日経新聞によると、販売会社と運用会社を分離する動きがでてきたことになります。インデックス投資は、手数料がとても低いので、販売会社が売りたくない商品です。このため、販売会社では、インデックス投資の商品の宣伝はしません。

 

ネット証券は、この状態に、風穴をあけました。ネット証券の主な商品は、インデックス投資です。手数料は競争によって、0.1%まで下がっています。また、外国株も簡単に購入できるようになりました。



日本の運用会社のアクティブ型の投資の自前運用は1割で、9割を海外に委託しています。金融庁は運用改革を進めて「メジャーリーグを日本につくることをゴール」と定めています。(日経新聞

 

野村アセットマネジメントは、海外株チームをつくり、自ら運用する計画です。(注1)

 

しかし、これは、困難な道です。

 

堀江貴文は、次の様に言っています。

経済評論家の山崎元さんが「手数料が0.5%を超える運用商品はすべてゴミだと思え」と言っていた。同感だ。そして、このルールに従うと、銀行の窓口で販売されている運用商品に買うべきものはなにひとつないことになる。むしろ買ってはいけないものしかない。

 

これは銀行の話ですが、証券会社の状況も同じです。

 

最近は、AIを使ったロボット運用も人気がありますが、手数料は1%とまだ高めです。

 

AIを使えば、人間のファンドマネージャーよりマシかもしれません。

 

欧米のアクティブ投資は、部分的には、AI等を併用しています。今までとの違いは、決して大きくはありません。

 

市場原理がはたらけば、アクティブ投資の手数料も、今後、0.5%位までは、下がると思われます。筆者は、手数料0.5%が、「インデックス投資とアクティブ投資のどちらがいいか一概に言えない」状況であると考えます。

 

証券会社は、手数料0.5%で、アクティブ投資で、インデックス投資以上のリターンをあげられる可能性ありますが、茨の道であることは確かです。




注1:

 

海外のファンドは、1990年には、金融工学商品を販売していました。30年前のことです。

 

野村アセットマネジメントが、2023年頃に、海外株チームをつくり、自ら運用するのは、世界標準からは、30年遅れています。

 

つまり、ここには、「どうして科学技術開発の対策は常に遅れるのか」という共通の問題があります。

 

なお、一部のマスコミは、1998年のロングタームキャピタルマネジメントの破綻を例に、リスクを主張していますが、これも、CUハッキングです。

 

ヒュームの反事実的思考により、ロングタームキャピタルマネジメントという1サンプルに対する因果モデルはありません。命題は、もしも、ファンドが、ロングタームキャピタルマネジメントのようなファンドであれば(原因)、破綻する(結果)になります。

 

ロングタームキャピタルマネジメントのようなアクティブファンドは、その後、破綻していません。つまり、ロングタームキャピタルマネジメントのようなアクティブファンドというCasual Universeの中で、破綻が観測されたのは、ロングタームキャピタルマネジメントの1社だけです。ロングタームキャピタルマネジメントが破綻した直後の1998年のCUでは、リスクは高いですが、その後、同様の破綻はありませんので、2023年現在のリスクは低くなります。

 

引用文献



ロボアド業界に新風 「SBIラップ」に勢い 2022/05/31 日経新聞

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB00006_X20C22A5000000/

 

日経トレンディ「ロボアド大賞」受賞したROBO PRO 、リリースから3年のパフォーマンスは+39.46% 2023/01/20 PRTimes

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000114.000022761.html

 

Bogleheads ®の投資哲学 楽天証券

https://www.rakuten-sec.co.jp/web/lp/etf2021/pdf/etf2021-material_07.pdf

 

アクティブファンドとインデックスファンドの違いは? 三井住友DSアセットマネジメント

https://direct.smd-am.co.jp/learn/guide/difference/

 

なぜ投資のプロはサルに負けるのか 藤沢数希(2006)

 

ほったらかし投資術、山崎元、水瀬ケンイチ(第3版、2022)

 

アクティブ投信実力を知る 日経新聞 2023年9月2日

 

Z世代、資産形成はAI任せ 銘柄選び「時間かけたくない」 日経新聞 2023年8月28日

 

運用会社、独り立ちへ 日経新聞 2023年8月22日

 

海外株チーム、自ら運用(野村アセットマネジメント) 日経新聞 2023年8月22日

 

悪魔に魂を売った輩が私たちの資産を狙っている…ホリエモンが「絶対買うな」という商品、「行くな」という場所  2023/08/09 PRESIDENT 堀江 貴文

https://president.jp/articles/-/72222