(料理は科学になるべきです)
2023年1月10日、コペンハーゲンのレストラン「ノーマ(noma)」が、2024年末で通常営業を終えると発表しました。開業以来20年間、「世界のベストレストラン50」で世界1位を5回獲得、ミシュランも3つ星でした。ノーマは、斬新なメニューを提供することで、料理やレストランのあり方においても世界にさまざまな影響を与え続けてきました。
背景には、高級レストランの過酷な労働の実態があるようです。
北米の超高級店を舞台にした「ザ・メニュー」(2022)などの映画を通して、厨房の実情が一般にも関心がもたれるようになったことが影響しているという人もいます。
ボーン・タン氏は、「調理には『暗黙知』、つまり言葉では説明し難いコツや極意がある」といいます。
しかし、筆者は、この意見には賛成できません。
「コツや極意」を習得すれば、優秀なシェフになれるというのは、伝説であってエビデンスはありません。
例えば、料理で加熱する場合、食材の温度、食材の比熱、気温(厨房の室温)を考える必要があります。その他に、湿度、気圧も効きます。
有能なシェフがこれらすべてを考えて調理していると言いますが、パラメータの数は人間の脳の容量を超えています。
なので、実際には、どこかで簡略化しているはずです。
料理が成功する条件は、食材の温度です。それも、表、裏、内部の温度を分けて考える必要があります。
例えば、「外側を90度、内側を70度に加熱して、その温度を20分維持する」ためには、ヒーターの温度とファンの回転数をどのように制御すべきかは、数学の逆問題になります。
本来は、オーブンは逆問題をといて、食材の設定温度を入力すれば、食材が設定温度になるように、ヒーターとファンを調整すべきです。
残念ながら、そのようなまともなオーブンは今のところ販売されていません。
オーブンで設定できるのは、ヒーターの温度だけです。
このように考えると、料理に、「コツや極意」が必要であるのは、料理が科学になっていないためです。
全ての食材の逆問題を解くのはハードルが高いので、最初は、使用頻度の高い食材で、基準化された形状のものからスタートすることになると思います。食材の形状は、3Dスキャナで計測する必要があるでしょう。
カメラの非球面レンズは、以前は職人が磨いていました。現在は、機械が磨く以外に、圧縮成形など3種類の製造法が開発され非常に安価になっています。
料理の自動化、科学化は、利用者が多いので、ビジネスモデルとしては、大きなマーケットがあります。
科学的には、シェフの感覚より、センサーを多投入した方がモニタリング精度は高いに決まっています。
ロボットシェフであれば、顧客の好み、体調に合わせて、料理を一人前ずつ調整することも容易です。
なお、真逆の世界もあります。
地元の素材で作った料理は美味しいという伝説で、道の駅などで見かけるワンパターン料理です。
ノーマや、エル・ブジは、基本は、同じ料理は繰り返さないと思いますが、同じ料理を繰り返すだけというのも興ざめです。
ノーマは、食事のために、コペンハーゲンに行くという観光需要を引き起こしました。
日本でも観光振興を考えている地域が多数ありますが、料理については研究不足に思われます。
引用文献
「革新と効率は両立せず」──世界最高峰のレストラン「ノーマ」の「持続不可能宣言」と前向きな閉店 2022/2/2 Newsweek ボーン・タン
https://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2023/02/post-100757_1.php