ローカル・オプティマムの罠~プランBの検討

(ローカル・オプティマムから抜けないと、経営改善のスタート地点につけません)

 

1)戦術と戦略

 

太平洋戦争の日本軍の敗因に、戦術はあるが、戦略がなかったとよく言われます。

 

戦争の初めには、ゼロ戦は、大きな成果を上げましたが、アメリカは戦闘機の改良を続け、出力、性能で、ゼロ戦を圧倒する新機種を投入しています。

 

ここで、戦術とは次の対戦をどうするかという短期的な問題であり、戦略とは、中長期的な展望にもとづく作戦になります。

 

あるいは、日本軍の敗因、例えば、兵士の死亡原因の第1は、戦闘による負傷ではなく、病気や飢餓であったとも言われます。ロジスティックスが全く、機能していませんでした。

 

これは、敗因の科学的な分析ができていなかったことを意味します。

 

この問題は、戦後80年近くたっても解決していないように見えます。

 

例えば、ロシア産の天然ガスの輸入について、当面は輸入を継続したいという政策は、戦術としてはあり得ますが、将来に渡って、ロシア産の天然ガスの輸入し続けるということは、戦略としてはちょっと、考えられません。しかし、戦術は見えてきません。




2022年11月23日の現代ビジネスに、加谷 珪一氏は、次のように書いています。(筆者要約)

 

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財政出動などの各種経済政策が長期的な成長を実現するという経済理論は存在していない。日本経済がゼロ成長に陥ったのは、日本企業の競争力が低下したことが原因であって、経済政策では解決できない。

 

これまで日本の産業界は、人手不足に対して、本来の機械化や自動化、省力化などの対処を怠り、代わりに、政府に働きかけ、大量の外国人労働者を雇用するという安易な手法を選択した。

 

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この指摘は、次のように考えることもできます。

 

戦略=「本来の機械化や自動化、省力化などの対処」

戦術=「政府に働きかけ、大量の外国人労働者を雇用するという安易な手法」

 

そうすると、日本は、太平洋戦争の敗戦から、何も学んでいないことになります。

 

2)ローカル・オプティマ

 

作戦、経営などにある評価関数を導入して、方針を考えるとします。

 

ここでは、評価関数の値が小さい方が良い方針であるとします。

 

つまり、最小値が最適解になります。

 

最小値を直接求める方法はありません。

 

数学では、微分して、接線の傾きをもとめ、傾きがゼロ(水平)な点が、最小値の候補になります。

 

図1では、A、B、Cが候補になります。

 

探索範囲が、Box1であれば、Aが最小値になります。

 

Aは、Box1が小さいので、局所的な最適解(ローカル・オプティマム)です。

探索範囲が、Box2であれば、Bが最小値になります。

 

探索範囲が、Box3であれば、Cが最小値になります。

 

Aは、Box3が大きいので、大域的な最適解(グローバル・オプティマム)です。

 

図1では、Cが最小値です。

 

つまり、正解は、グローバル・オプティマムであって、ローカル・オプティマムは、間違った答えです。

 

探索を、Box1または、Box2のように部分に限定してしまうと、正解にたどり着きません。

 

 

図1 ローカル・オプテマム 





次に、戦術・戦略と最適解の対応を考えると、次の対応があります。

 

戦術=「ローカル・オプティマム」

 

戦略=「グローバル・オプティマム」

 

「戦術と戦略」という表現をすると、あたかも、2種類の正解があるように感じられます。

 

しかし、数学的には、ローカル・オプティマムは誤りで、正解は、グローバル・オプティマムしかありません。

 

図1のABCはサンプルです。Box1のAが、BとCより小さい場合もあり得ます。

 

その場合には、Box1のローカル・オプティマムは、Box3のグローバル・オプティマムに一致します。しかし、それは、偶然です。

 

いいかえれば、戦略が、戦術を支持することがあります。偶然そうなることもありますが、戦略に合致した戦術をとることが原則です。

 

話が、冗長に思えるかもしれません。

 

ここで言いたいことは、数学的には、日本企業は、グローバル・オプティマムを無視して、ローカル・オプティマムに走って、企業の経営を悪化させたといえるという話です。

 

数学的には、企業経営者が、数学的に間違った経営選択をしたことが、日本経済の停滞を招いたと言えます。

 

3)グローバル・オプティマムにむけて

ローカル・オプティマムの弊害の例をあげます。

 

3-1)年功型雇用

 

CEOを、同期入社のメンバーから選ぶのは、ローカル・オプティマムでダメです。

 

3-2)レイオフと採用

 

専門家はいませんが、今いるメンバーで、やりくりするのは、ローカル・オプティマムでダメです。

 

3-3)系列取引

 

系列以外に、良い部品を作っている企業を排除するので、ローカル・オプティマムになりダメです。

 

3-4)社内の公用語が英語でない

 

世界の情報を排除して、ローカル・オプティマムになるのでダメです。

 

3-5)その他

 

学問の専門分野、省庁の縦割り、まだまだあります。

 

年功型の組織では、年功型の組織が変わらないという前提で、経営を考えるクセがついてしまい、グローバル・オプティマムを考えられない認知バイアスが生じます。

 

「自営や非正規に出産後給付を検討」は、ローカル・オプティマムです。

 

「こども基本法」は、他の政策との戦略(省庁の改廃)が描かれていないので、ローカル・オプティマムです。

 

「問題がある」=>「問題解決法」をつくるのは、「屋上屋を架す」ローカル・オプティマムです。



4)まとめ

 

DXとは、クラウドシステムをつかって、最大限のグローバル・オプティマムを実現する方法です。

 

DXが効果を発揮するためには、ローカル・オプティマムを徹底的に排除して、企業のあらゆるパーツを最適になるようにアレンジすることが必要です。

 

逆に言えば、ローカル・オプティマムだらけの企業は、かならずDXに失敗します。

 

アップルは、iPhoneを世界中で、水平分業してつくっています。

 

アップルが水平分業を始めて、10年近くたっています。

 

日本企業では、水平分業を実現したところは、ほとんどありません。

 

仮に、アップルの経営が、最大限のグローバル・オプティマムを実現していたとすれば、他の方法で、競争力のあるスマホをつくることはできません。

 

実際に、日本製のスマホは世界市場からドロップアウトしています。

 

その他の家電製品も、日本製は、競争力がなくなって、家電製品の貿易黒字は、急速に縮小しています。

 

日本製品の品質がよい、まともな日本型の経営があるというエビデンスはありません。

 

エビデンスは、日本型経営では、競争力のある製品をつくれないことを示しています。

 

これは、純粋に数学の問題です。

 

「屋上屋を架す」ローカル・オプティマムも、数学では間違いです。

 

筆者には、世界中が、地動説で動いているにもかかわらず、日本だけが、日本型経営という天動説から抜けられないように見えます。





引用文献

 

世界インフレのなか日本の「小国化」が止まらない…! 衰退するこの国を待ち受ける「残念な未来」 2022/11/23 現代ビジネス 加谷 珪一

https://gendai.media/articles/-/102491