エンジニアとテクニシャンの違い(2)

2)エンジニアはどこにいるか

 

以上のように、日本では、エンジニアの育成に問題があることがわかりました。

 

一般に、エンジニアの労働生産性は、テクニシャンより高いので、給与も高くなります。

 

分野によってばらつきがありますが、アメリカのエンジニアの給与は、日本のエンジニアより高くなっています。

 

そもそも、日本には、ジョブ型雇用がないので、エンジニアの労働市場がないと見ることもできます。

 

2-1)給与格差と国際労働市場

 

アメリカのエンジニアの給与が、日本のエンジニアより高いという記述には注意が必要です。

 

この表現には、2つの意味があります。

 

(1)アメリカのエンジニアの方が、日本のエンジニアより労働生産性が高い。

これは、アメリカのエンジニアの方が、日本のエンジニアよりよく働くと置き換えてもよいかもしれません。給与があがらない原因は、日本のエンジニアの努力不足にあります。日本のエンジニアは、スキルをあげて労働生産性をあげる努力をすべきと思われます。

 

(2)アメリカの経営者の方が、日本の経営者よりも、高給に見合う労働生産性の高いジョブを提供できる。この場合、給与があがらない原因は、日本の経営者の怠慢か、能力不足にあります。日本のエンジニアは、スキルをあげても見合うジョブがないので給与はあがりません。



デジタル社会へのレジームシフトに伴って、特に、ソフトウェアエンジニアを中心に、日本でも、エンジニアの国際労働市場が形成されつつあります。

 

エンジニアの国際労働市場は、マイクロソフトが、Windowsのモジュールの一部を、インターネットを通じて、インドのバンガロールの技術者にアウトソーシングするところから始まりました。20年以上前の話です。

 

コロナウイルスの拡大に伴いリモートワークが拡大した結果、アウトソーティングに対する障壁はなくなりつつあります。

 

さて、日本のエンジニアの給与が安い原因が、(1)ではなく、(2)にある場合には、国際労働市場を通じて、エンジニアの移動がおこります。

 

最近、「NTTはGAFA予備校」になっているとよく言われます。

 

政府は、デジタル田園都市構想で230万人のデジタル人材を養成し、リスキリング支援のために、5年間で1兆円を投じる計画です。

 

これは言うまでもなく、(1)のモデルです。

 

例えば、2022年12月13日の日経新聞によると、みずほ銀行ソフトバンクが折半出資して2016年に始めた共同事業「Jスコア」を解消するそうです。

 

Jスコアは信用スコアです。事業の失敗の原因は次の3つと書かれいます。

 

(A)専門人材の不足

(B)情報銀行ビジネスの失敗

(C)アプリ戦略の失敗

 

(B)と(C)は、システムとソフトウェアの失敗ですから、(A)がダメなら、かならず起こります。

 

これから、エンジニアが確保できなかったので、事業を解消したことがわかります。

 

この説明もまた、(1)のモデルを前提にしています。

 

エンジニアの国際労働市場がなければ、この説明も理解できますが、本当でしょうか。

 

2-2)エンジニアとテクニシャン

 

TSMC進出に伴い、 熊本工高が全国初で、技術者育成のための新科目「半導体技術」の講義を始めたそうです。

 

熊本大学でも専門講義を開始したようです。

 

しかし、これらの講義は、テクニシャン養成です。

 

エンジニアの養成には、10年以上かけて数学の基礎から教育するか、教育の不要なギフテッドを発掘してくるしか方法がありません。

 

また、文部科学省は、「暗記をした上で、考える力をつける」二兎を追うカリキュラムを進めていますが、これは、脳科学に反します。「考える力をつける」と暗記は阻害されます。もちろん、前のFRB議長のバーナンキ氏のように、見るだけで暗記できて、暗記で困ったことはない人もいます。こうした例外を除けば、暗記を取り入れると、学習の多くの時間を暗記にとられてしまい、考える時間が減ってしまいます。ともかく、考えるトレーニングをしないとエンジニアは養成できません。エンジニア養成は、一見すると、非常に非効率ですが、それに耐えることが出来なければ、エンジニアの養成はできません。

 

エンジニアは新しいシステムをつくるので、過去の歴史を学習しても養成できる訳ではありません。

 

デジタル社会へのレジームシフトの成否は、エンジニアで決まります。

 

ソフトやデータ分野を強化するために、大規模な投資を計画している企業もあります。

 

政府も、データ分野に、膨大な補助金をつけています。

 

しかし、そこには、エンジニアとテクニシャンの区別はありません。

 

2-3)エンジニアはどこへいったか

 

2022年10月27日のブログに、城繁幸氏は次のように書いています。

 

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もう10年くらい前から上位3%くらいの優秀層には日本企業離れの傾向が出ていましたが、最近はそれが上位2割から3割くらいに拡大している印象です。

 

特に理工系修士以上の人材でこの傾向は顕著で、メーカーにとって死活問題と化しています。

 

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城繁幸氏は、最近は、国際労働市場が機能しているといっています。

 

城繁幸氏も、エンジニアとテクニシャンの区別をしていませんが、仮に、エンジニアとテクニシャンの比率を2:6とすれば、上位25%がエンジニア、それ以下の75%が、テクニシャンになります。

 

つまり、城繁幸氏の見立てが正しければ、日本企業には、テクニシャンはいるが、エンジニアはいない状態になっています。

 

この状態では、日本企業は、新しいシステム(技術など)を生み出すことは不可能です。

 

投資は、無駄になる確率が高いというか、エンジニア不在で、成功する理由が見つかりません。

 

こう考えると、Jスコアが失敗した原因も、エンジニアの確保ができるジョブと給与の提示に失敗したためと思われます。

 

優秀層の日本企業離れや大企業離れは、トヨタでも起こっていると言われています。

 

エンジニアとテクニシャンの違いを認識しないと、無駄な投資を繰り返すことになります。




引用文献

 

NTTはGAFAの予備校!? このあまりの低給与、日本は流出する高度専門家を引きとめられるか 2022/12/11 現代ビジネス 野口 悠紀雄

https://gendai.media/articles/-/103058



TSMC進出で新科目「半導体技術」 熊本工高が全国初、技術者育成へ  2021/12/15 熊本日日

https://news.yahoo.co.jp/articles/e6ea3bd71e5e817a1020bf8208a9a3bb17cd8f3d



TSMCで半導体産業に熱視線 熊大で専門講義開始【熊本】2022/12/14 くまもとテレビ

https://news.yahoo.co.jp/articles/61d83f7dd01c77a81c8d53bad01720b7b15e5655




なぜ日本で2nmの先端ロジック半導体を製造しなければならないのか 2022/12/15 MONOist 三島一孝

 

https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2212/15/news072.html

 

デンソー、今後10年で10兆円規模を投資-ソフトやデータ分野を強化 2022/12/15 Bllomberg

https://news.yahoo.co.jp/articles/a08b30260a3efbceb8873ac9a5fd8fcb69e4be5f




「ジョブ化なんて賃下げの口実に違いない」と言ってるオジサンを見かけた時に読む話

 2022年10月27日 城繁幸

 

http://jyoshige.livedoor.blog/archives/10156941.html