中国の科学技術

1)中国で起こっていること

 

2023年4月15日のNewsweekで、河東哲夫氏は次のように論じています。(筆者要約)

 

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中世までの中国は西欧をしのぐ経済発展を遂げていたが、そこから産業革命が生まれることはなかった。その原因は、中国には、企業家精神・起業マインドが、欠けていたからである。

 

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河東哲夫氏の理解は典型的な人文的文化です。

 

ルネッサンスとともに、科学革命がスタートします。中国は、科学の方法を採用しませんでしたので、西欧に追いつくことはできません。

 

現時点で、最も効率よく技術開発をする方法は、科学の方法ですから。

 

中国に、産業革命が生まれなかったことに、マインドなどの精神論を持ち出す必要はありません。

 

今から、5年前の2018年に、NHKは、中国の科学技術の特集を組んでいます。

 

その中で、「中国は国を挙げて科学技術力の強化に取り組んでいる。中国の習近平国家主席は、『科学技術力をたゆまず増強させれば、中国経済はもっと発展できる』と繰り返し強調している」といっています。

 

この特集は、科学技術予算の不足を指摘していますが、その指摘には、エビデンスはありません。

 

Wikipediaの「Science and technology in China」の一部を引用します。(筆者要約)

 

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中華人民共和国国務院は1995年に「科学技術発展の加速に関する決定」を発表し、今後数十年間の科学技術の発展計画を作成しました。それは科学技術を主要な生産力と表現し、経済発展、社会的進歩、国力、生活水準に影響を与えるとしました。科学技術 は、市場のニーズと密接に関連する必要があります。国家機関は、科学技術の発展が産業界に届くように、中国または外国のベンチャーキャピタルと合弁事業を設立する必要があります。科学技術 の研究者のポスト流動的になり、給与は経済的成果に連動し、年齢や年功序列は重要ではなくなるはずです。公務員は 科学技術 に対する理解を深め、意思決定に 科学技術を組み込む必要があります。共産党の青年組織、労働組合、マスメディアを含む社会は、知識と人間の才能の尊重を積極的に推進する必要があります。

 

過去 10 年間、中国はイノベーション インフラストラクチャの開発に成功しました。国の多くの地域に 100 を超える科学技術パークを設立し、国有部門以外の起業家精神を奨励しています。

 

中国の大学は、非常に大きな割合の特許を提供しています。大学は研究開発費の約半分を民間企業から受け取っています。

 

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これを読めば、問題は予算だけではないことがわかります。

 

2018年から5年経ちましたが、この問題は、全く先に進んでいません。

 

これは、「意思決定に 科学技術を組み込」まれていないことを示しています。

 

「意思決定に 科学技術を組み込」むことは、パースが、The fixation of belief で取り上げたテーマです。

 

中国は、生成AIを発表していますが、日本の企業には、生成AIをつくる技術力はないと思われます。

 

少なくとも、2023年4月現在で、ロードマップを提示した企業はありません。

 

2)科学的な意思決定

 

ITmediaによると、東芝は、国内企業の出資と金融機関の融資により資金を調達する日本産業パートナーズ(JIP)の買収提案を受け入れ、上場廃止に向けて動き出しています。

 

粉飾発覚前(2015年3月期)に比べ、東芝の売り上げは6.6兆円から3.3兆円(2022年3月期)と半減し、従業員数は20万人から11万6千人と約4割減っています。



東芝は、  2017年に、米投資銀行経由で出資者を募り、60社から、6000億円を調達しています。

 

旧「村上ファンド」の村上世彰氏は、「企業は株主のために、利益を上げなければならない。それが嫌なら、上場をやめてプライベートカンパニーになるか、利益を資金の出し手に還元しない非営利団体として社会貢献を主軸に置く、などの選択をするべき」といいます。

 

これは、資本主義と株式会社の基本です。

 

アクティビストは、利益の使途は、「株主還元」か「成長投資」のみと考えます。

 

ITmediaは、これはおかしいという論調です。ITmediaは次のように書いています。

 

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アクティビストは、調査・分析能力が高く提案が的確だ。「企業経営者の尻を叩く役目を担っている」と主張する識者も少なくない。だが、今回は、経営の足を引っ張る悪例となってしまったようだ。

 

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しかし、アクティビストを納得させる提案ができないことは、経営能力が低いことを意味します。

 

ITmediaは次のように言っています。

 

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株主の考えが異なるからだ。中長期的視点で判断する国内機関投資家と、短中期的な利益を志向する海外投資家(物言う株主=アクティビスト)で意見が割れる。

 

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しかし、1990年以降の日本企業のパフォーマンスの低さをみれば、とても「中長期的視点で判断」しているというエビデンスはありません。

 

東芝凋落の発端となったウェスチングハウスは、2017年3月に経営破綻しています。

 

東芝保有するウェスチングハウス関連債権9100億円は、およそ「7割引き」の2400億円で米資産運用会社に、保有株式は「1ドル」(実質無償)でカナダ投資ファンドに売却しました。

 

2022年のウクライナ戦争によるエネルギー価格高騰で、原発が再評価され、カナダのウラン採掘大手「カメコ」がウェスチングハウスを「1.1兆円」で買収しています。

 

これを見ると、東芝が、「中長期的視点で判断」しているというエビデンスはないことがわかります。

 

調査・分析能力が高くない人が、CEOになれば、企業は傾きます。

 

東芝の従業員数が、20万人から11万6千人と約4割減ってということは、普通に考えれば、人材流出は完了していると考えられます。

 

NHKは、中国と日本のの科学技術との差を科学技術予算の不足で説明していましたが、日本産業パートナーズも、同様の思考パターンになっているように見えます。

 

  2017年時点であれば、東芝にも優秀な人材はいたと思いますが、2023年には、優秀な人材の数は激減しているはずです。

 

2000年代に、中国は、流出人材を呼び戻すために、年収5000万円以上を提示しました。

 

日本企業が、そのようなジョブ型雇用ができなければ、中国の科学技術に追いつくことはないと考えます。



引用文献

 

中世の歴史が物語る中国の先行き 2023/04/15 Newsweek 河東哲夫

https://www.newsweekjapan.jp/kawato/2023/04/post-124.php



“科学技術強国”中国の躍進と日本の厳しい現実 まるわかりノーベル賞2018 NHK

https://www3.nhk.or.jp/news/special/nobelprize/2018/tokushu/tokushu_01.html

 

東芝はどこでしくじったのか 上場廃止と「物言う株主」排除が意味すること 2023/04/16 ITmedia

https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2304/14/news174.html