カモフラージュと違法(11)

16)カモフラージュとウオッシング

 

16-1)ネーミング

 

ここまで、カモフラージュという単語をつかって来ましたが、カモフラージュはフランス語なので、英語圏では、あまり使われていない単語のようです。

 

英語圏では、 launderingか、washingが使われます。

 

Washingの不が適切と思われます。

 

基本的な用法は、ホワイトウォッシングから始まっています。以下は、ウィキペディアによります。

 

ホワイトウォッシング(Whitewashing;censorship、検閲)

ホワイトウォッシングとは、評判を向上させる目的で、悪徳、犯罪、スキャンダルをごまかしたり隠蔽したり、おざなりな調査や偏ったデータの提示によって無罪を晴らしたりする行為です。

 

この派生形が多くあります。

 

グリーンウオッシング(greenwashing、見せかけだけの環境対策)。

 

ウォークウオッシング(Woke-washing)とは、中身が伴っていないにも関わらず、社会意識が高いように見せかける企業の取り組みを指す言葉です。wokeはwake(目が覚める)の過去分詞形で、形容詞としては「社会課題に対する意識が高いこと」を意味します。

 

パープルウォッシング(Purplewashing)の接頭辞「パープル」はフェミニズムと関連付けられており、動詞「ウォッシュ」は構造的な差別形態を維持または強化するために少数派の権利を利用する戦略を採用することを指します。

 

フェミニズムの文脈では、ジェンダー平等への訴えを通じて国、人々、企業、その他の組織を促進することを目的としたさまざまな政治的およびマーケティング戦略を説明するために使用されます。このマーケティング戦術は「フェムバタイジング」とも呼ばれ、有害な男らしさを狙ったジレット レイザーの#MeTooコマーシャルで最も話題になりました。

 

レッドウォッシング(Redwashing)とは、国家、組織、政党、または企業が、自らを進歩的で社会的平等と正義に関心があると見せかけ、その認識を宣伝や経済的利益のために利用する行為です。政治の分野では、左翼の理想を採用する右翼 ポピュリストを指します。



ピンクウォッシング(Pinkwashing;乳がん(breast cancer)は、ピンクのリボンのロゴを使用したコーズ マーケティングの一形態です。企業は、さまざまな種類のがんを引き起こすことが知られている製品にピンクリボンのロゴを表示しています。



SDGsウォッシング(SDG Washing)とは、国連が定める17の持続可能な開発目標(SDGs)に取り組んでいるように見えて、実態が伴っていないビジネスのことを揶揄する言葉です。



16-2)ウォッシングの例

 

(C1)リスキリングウォッシング

 

リスキリングは、リカレント教育ではありません。労働者移動や労働市場を前提とした言葉です。

 

2023年時点で、日本には、労働市場がありませんので、リスキリングは、99%リスキリングウォッシングになります。

 

例えば、2022年4月に厚生労働省がの「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」の報告書が取りまとめられました。

 

 不当解雇されたと主張する人が解雇無効を請求して裁判となった時に、金銭を支払うことで決着をつけることができるとする制度の問題点を問うものです。本制度の導入の是非については今後検討すべきという結論で止まっています。

 

これは、リスキリングしなくとも解雇されないころ、リスキリングをしても、就職口がないことを意味しています。



(C2)資産運用ウォッシング

 

政府は、最近まで100年安心といっていましたが、次に、試算が2000万円必要といい、さらに、資産運用を進めています。

 

資産運用するには、元本が必要です。このためには、若年層の所得をあげる必要がありますが、年功型雇用を維持したまま資産運用を勧めていますので、資産運用ウォッシングになっています。

 

毎日新聞は次の様に伝えています。

 

 

岸田文雄首相は2023年9月21日(日本時間22日)、訪問先の米ニューヨーク(NY)で経済・金融関係者に向けた講演を英語で行った。資産運用業への海外勢の参入促進に向け、英語のみで行政対応を完結できる「資産運用特区」の創設を打ち出しました。

 

今後は更なる取り組みとして「(資産)運用の高度化を進め、新規参入を促進する」とし、資産運用特区をはじめとした各種の規制改革を通じて、運用能力が高い海外人材の受け入れなどを積極化する考えを示しました。

 

 10月に策定予定の経済対策では「構造的な賃上げ」と「持続可能性強化のための官民投資」に重点的に取り組むと言及。「投資支援パッケージ」を年内に策定する方針も改めて示し、「我が国経済の底力と将来の計画をよく見ていただき、日本に投資いただくことを強く求めたい」と訴えました。

 

 

これはよくわからないニュースです。

 

資産運用業への海外勢の参入促進をすれば、日本人は海外の運用会社を使うべきと読めます。

 

現在は、富裕層のみが利用している海外の資産運用業を、一般の日本人が使いやすくすれば、資産は国外に逃避します。日本の証券会社を通すと、手数料をとられるので、ダイレクトに取引できれば、その方が手数料分だけ利回りが高くなります。

 

「運用能力が高い海外人材の受け入れ」は、日本の資産運用業に外国人材を登用する話です。これはジョブ型雇用の労働市場があれば、発言不要です。年功型賃金体系をとっているので、発言しても、誰も来ないと思われますが、発言不要です。

 

「日本に投資いただくことを強く求めたい」は、FDIの話のように聞こえます。日本のFDIは、北朝鮮以下の世界最低ランクです。「日本に投資いただくことを強く求めたい」と発言する前に手を付けるべきことは山のようにあります。この問題については、東証の動きが問題点の整理になっています。

 

情報が混乱していて、資産運用ウォッシングになっていることだけはわかります。

 

(C3)実質賃金ウォッシング

 

岸田首相は、新内閣の記者会見で次の様にいっています。

 

 

まず、第1の柱は経済です。成長と分配の好循環を実現するため、バブル崩壊以降30年間続いてきた減量経済、コストカット経済を脱却し、賃上げ、人への投資の促進、研究開発投資、これらを強化するといった攻めの経済への転換が少しずつ動き始めています。

 

 

ここでは、「賃上げ」が、「動き始めて」いるといっています。

 

厚生労働省が2023年9月8日に発表した7月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上の事業所)によると、1人当たりの賃金は物価を考慮した実質で前年同月比2.5%減った。マイナスは16カ月連続でした。

 

つまり、賃金は下がっています。

 

2023年9月22日のテレ朝で、日銀の植田和男総裁は次のように発言しました。

 

「(実質賃金が)マイナスのままでプラスに転じないことは私どもも非常に心配して見ている。家計にインフレが大きな負担になっている」

 

これもわからない発言です。過去のデータをみれば、インフレ時には、実質賃金はマイナスになります。

 

植田和男氏は、そんなことは百も承知で発言しているはずです。

 

岸田首相に忖度するとそうは言えないので、このような婉曲的な表現になったと思われます。

 

岸田首相が、新内閣の記者会見では触れていない不都合な真実が、生産性の向上です。

 

岸田首相は、猫理論を使うつもりはないようなので、実質賃金ウォッシングになっています。

 

(C4)尖閣問題ウォッシング

 

遠藤誉氏によると問題のスタートは、1992年の領海法です。

 

1992年2月25日、中国の全人代常務委員会会議は「中華人民共和国領海及び接続水域法」(以下、「領海法」)を採決し制定しました。日本の領土である尖閣諸島に関して、中国が「それは中国の領土である」という領海法を制定しています。この時に、日本は抗議をしていません。

 

遠藤誉氏は、尖閣問題と、親中派公明党の議員が国土交通大臣であることに関係があるといいます。

 

遠藤誉氏の2023年9月13日の発言を引用します。

 

 

「中国に寄り添う公明党」が国土交通大臣になる慣わしになっているので、中国は尖閣問題に関しては「安泰」と思っているのだ。

 

習近平政権は大喜びで、大手を振って尖閣諸島の接続水域だろうが領海だろうが、思うままに侵入できる。

 

それに対して日本は「遺憾である」以上のことを言わないし、具体的な報復行動にも出ないことを知っているからだ。

 



2023年9月20日に、直前の尖閣諸島の領海侵犯について松野官房長官は、引き続き関係省庁で緊密に連携しながら関連の動向を注視するとともに「わが国の領土、領海、領空を断固として守り抜くとの考えのもと、毅然かつ冷静に対処していく」といっています。

 

これは、遠藤誉氏の予測した「日本は『遺憾である』以上のことを言わないし、具体的な報復行動にも出ない」という対応そのものです。

 

エビデンスが全く変わらないので、霞が関文学と言われるものです。

 

中国は、福島の原発処理水に対して、水産物の輸入停止に踏み切りました。

 

アメリカに対して、ビザの発行を遅らせたこともあります。

 

外交問題で、霞が関文学を使うのは、日本だけです。

 

アメリカの議員が、霞が関文学を使えば、次の選挙では落選します。

トランプ前大領領は、政治はディールであると考えていました。

 

この思想には、問題はありますが、エビデンスを無視して、形而上学霞が関文学を繰り返すよりはましです。

 

尖閣問題がこじれたからといって、いきなり紛争を起こす訳にはいきません。

 

平和のために、水産物の輸入停止のように幾つかの外交カードを準備して、ディールの経験をつむことが重要と考えます。

 

現在の対応は、尖閣問題ウォッシングになっています。

 

16-3)まとめ

 

ウォッシングは蔓延していますが、誰も指摘しません。

 

その理由は、次回に考えます。



引用文献

 

岸田首相、「資産運用特区」創設を表明 NYで経済講演 2022/09/22 毎日新聞

https://news.yahoo.co.jp/articles/1f1b31a5a3189874cb90dd5c28ea83af8a8b0f21

 

戦略なき内閣改造ながら尖閣だけは対中譲歩 国土交通大臣公明党  2023/09/13 中国問題グローバル研究所 遠藤誉

https://grici.or.jp/4643

 

日本のEEZへの中国掘削船派遣、管轄権侵害なら受け入れられず=官房長官 2023/09/21 ロイター

https://news.yahoo.co.jp/articles/e143ad75932920e9f51e3774fb610ef0a5e7d9da



岸田内閣総理大臣記者会見ー令和5年9月13日

https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2023/0913kaiken.html

 

実質賃金「プラスに転じず心配 粘り強い金融緩和必要」日銀総裁が会見 2023/09/22 テレ朝

https://news.yahoo.co.jp/articles/272d00442f70daa279a789910e5d8c6ff2969d59