(因果関係が複雑になると、AB命題では表現できなくなります。その場合には、帰納法では、因果関係を推測できず、仮説に基づく、科学理論のアプローチが欠かせません)
日本の水産資源管理では、漁獲量の変化を見て、不漁かどうかで、環境の状態を判断しています。データに基づく帰納法を使っています。
これは、Heysらのパラダイムでは、科学理論の前のパラダイム(非科学的な方法)に相当します
1)AB命題
本書では、「IF A then B」の命題をAB命題と呼んでいます。
これは、原因が1つ、結果が1つの場合の命題です。
図1は、AB命題のデータを表しています。
Aが原因で、Bが結果になります。
三角は、観測を表しています。求めたいピークの位置は赤い矢印で書かれています。
観測値は、この上を外していますが、矢印の左右の三角であれば、効果がみられています。
一般には、この2本の赤矢印の順方向で問題が解かれることは稀です。
例えば、Bが、環境汚染が発生した場合、Aに原因を探します。
その場合には、三角の位置が問題になります。
仮に、Aが原因でも、Bの値が小さいところだけに三角を外しまくると、Aは原因ではないと判断されます。
2)AXB命題
AXB命題は、次の形をとります。
IF (A and X) then B
図2は、AXB命題のデータを示しています。横軸が、Aで、縦軸がXです。
Bは画面に垂直な高さ方向になるので、色で示しています。青い円が効果のある部分です。
三角は、観測を表しています。今回は、効果がみられる三角はひとつだけです。
つまり、原因がA、ひとつから、AとX2つに増えただけで帰納法では原因を探すことが困難になります。
Europian native oysterの生息環境の表は、13行あります。つまり、原因はA以外にX(1)、X(2)、...、X(12)まであります。
こうなると、帰納法で原因を求めることは不可能です。
データを並べて、そのデータを眺めて、帰納法で、法則がもとまるのは、AB命題の場合だけです。
AXB命題で、Xの次元があがると、この方法で法則を求めることは不可能です。
この壁を越えるためには、まず、仮説ありきで、計測してデータを収集するアプローチをとらなければなりません。
3)エコシステムの概念
エコシステムの概念は、ニュートンの法則のように数式では表現されませんが、絶対的な法則です。各生物は単独で生息するのではなく、ネットワークを形成して、全体として生態系を構成しています。
生態系は、実は、ニュートンの法則と同じように、微分方程式で記述されます。
ただし、式の数は多く非常に複雑です。そこには、物理方程式、化学反応式、生物捕食関係などが含まれます。
AXB命題の因果関係は、生態系を考えることで、仮説をつくることが可能になります。
Europian native oysterの生息環境の表は、こうして作成しています。
そのとき、重要なポイントは、生物種ごとに共通性があるということです。
ここでは、牡蠣をターゲットにして、生態系を解明して、因果にかかわるパラメータを求めています。
この結果を、少し変更すれば、牡蠣以外の貝についても、同じような因果関係が求まります。
つまり、環境復元の方法には、共通性があると考えられています。