(ジョブ評価は、第1に問題解決に必要なスキルで決まります)
1)ヘッジファンドのショートポジション
海外のヘッジファンドは、いま成立している国債の先物価格よりも、将来の時点における現物価格が安くなるだろうと予想している。そこで、先物売り(ショートポジションを取って)をしています。
近い将来において国債の価格が下落する(金利が上昇する)と、国債のショートポジションを取っていたヘッジファンドは、目論見どおり、巨額の利益を得ます。
この利益は、日本の税金かた支払われることになり、国民負担になります。
2)日銀の勝率
一般には、中央銀行の政策には、資金制約はありませんので、ヘッジファンドが中央銀行に勝てることは稀です。
ジョージ・ソロス氏は1992年、英国政府が長期に渡って人為的に操作していたポンド高政策が失敗し、ポンドが必ず暴落すると確信していました。ソロス氏は100億ドルの空売り注文を出し、1晩で10億ドルの利益を上げ、最終的には約20億ドルの利益を得ています。
ヘッジファンドは、ブラック–ショールズ方程式で有名になった統計確率モデルを駆使して、ポジションを設定しています。その中には、日銀が買い支えできなくなるリミットも織り込まれています。
対する日銀は、統計確率モデルを駆使しているとは思えません。
これは、アルファ碁に対して、人間の棋士が対戦しているようなもので、データサイエンスで考えれば、勝率は限りなくゼロに近いです。
3)統計確率モデルのスキル
1976年に、OECDは、調査団報告「文部省の日本の社会科学政策」の中で次のように言っています。
「日本の社会科学者の多くは国際水準の研究の進展について行くことができず,西洋の書物から得られた一般的原理を学生に教えるだけで,組織的な経験的研究を欠き,経済学をのぞいては政策形成にも参加していない」
経済学は、社会科学の中で、政策形成にも参加しているとう評価です。
それでは、最近の経済学は、どのように政策形成に参加しているのでしょうか。
筆者には、日銀の金融緩和政策については、継続的に政策形成に参加しているようにはおもえません。
金融緩和政策は10年近く効果があがっていません。これは異常な事態です。
バブルのあとケインズ政策をとって、公共事業を拡大しても、経済効果が生じなかったときには、ケインズ政策の見直しが行われました。
3年または、5年経っても、効果が上がらい金融政策がさらに継続され、それに対して、経済学者が表立った意見を述べているようにはみえません。
最近ある経済紙に、著名な経済学者が、次のようなコメントを書いています。
「ケインズによって葬り去られたはずの新古典派の均衡理論を、浮世離れした数理経済学の世界ならともかく、まさか現実の経済に当てはめる経済学者が現れようとは誰も想像していなかった」
この著名な経済学者は、数理経済学を浮世離といっているので、計算科学に対しては、否定的です。まして、データサイエンスの視点でモノをみている様子は全くありません。
つまり、「ヘッジファンドの統計確率モデルに対抗できるスキル」はないことを意味します。
ジョブ型雇用であれば、「ヘッジファンドの統計確率モデルに対抗できるスキル」を持っている人を雇用し、スキルのない人はレイオフすることになります。
そうしなければ、「ヘッジファンドの統計確率モデルに対抗」できません。
「ヘッジファンドの統計確率モデルに対抗できるスキル」をにはどれ位の給与を払うことになるでしょうか。
香港で簡単にビザが得られる高度人材の給与は、年収4000万円からです。
つまり、「ヘッジファンドの統計確率モデルに対抗できるスキル」の人の年収は、最低4000万円以上です。
この給与レベルを考えると、年功型賃金の日銀や大学に、「ヘッジファンドの統計確率モデルに対抗できるスキル」をもった人はいないと思われます。
ジョブ型雇用に移行しなかった結果、1992年の英国政府の失敗が繰り返される確率が高いと思われます。
4000万円以上は安くはありませんが、金融政策の失敗によって、国民が支払う数十兆円に比べれば、比較なりません。
引用
日本人は国債の投機で誰が損するかわかってない 2023/01/22 東洋経済オンライン 野口 悠紀雄
https://toyokeizai.net/articles/-/646928