1)毛沢東のスズメ
1958年から1961年にかけて、中国は大躍進政策を掲げ、工業化と農作物の増産を目的としたキャンペーンを実施しました。その中に、国内の四大害虫(ネズミ、蚊、ハエ、スズメ)を駆除する「四害駆除運動」がありました。
スズメは穀物を食べるとして、対象となりました。
スズメは農作物に害を与えるイナゴ等の昆虫を捕食します。捕食者であるスズメを排除したため、イナゴが増えて、農業に壊滅的な打撃を与えました。
工業化と農作物の増産計画は杜撰で、データの捏造が横行しました。
データがないので、今となっては、何が失敗の主要因であったかは、よくわかりません。
大躍進政策の結果、米の生産を中心に多くの凶作と生態系の荒廃が起こり、少なくとも2000万人以上の死者を出します。
その後、中国はソ連から25万羽のスズメを輸入します。スズメが生態系に戻ってきた結果、イナゴの個体群は減少し、凶作は収まっていったと言われています。
2)エコシステムの考え方
毛沢東のスズメから学ぶことは、エコシステムの考え方をしなければ、副作用が出るということです。
現在では、ビジネスの世界でも、エコシステムの重要性が認識されています。
シリコンバレーや仁川は、技術開発のエコシステムを形成しています。
1990年頃まで日本では、秋葉原が電子部品のエコシステムを形成していましたが、現在では、失われています。
1960年の大躍進頃の生態学は、種の生態学でしたが、生態学は、現在は、エコシステム生態学に発展しています。
省庁の縦割りは、エコシステムの相互関係を無視していますので、非科学的な対応です。
森林を伐採して、太陽光パネルを設置すれば、生態系が破壊されます。生態系の破壊が全て悪いと決めつける訳ではありませんが、どこかに、許容できる均衡点があるはずです。
単品の補助金をばら撒く政策メニューは、エコシステムを無視していて、科学とは相容れません。
水産資源は、壊滅状態です。その理由は、毛沢東のスズメと同じで、エコシステムを無視しているからです。
原因がエコシステムの変質にある場合、温暖化、海洋汚染など、一つの要素が原因にはなりません。悪者は1つであると、分かり易いのですが、それは、バイナリーバイアスが卓越して、科学的な理解ではありません。
“たった1つの〇〇”本は、ベストセラーを作る方法ですが、これは、バイナリーバイアスを煽れば、本が売れることを意味しています。
”99%の〇〇は、〇〇していない1%の”というバリエーションもあります。
実は、政府の政策も、毎回、たった1つの政策に補助金をつけている訳で、“たった1つの〇〇”本と同じ非科学的な思考パターン(ズボラ思考という人もいます)になっています。
選挙になると、候補者は、政策問題を取り上げて、「〇〇問題を解決します」といいます。候補者は、対象とする問題に対する適切な因果モデルを持っている訳ではありません。
当選すれば、「〇〇問題を解決する事業」の予算にお金を付けるだけです。
つまり、候補者は、問題解決能力をもっていません。
病気になったときに、入院費用を補助してもらえば、経済的には楽になりますが、病気が治る訳ではありません。
政治家は、問題解決ができなくとも、「〇〇問題を解決する事業」の予算にお金を付ければ、選挙に当選できると考えています。
「『〇〇問題を解決する事業』の予算にお金を付ければ、選挙に当選できる」というのは、言霊信仰であって、科学ではありません。
効果がない「〇〇問題を解決する事業」の予算にお金を付ければ、日本はどんどん貧しくなります。
これが、日本の現状です。
つまり、日本の一人当たりGDPが増えないこと、少子化が止まらないことは、科学のリテラシーの欠如に原因があります。
3)帰納法の間違い
日本の政治のレベルは、毛沢東のスズメと変わりません。
「『〇〇問題を解決する事業』の予算にお金を付ければ、選挙に当選できる」という事実があったとします。
帰納法では、このルールがあたかも法則であるかのように取り扱われます。
しかし、帰納法は間違った推論です。
4)ビーグルOSの例
自動車を構成するソフトウェアのコード数は、急激に増加し、2025年頃には自動運転などを装備すると、6億行になるともいわれています。
この問題に対処するため、まず、ソフトウェアとハードウェアを分離します。次に、開発工程として、ソフトウェアを優先し、その後でハードウェア設計する方法を、ソフトウェア・ディファインド・ビークル(以下、SDV)とよびます。
SDVを使えば、工場を建設する前に、ソフトウェアでバーチャルな工場を作って、パラメータを変えて、工程を検討して、ベストな組合せを見つけてから、工場を建設します。
既に、テスラはこの方法で、コストダウンに成功しています。
ソフトウェアとハードウェアをつなぐプラットフォームとしての車載ソフトウェアは、ビークルOSと呼ばれます。
4-1)フォルクスワーゲン
フォルクスワーゲンは2021年7月、「NEW AUTO」戦略を発表し、同社のソフトウェア子会社CARIADが、2025年にビークルOS「E3 2.0」を投入すると説明しました。
4-2)トヨタ
トヨタは、子会社ウーブン・プラネット・ホールディングスで、ビークルOS「Arene(アリーン)」を開発しています。
ウーブンプラネット(現在のウーブン・バイ・トヨタ)のジェームス・ カフナーCEOは、2025年に導入予定の次期SUVで、トヨタが目指していたArene(アリーン)のソフトウェアアップデート案件の多くが間に合わないといっています。
4-3)ホンダ
本田技研工業(ホンダ)は、2023年4月26日の説明会で、独自の車載OS「ビークルOS」を開発し、2025年に北米市場に投入する中大型EVから採用する方針を発表しました。
ソフトウェア独自開発のため人材採用は倍増する計画です。社内には新たにUX・デジタルサービス領域を統括するポスト「グローバルUXオフィサー」を設けます。
4-4)GM
GMが2021年9月にビークルOS「Ultifi(アルティファイ)」を発表し、2023年に次世代車へ搭載すると発表しましした。
GMは2023年3月7日、次世代の先進運転支援システム(ADAS)「Ultra Cruise」を開発中で「Cadillac CELESTIQ」に搭載するケースでは、運転シナリオの95%でハンズフリー運転が可能になると発表しました。
4-5)ベンツ
メルセデス・ベンツもビークルOS「MB.OS」を開発中で2024年に搭載予定としています。
MB.OSのパートナーにはNVIDIAが含まれ、ソフトウェア、データ、AIの専門知識、およびベンチマークSAEレベル2およびレベル3自動運転システムを強化するOrinシステムオンチップを提供します。
また、車両バリエーションには、ルミナーのLiDAR(Light Detection and Ranging)センサーを含む次世代センサーが搭載される予定です。次世代カーナビゲーションの開発・実装に向けたグーグルとの新たな長期的戦略提携を発表しています。
MB.OSの前身である第3世代のMBUXは、2023年7月に新型Eクラスですでに利用できています。Android用の新しいMBUX APIにより、サードパーティ製アプリのインストールが可能になり、ミラーリングされたアプリと比較してより優れたユーザーエクスペリエンスを提供しています。
4-6)アーム
ソフトバンクGの子会社英アームは、ソフトウェアフレームワークプロジェクト「SOAFEE(Scalable Open Architecture For Embedded Edge、ソフィー)」を発表ています。このプロジェクトには、前述のウーブン・プラネット・ホールディングスやCARIADに加え、AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)、ボッシュ、コンチネンタルといったメガサプライヤーなども参画しており、興味深い動きといえます。
4-7)RedHAT
RedHATは、Androidと同じレベルと思われますが、ビーグルOSに対応をはかっています。
4-8)まとめ
ビーグルOSは、帰納法の間違いの例です。
トヨタは、2023年4月、佐藤恒治社長の新体制に移行しました。
これから、帰納法で考えると、豊田章男前社長に代って、佐藤恒治社長は何をするかという発想になります。
一方、アブダプションで考えれば、EVの制する会社は、ビーグルOSを制する会社になります。
ただし、同じ、ビーグルOSといっても、内容は様々なので、吟味する必要があります。
2023年7月の時点で、ビーグルOSで、先行しているのはテスラです。
ベンツが、その次を走っているように思われます。
ベンツのGISはGoogleに依存しています。自動運転のルート選択は、GoogleMapの技術を使っています。
筆者は、トヨタのカーナビを使っていますが、GoogleMapに比べると、登録されている地物の数が少ない上に、ルート選択のアルゴリズムにバクがあって使えません。
トヨタが、ビーグルOSを開発できるか否かは、佐藤恒治社長ではなく、ジェームス・ カフナーCEOにかかっています。
トヨタの苦戦をみると、ホンダが、2025年に独自の車載OS「ビークルOS」を北米市場に投入するという見通しは、あまいように見えます。
ジェームス・ カフナーCEOは、Googleからヘッドハントされています。
PCのOSは、Linux、Windows、MacOSの3つだけです。
OSの世界では、生きのこるOSは、2つか3つであるというのが常識です。
Twitterには、今まで、類似の競争力のあるSNSはありませんでした。メタが、Threadsを投入しています。
マスク氏がTwitterの経営に携わるようになってから、Twitterは難局が続いているという評価もあります。しかし、マスク氏も、ザッカーバーグ氏も、ソフトウェアエンジニアの目利きです。カフナー氏は、トヨタやホンダの日本人幹部に比べれば、かなりのソフトウェアエンジニアの目利きだとは思いますが、それでも、開発が遅れています。
帰納法で考えると今まで、年功型で、幹部を専攻してきたので、これからも、同じ方法をとることになります。しかし、アブダプションで考えると、日本人幹部には、ソフトウェアエンジニアの目利きはいませんので、これは、禁じ手になります。
つまり、帰納法は、まちがった推論になります。
引用文献
【メルセデスベンツ Eクラス 海外試乗】伝統と革新の新たなる架け橋とは、こういうことか…クルマ情報 2023/07/31 Gazoo 渡辺敏史
https://gazoo.com/car/impression/res/23/07/31/r373803/
メルセデス・ベンツ、独自OS「MB.OS」開発でグーグル、NVIDIA、ルミナーとタッグ 2023/02/14
電気自動車時代ではソフトウェアが収益源に 2022/04/25 マクネリ
https://media.monex.co.jp/articles/-/19204
「クルマ屋を越えられない、それが私の限界」 豊田章男が出来なかったことと託した使命の中身 2023/07/28 現代ビジネス 中西孝樹
https://gendai.media/articles/-/113761?imp=0
ソフトウェア・デファインド・ビークルで運転の未来を築く
https://www.redhat.com/ja/solutions/automotive
クルマの基盤ソフトを構築へ、世界の自動車メーカーがしのぎを削るわけ
https://media.datafluct.com/car-software-trend/
ホンダ、独自の「ビークルOS」開発へ 25年投入目指し人材採用を倍増
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2304/26/news176.html
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00050/00135/
How Killing Sparrows Led to Great Famines in China 2023/01/27 Carl Seaver
https://www.historydefined.net/how-killing-sparrows-led-to-one-of-the-greatest-famines-in-history/
スズメの大量駆除が中国で大飢饉を引き起こした理由とは? 2023/04/23 Gigazine
https://gigazine.net/news/20230423-kill-sparrows-led-great-famines-china/
1500万人以上が飢餓で死んだ…毛沢東の指示で「1億羽のスズメを一斉駆除」した中国で起きたこ 2023/07/29 PRESIDENT
https://news.yahoo.co.jp/articles/2788a858e756fc37673005e27471d4094cc093c0