極上の焼き芋の焼き方(135)世界一甘い焼き芋マニュアル(第2版)草稿(3)

「世界一甘い焼き芋マニュアル」の改訂版「世界一甘い焼き芋マニュアル(第2版)」を、Novel Daysに掲載予定です。

https://novel.daysneo.com/works/6da7f9f0b4ae5903848729082754a3dd.html


草稿を掲載します。

 

2.3 加熱調理で理解しておくべき基本

 

焼き芋を焼くレシピでは、温度と継続時間を書くことが一般的です。

例えば、スーパーやコンビニに使われている焼き芋什器では、200度で60分加熱が基本です。

 

焼き芋に限らず、オーブンレンジのオーブンモードでは、温度と時間を設定できるようになっています。

この温度設定は、オーブンレンジの設計者の利便性のために設定されていますが、物理学で考えると、非常に不合理な設定です。

 

例えば、石焼き芋を焼く場合、次のようなレシピがあったら、どれを選択しますか。

 

1. 180度で、80分加熱する

2. 200度で、60分加熱する

3. 230度で、50分加熱する

4. 250度で、40分加熱する

 

焼き芋のレシピを検索すると、最初に起こる問題は、この選択問題です。

 

加熱調理は、食材の温度が変化する物理現象です。

 

食材の温度変化が同じであれば、同じ調理が再現できます。

 

つまり、オーブンの設定は利用者からすれば、

 

「時間ごとの食材の温度を設定できる」ことがベストです。

 

こんな感じです。

 

時間 食材の温度

0-20分  100度

20-40分  90度

 

残念ながら、現時点では、そのようなまともなオーブンは、発売されていません。

 

したがって、加熱調理するとは、オーブンの設定から、食材の温度変化を推定する作業になります。

 

これも、シミュレーションソフトを使えば、数値予測が可能です。精度は不明ですが、英語版であれば、アプリも販売されています。

 

このアプリは、オーブンを使うためには、必須の機能ですから、オーブンメーカーは、オーブンを購入したら、おまけでアプリを使えるようにすべきですが、筆者は、そうしたサービスをしているオーブンメーカーを知りません。

 

現時点では、加熱調理とは、物理現象を手探りで、食材の温度を推定するとんでもない作業です。

 

とはいえ、いくつかの重要なヒントがありますので、説明します。

 

A)フーリエの法則の温度勾配

 

熱伝導は、次のフーリエの法則に支配されます。

 

熱流束=熱伝導率X温度勾配

 

熱の伝わりやすさは、熱伝導率と温度勾配で決まります。

サツマイモ温度を室温の20度と仮定すれば、オーブンとサツマイモの温度勾配(温度差)は以下になります。

 

1. オーブン180度で、温度勾配160度

2. オーブン200度で、温度勾配180度

3. オーブン230度で、温度勾配210度

4. オーブン250度で、温度勾配230度

 

つまり、オーブンの温度の違いは、食材への熱流束の大きさの違いであって、食材が温まるまでの時間の違いになります。

 

オーブンの温度は、食材の温度とは直接は関係しません。

 

高い温度設定をする目的は、食材を早く温めたいからです。

 

そのためには、オーブンの利用は、予熱をすることが原則になります。

 

加熱調理では、常に、温度勾配と加熱時間の関係を意識すべきです。

 

補足:温度勾配は、食材の表面の温度と食材の温度の差です。

 

オーブンレンジの出力は、あまり大きくないので、食材(例えば、サツマイモ)を多めに入れると、高い温度設定をしても、加熱時間が短縮できません。

 

このため、小さなサツマイモを少量加熱する場合には、食材の温度制御は容易ですが、大きなサツマイモを多めに入れると、食材の温度制御が難しくなります。

 

日本料理では、煮る料理が多いですが、煮る場合には、水の比熱が大きいこと、気化熱によって、温度がぼぼ100度に保たれるので、水の量を多めに設定すれは、食材の大きさによる調理時間の違いは生じません。しかし、これは、例外的な調理方法であることに注意してください。

 

B)食材の焦げる温度

 

加熱調理をする場合の留意点に、食材を焦がさないことがあります。

 

石焼き芋は、皮の周りが少し焦げた状態が、理想の焼き上がりです。

 

石焼き芋の皮はどうして焦げるのでしょうか。

 

言い換えれば、仕上げの段階まで、石焼き芋はどうして焦げないのでしょうか。

 

その理由は、水の沸点にあります。

 

水の沸点は100度です。水が沸騰すると大きな気化熱が生じて、温度は100度を越えません。

 

サツマイモに水分が十分ある限り、オーブンの温度設定にかかわらず、サツマイモの温度が100度を越えることはありません。

 

水分がなくなるとサツマイモの皮の温度は100度を越えます。そして、焦げ目がつき始めます。

 

食材の焦げ目の調整は、このように水分で調整できます。

 

食材の水分の状態を見ながら、加熱を調整することは、重要な調理の基本です。

 

石焼き芋や壺焼き芋に比べると、オーブンレンジで焼き芋を焼くと、熱風によって、水分がより早く失われてしまいます。つまり、早く焦げ目がついてしまいます。

 

サツマイモをアルミホイルで包むと、熱風による水分の消失が押さえられますので、長時間加熱しても、焦げなくなります。

 

オーブントースターでは、熱風がありませんので、そのままで、長時間加熱しても、焦げ目がつきません。

 

とはいえ、オーブントースターも、石焼き芋什器や、壺焼き芋の加熱と比べると、放射熱源が、サツマイモの近くにあり、均一な加熱が難しく、部分的に焦げることもあります。

そのような場合には、サツマイモを反転したり、アルミホイルで包むことで、部分的に焦げる問題を回避できます。

 

補足:通常フライを揚げる温度は約180度です。焼き野菜では、野菜を水分が気化しないようにオリーブオイルでコーティングします。オリーブオイルには、気化温度はなく、180度の発煙点(油を火にかけてから煙が出始める温度)まで、温度を上げることができます。このため温度勾配を大きくとることができ、短時間で加熱することで、食材の食感や風味の劣化を押さえることができます。焼き芋では、βーアミラーゼが失効するので、油は使いませんが、ポテトフライでは、この技法が使われています。

 

C)フーリエの法則の熱伝導率

 

熱伝導率は、食材により熱の伝わりやすさを表わす係数です。

 

生のサツマイモは、空気を沢山含んでいて熱伝導率は、悪いです。

 

生のサツマイモの熱伝導率のデータあるいは、熱伝導率を推定できる加熱時間と内部温度の公開されたデータは、極めて少ないです。

 

ある測定例では、200度60分の加熱で、サツマイモの中心の温度が90度になっています。

 

サツマイモは、90度を越すとペクチン軟化が起こります。これは、物理過程の変化で、酵素は関係していませんので、加熱過程にかかわらない反応と推定されます。

 

サツマイモが、ペクチン軟化を起こしたか、否かは、竹串や金串で、つきさす、また、ミトンで握ってみて判断できます。ペクチン軟化が起これば、サツマイモの内部温度は90度を越えています。

 

ペクチン軟化を起こしたサツマイモのサイズは、生芋より一回り小さくなります。

これは、ペクチン軟化に伴って、サツマイモの内部の空気が放出されたためと思われます。

 

つまり、ペクチン軟化以降の熱伝導率は、それ以前の熱伝導率より大きくなっているはずです。

 

熱伝導率の変化から、次の調理法が合理的と考えます。

 

1.  ペクチン軟化以前

 

 温度勾配を大きくとって、できるだけ、短時間でペクチン軟を起こすべきです。

 

2.  ペクチン軟化以降

 

 熱伝導率は良くなっているので、温度を下げて、焦げないように、加熱すべきです。