1)ブラックショールズ方程式を超えて
1973年に、ブラックとショールズはオプション評価式としてのブラック–ショールズ方程式の利用についての研究をまとめた論文を出しました。
1994年から1999年まで、ロングタームキャピタルマネジメント(Long-Term Capital Management、LTCM)は、ブラック–ショールズ方程式を活用した資産運用会社でした。
ここで、注意したいのは、理論は,1973年に出ていたにもかかわらず、理論が実装されたのは、1994年で、20年も後になっている点です。
1994年までに起こった変化は、PCとインターネットの普及です。
さらに、10年後の2004年頃には、オブジェクト指向のプログラミング言語とクラウドシステムが実装され、ブラック–ショールズ方程式を利用するのは、学部学生の演習問題にまで、レベルダウンしています。
2023年から、逆算すると、50年前の1973年に出た理論は、実装不可能でしたが、30年前に
実装が可能になり、20年、前には、誰でも使える(実装できる)基礎知識になっています。
このおうな理論が実装可能になるまでのタイムラグは短くなりつつあります。生成AIでは、数週間で大きな変化があります。
さて、日本の証券会社では、ブラック–ショールズ方程式のようなデータサイエンスに基づく金融商品を作ることができません。高度な金融商品は、欧米の企業をの商品を販売して、仲介手数料を稼いでいるだけです。
日本製の金融商品が高度な金融商品にならない理由がわかりますか。
高度な金融商品はラック–ショールズ方程式のような確率計算をして、最適なポートフォリオを算出します。
日本の金融機関は、確率計算ができないわけです。
この確率計算ができないという弱点は、高度な金融商品に限定されるものでではありません。
2)変わらない日本企業
1994年頃から30年間、平均で見れば日本企業の業績はふるわず、産業構造の変化も起こっていません。
企業では、改革案を出すと、改革案の問題点が指摘され、実行に移されることはまれだといわれます。
どうして、日本企業は変われないのかという議論が盛んです。
検索すると次のようなタイトルがヒットします。
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企業や国の対応の遅さは、日本特有の「調整文化」が原因だった
日本企業の空気が変わらない理由
日本企業が変化できない3つの原因
日本の問題は全て「老害」
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これらは、日本企業が変われない原因があって、それを探すことができるという暗黙の前提に立っています。また、その原因は取り除けるという暗黙の前提もあります。
しかし、筆者は、その暗黙の前提はナンセンスだと考えます。
日本の企業や国は、正しい対応が存在すると考えています。
これは間違いです。対応(解決法)が、正しいか、正しくないかは、対応を実施してみないとわかりません。
改革案を出すと、改革案の問題点を指摘する人がいますが、実施する前に、問題点はわかりません。つまり、未来は確定していません。
しかし、高度な金融商品のように、未来の確率計算をすることは可能です。
つまり、未来の確率計算をして、ベストなポートフォリオを組むことが科学的で合理的な経営です。
改革案の問題点を指摘する人は、確率概念が理解できていない訳ですから、企業の幹部の能力が不足していることになります。
日本の企業では、高度な金融商品のように、未来の確率計算ができる企業幹部はほとんどいません。未来の確率計算の数字自体は、企業幹部ではなく、サポート部門が算出してもかまいませんが、未来の確率計算の数字の使い方、確率的な考え方、科学的な考え方が出来ていなければ、問題外になります。
1994年から、未来の確率計算に従って、ベストなポートフォリオを組んでいる企業と、山感で経営している企業があれば、30年もすれば、差が大きくつきます。
これが、現在の日本の状態だと思われます。
高度な金融商品が開発できる科学(データサイエンス)の理解がなければ、企業業績が落ち込むことは当然です。
野口由紀雄氏は、「どうすれば日本人の賃金は上がるのか」(2022)の中で、次のように言っています。
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アメリカの雇用統計には、「経営」という産業分類がある。「経営」は、独立した産業になっている。
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これは、ビジネススクールの卒業生のことと思われます。
ブラック–ショールズ方程式が実装された、1994年ことろから、ビジネススクールには、データサイエンスの知見が取り入れられています。
高度な経営をする能力は、高度な金融商品を開発する能力に通じています。
現状では、日本の経営者の多くは、科学を理解していません。経営哲学があれば、科学は不要であるといいうカルトになっています。
そう考えると、「日本企業が変われない原因があって、それを探すことができるという暗黙の前提と、その原因は取り除けるという暗黙の前提」はナンセンスです。
3) Contextual AI
経営が確率計算の科学であると考えれば、人間より確率計算の得意なAIの方が、人間よりまともな、経営ができても当然と思われます。
Facebook AI Research(FAIR)とHugging Face の OB がパロアルトで設立したエンタープライズ向けの新しい AI(人工知能)スタートアップ Contextual AI は6月7日、新しいAIモデルの開発目標を発表しています。
このモデルのコンセプトは以下です。
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シェイクスピアや量子物理学を知っているモデルが本当にすべきことは、あなたの会社の問題を解決することなのに、なぜパラメータ、お金、レイテンシー、計算を無駄にするのか?
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つまり、企業や政府の経営を行う生成AIの開発を目指しています。
なお、未来の確率の計算は、ビッグデータのサイエンスであって、未来学ではありません。
意思決定に時間がかかれば、それだけ、結果が出るのが遅れるので、ダメージが拡大します。
時間をかけて検討すれば、確率の計算の精度があがることが予想されない場合には。ともかく、早く着手して、結果を見て、更に進むか、撤退するかを判断します。
これらは、議論以前の科学のリテラシーの問題です。
引用文献
ベールを脱いだContextual AI——Meta AIとHugging FaceのOBが設立、次世代LLM開発で2,000万米ドルをシード調達 2023/06/15 Bridge
https://thebridge.jp/2023/06/contextual-ai-20m-artificial-specialized-intelligence