2つの政策ベクトル

1)鉄のトライアイングルの政策ベクトル



与党の政治家、与党の支援団体に属する企業と、その企業に天下りする官僚は、鉄のトライアングルを構成しています。

 

1960年代に、農業から工業への工業化の過程では、鉄のトライアングルのベクトルは、工業化を目指していました。与党の支援団体には、農家や農協もありますが、農家は、都市の工場への人材の供給源でした。農業から工業に産業構造が変化すると、労働生産性が上がります。さらに、冷戦があって、日本の工業製品は、輸出競争力があり、外貨を稼いでいました。

 

工業化に対して、人口が減少する農家が与党を政治支援するのは、一見すると困難に見えます。しかし、工場で働いている労働者は、農家の子供です。都市であげた収益を農村に再配分することは、親の住んでいる田舎に所得移転することなので、都市労働者の支持が得られました。農村では、所得移転により本来は農業だけでは、稼げない収益が移転されたので、与党を支持しました。

 

形式的には、都市労働者が、農村への所得移転を支持する理由はないように見えてますが、そこには、出稼ぎ構造がかくれていました。

 

こうした農村への所得移転が明確になったのは、1970年代の田中内閣からです。田中内閣は、選挙で圧勝しますが、工場が農村にも進出して、経済成長率が落ちます。これは、拡大再生産のルールを農村にまで広げたので、波及効果が減速したためです。



1980年代になると工業化に翳りがでてきます。中国とロシアと東欧が資本主義経済圏にはいってきます。単純な工業化はいきづまります。

 

つまり、この時点で鉄のトライアングルの工業化促進のベクトルは、経済成長の実態に合わなくなります。

 

さて、課題はここからです。

 

1980年代末期には、既に明確になっていた鉄のトライアングルの工業化ベクトルを軌道修正することができたのでしょうか?

 

現在の世界のレジームシフトは、工業化ではなく、情報化のベクトルです。

 

情報化のベクトルを採用しなければ、労働生産性があがらず、どんどん貧しくなります。

 

2)マイナンバーカードの政治学

 

沈没した英豪華客船タイタニック号の残骸を見るツアー中に潜水艇「タイタン」が事故を起こして乗客が死亡しました。

 

署名した免責同意書には死亡する可能性について、最初のページだけでも3カ所に書かれていたようです。

 

免責同意書は常に有効とは限らず、十分に開示されていない重大な過失や危険を示す証拠がある場合には、判事が免責条項の適用を拒否することも珍しくはないそうです。



マイナンバーカードのシステムには、ITベンダートの契約には、免責同意書がついていたと思われます。

 

しかし、最初から、わかりきったバクを無修正のまま、システムを提供した場合には、免責同意書は無効になるはずです。

 

これは、最初から不良品であることがわかっている商品をあたかも、問題がないように偽って販売すれば、詐欺になるのと同じ論理です。

 

銀行口座とマイナンバーカードの氏名は、対応可能なIDではないので、照合が不可であることは最初からわかっていました。

 

つまり、この点については、免責同意書は無効なはずです。

 

GoogleマイクロソフトのようなアメリカのIT企業が、マイナンバーカードのようなエラーを引き起こすことはありません。

 

Windowsや、アンドロイドで、マイナンバーカードレベルの問題が生じていれば、Googleマイクロソフトも今頃はつぶれています。

 

Windowsが出始めのころ、IBMは、OS2を立ち上げましたが、結局、Windowsに勝てずに、PCから撤退しています。

 

これは、マイナンバーカードのシステムを内容本意で発注すれば、日本のITベンダーが受注することは、できなかったこと意味します。

 

コロナウイルスCOCOAも似たようなものでした。

 

つまり、マイナンバーカードの政治学のベクトルは、工業化のベクトルだということです。日本のITベンダーは工業化のレベルに止まり、情報化のレベルをクリアしていません。

 

ITベンダーは、与党の支援団体を構成し、官僚の天下り先を提供しています。

 

こう考えると、マイナンバーカードを受注する企業は、企業の能力とは別のところで事前にきまっていたと思われます。

 

デジタル庁の仕事は、今後も、マイナンバーカードの受注を、国産ITベンダーが受注できるようにすることです。言い換えれば、アメリカのIT企業のような情報企業が、マイナンバーカードの仕事を受注するのではなく、日本のITベンダーのような工業型の情報企業が、マイナンバーカードの仕事を受注し続けられるようにすることです。

 

保険証のマイナンバーカード化の見直しは、マイナンバーカードの仕事をアメリカのIT企業のような情報企業が、受注する可能性を高めます。なので、何としても阻止することになります。

 

デジタル庁は、キーワードの上では、受けのよいDXを口にします。しかし、その業務内容は、鉄のトライアングルの工業化のベクトルの向きを変えないことです。つまり、デジタル庁は、要求された仕事を完全にこなしています。

 

工業化のベクトルの向きが変われば、与党は献金と選挙の支持を失い、官僚は、天下り先を失うから、それを阻止することが、至上命題です。

 

2013年のアベノミクスでは、構造改革が第3の矢でしたが、全く進みませんでした。その結果、鉄のトライアングルは保持されましたが、労働生産性は、日本だけが、まったく上がりませんでした。

 

これを安倍政権は、仕事をしなかったと評価するマスコミが多いのですが、鉄のトライアングルを維持するために、ほぼ、完璧な仕事をしたと判断することができます。

 

もちろん、デジタル社会へのレジームシフトが進んでいるなかで、工業化のベクトルを維持しつづければ、日本の経済はどんどん落ち込んでいきます。しかし、それは、最初から予定されたシナリオになっています。



引用文献



タイタニック号ツアー潜水艇、免責同意書1ページ目に死亡の可能性3カ所も 遺族が運営会社提訴の可能性 2023/06./23 Newsweek

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2023/06/1-263.php