(リスキリングで、学習してはいけない内容があります)
11)リスキリングの限界
リスキリングが話題になっています。
ところで、スキルを学習することには所得の効果があるでしょうか?
不思議なことに、リスキリングの議論では、リスキリングの生産性の向上効果が議論されていません。
リスキリングによって生産性が上がる条件は次の2つです。
(1)ソフトウェアエンジニアのような生産性向上に寄与するツールを開発する能力を得ること
(2)その能力は、AIなどのコンピュータによって代替できないこと
一般には、2番目の条件が考慮されることが少ないように思われます。
11-1)学習してはいけないこと
1番目の生産性の向上に寄与する条件は、金利に似ています。預金金利が、0.1%の銀行と、5%の銀行があれば、どちらに預金すべきかは明白です。
義務教育は、9年間、高等学校まで入れれば、12年あります。ここで、学んだ内容が、日本の社会のリテラシーの基本になります。ここで将来の生産性アップ(給与アップ)につながる内容を学習できれば、日本の労働生産性があがり経済成長が可能になります。逆に、生産性アップにつながらない内容を学習すれば、経済成長を阻害します。これは、小さな差が将来を大きく変えていく点で金利に似ています。
2022年4月からは高等学校で「情報I」がスタートしています。これも、将来の生産性アップ(給与アップ)につながる内容を学習させる流れと思われます。
2番目の条件に当てはまるスキルは、コンピュータによって代替されるので、学習してはいけません。
つまり、学習しても効果のないことは学習してはいけません。
これは、コンピュータ以外でも当てはます。
100メートルの短距離走で、世界記録を達成することは、デモンストレーションとしては偉大ですが、自動車や飛行機には勝てませんので、一般の人は、短距離走の練習(スキルの習得)は健康法の範囲に止めるべきです。短距離走が得意でも、高い収入には繋がりません。
コンピュータのAIが出てきたことで、体力勝負ではなく、頭を使う分野においても、学習していけない分野が出てきています。
こうした学習しても、収入に繋がらない分野の学習は、健康法やボケ防止にトレーニングすることと割り切るべきです。
実は、この部分には、非常に大きな問題が残っています。
入学試験の不正に、スマホをつかった検索が起こります。
スマホを使った検索の不正は、コンピュータができることが、人間ができることに優っているために起こります。
それは、試験問題が、AIなどのコンピュータによって代替できることをテストしていることを意味します。
実際の仕事の現場では、スマホを使わないことは考えられません。
無人島に島流しになったような状態で、少ない内容を確実に記憶しているかをテストすることはナンセンスです。
試験問題が、問題文のキーワードをググれば解けてしまうレベルの問題であれば、人間より、コンピュータの方が高いスコアをはじきだします。
リスキリングで、主要な経済誌は、資格取得のブームを盛んに煽っていますが、これは、学習してはいけない内容です。
11-2)論理と科学
義務教育のカリキュラムの目的に、論理的に考える力を養うという目標があります。
これは、人文的文化の目標です。
論理的に考えても、科学にはなりません。
科学的文化では、数値化と検証プロセスが不可欠です。
論理的に考えても、結果の間違いが起こります。
このため論理的に考えることは、生産性の向上にはつながりません。
11-3)教科書とマニュアル
コンビニなどで使われているマニュアルに従って行う仕事は、ロボットにとって変わられます。
一方、コンピュータブログラマが使うプログラム言語のマニュアルは、辞書のようなもので、それを見ても定型的な仕事が出来る訳ではありません。
教科書とはなんでしょうか。
コンピュータブログラマが使うプログラム言語のマニュアルには似ていません。
Erwin KreiszigのAdvance Engineerign Mathematicsという教科書があります。
これは、驚くべき名著です。
その理由は、普通の学生が躓く部分を先回りして解説してあるからです。
他の本を読んで、釈然としないときに、この本を見ると、理解の助けになることが書かれています。
教科書といっても、レベルの幅があるので。一概には、論じられません。
ただし、教科書を選ぶことが重要であることは確かです。
教科書には、AIやロボットに代替されないような内容を学習できる配慮を期待します。
11-4)リスキリング以前
2023年1月に、衣料品店「ユニクロ」を運営するファーストリテイリングが年収を最大で4割引き上げる大幅な賃上げを決めました。
これは、世界で通用するジョブ型雇用を展開するためです。
岸田首相のリスキリングは、日本だけのリスキリングです。
2023年1月現在、日本の企業の多くは依然として春闘や統一賃上げに動いています。
過去30年間日本独自の対策をといい、その結果、目ぼしい改善はありませんでした。
スノーの言い方をすれば、人文的文化の人に、科学的文化の説明をしても、通じないのです。
これは、WEBの経済紙や経営紙のサイトをみればわかります。
「○○の理由」といった記事が多くあります。
こうした記事があげている原因は1つだけです。
理由を考えなければ分らな事案は複雑な場合です。
つまり、原因は2つ以上あるのが普通です。
その場合に、原因を1つしか考えないのは、心理学のバイナリーバイアスであって、間違いです。
しかし、こうした記事を書いている人は、人文的文化に住んでいて、理解できないと思います。
国語教育では、論理的な思考を育てることを目標としていますが、原因を1つしか考えなくとも、論理的な組み立てはできます。
統計学の理解のない人は、バイナリーバイアスの泥沼に足を取られているのですが、本人は気付いていません。
ジョブ型雇用になれば、優秀な人材は、給与の高い会社に移動します。
優秀な人材は、リスキリンが必要であれば、政府の補助がなくとも自分で学習します。
ジョブ型雇用が一部の企業で入ってきたり、ユニクロのように、世界中でジョブ型雇用を展開している企業が出てくれば、人材はそちらに流れます。
これに対抗するには、世界標準のジョブ型雇用のルールを採用するしかありません。
現在のように、年功型雇用を維持して、一律賃上げを行い、リスキリングを謳うのはご都合主義です。
こんなことをしている会社は、ジョブ型雇用に完全に移行した時点で、人材の流出が止まらなくなります。これは、世界標準をめざすユニクロと他の企業の賃金差を考えれば自明です。人材は、給与の高い方に流れます。リスキリンが必要な対象は、日本だけの人文的文化で、年功型雇用にしがみ付いている企業幹部のようにも思われます。
ここまで、賃金が下がってしまうと、日本は発展途上国ですから、日本の教育を受け、日本企業に就職することはマイナスになっていると思われます。
例えば、日本の教育はSTEAM教育では大きく遅れています。しかし、遅れを取り戻し、先に進む計画はありません。一番後からついて行けば何とかなると考えています。しかし、一番あとからついて行けば、高度人材が少なくなり、平均賃金は一番安くなります。これは、ジョブ型雇用では自明です。
日本企業のDXの遅れも同様で、一番あとからついていけば、一番生産性が悪くなり、企業業績が悪くなり、賃金も最下位になります。
これが理解できないのは、時間変化(微分)が理解できないからです。
このブログは日本人向けに書いていますが、それをやめて、日本の状況を海外に伝える方が、意味がある(理解される)のかも知れません。
参考文献
岸田政権が注力する「リスキリングで資格取得」の時代錯誤 本来学ぶべきスキルとは 2022/10/29 マネーポスト 大前研一