光量不足の撮影法(1)

1)光量不足が、ベストなシャッターチャンス

 

デジカメの入門書には、風景などの解像度を優先する場合には、F8からF11の絞りを、ポートレートの場合には、そのレンズで一番小さなF値をつかうように書いてあります。

 

昼間の光量が十分ある風景写真の場合には、それで、問題がありませんが、昼間は、良い写真を撮る条件ではありません。風景写真の場合には、ブルーアワーとゴールデンアワーと呼ばれる日の出と日没の時間がシャッターチャンスになります。

 

昼間でも、林の間を通ってくる光、雲の間を通ってくる日の光が風景写真のシャッターチャンスになります。

 

写真1は、林の間を通ってくる光の例です。この写真では、被写体の紅葉が主題というよりは、光のグラデーションが主題になります。

 

このように光が変化する場合には、大抵は光量は十分ではありません。

 

逆に言うと、風景写真では、光量不足が、ベストなシャッターチャンスになります。

 

対象が動かない場合には、シャッター時間を長くとりますが、紅葉の葉も風があると揺れるので、シャッター速度を短くとらないと、被写体ブレが生じます。

 

フィルム時代であれば、(あるいは現在でも、)光量不足があれば、ライティングするべきだという考えがあります。

 

このときに、多数のライトを投入して、影ができない写真をとることは可能ですが、のっぺりした写真になってしまうので、意図して、影を作って、立体感を出したりします。それを実現するには、スタジオを準備して、ライトを活用する必要があります。

 

もちろん、風景写真では、ライティングはできません。

 

ライトなしで、シャッター速度を短くしても、良い写真が撮れるかが課題になります。

 

問題の被写体ブレは、シャッター速度を短くとり、露光不足にならないために、F値を小さくとるか、ISOを上げる方法でも避けることができます。

 

2)ISOとノイズ

 

ISOを上げると、ダイナミックレンジが狭くなり、ノイズが増えます。

 

ノイズの大きさは、1ピクセル分のセンサーの面積できまりますので、画素数が同じなら、センサーサイズが大きな方が有利になります。

 

許容できる最大のISOは、カメラのセンサーの性能とカメラマンの判断によります。

 

これは、カメラを購入した後で、ISOを変えて、試し撮りをして、許容条件のISOを決めておくことになります。

 

ただし、明るい場面でも、ダイナミックレンジが広くなると、低いISOでも、暗所のノイズは大きくなりますので、必ずしも、一概に、許容条件のISOが決められない側面もあります。

 

これは、RAW現像をしないで、カメラが作成したJpegを使っている場合には、気にならないと思われますが、RAW現像をする場合で、暗所の露光を持ち上げる場合には、問題になります。

 

3)レンズの価格と性能

 

次に、F値を小さくとる場合には、レンズの性能が問題になります。

 

フルサイズセンサーのカメラの価格は、ここ数年で、劇的に下がりました。特に、ミラーレスのフルサイズセンサーのカメラの価格低下は劇的です。

 

また、それに合わせて、カメラメーカーは、安価な小型のキットレンズを出しています。サイドパーティも、安価なF2.8通しのズームレンズを出しています。メーカー純正のF2.8通しのズームレンズは、30万円くらいして、10年以上前から価格は変わっていませんが、サイドパーティの安価なF2.8通しのズームレンズは、10万円くらいで購入できます。

 

このため、フルサイズセンサーのカメラを購入する場合には、レンズについて、次の選択肢があります。

 

(1)性能を優先して、純正のF2.8 通しの30万円のズームレンズをつける。

 

(2)価格とサイズを考えて、純正のF4.0前後のズームレンズをつける。

純正のF4.0前後のズームレンズの価格設定は、メーカーにより異なります。キットレンズとして、低価格優先の場合にはメーカーは、レンズの買い替えを想定していますので、性能を期待することは出来ません。

 

(3)価格と性能を考えて、サイドパーティのF2.8 通しの10万円のズームレンズをつける。

 

(2)は、レンズのサイズと価格を優先した選択なので、性能比較する必要はないと思われます。

 

資金が潤沢にあるプロのカメラマンは、(1)を選ぶと思われます。

 

問題は、資金に制約のあるアマチュアカメラマンでは、(1)と(3)で、悩むと思われます。

 

この問題は、フルサイズのセンサーのカメラでは、価格差が3倍あるので目立ちますが、クロップセンサーでも同じです。

 

例えば、富士フィルムのF2.8通しのズームレンズのXF16-55mmF2.8 R LM WR(14万円)と、シグマの18-50mm F2.8 DC DN Contemporary(6万円)の性能を比較する問題です。価格差が2.3倍あります。

 

Xマウントの18-50mm F2.8 DC DN は、販売が始まったばかりです。先行販売されているソニーのEマウントの18-50mm F2.8 DC DN の評価は、kakaku.comでは、4.91と高評価になっています。

 

18-50mm F2.8については、性能評価がなされていて、それをみるとF5.6まで絞れば、十分な解像度があります。ただし、F2.8では、解像度は高くありません。

 

これは、教科書に書かれているフィルム時代のレンズの常識です。

 

しかし、XF16-55mmF2.8のような純正のF2.8通しのズームレンズは、F2.8でも、十分な解像度が得られます。

 

FUJIFILMは、XF16-55mmF2.8を「単焦点並みの画質」といっています。

 

メーカーが違うと、色のり等が違いますので、単純には比較できませんが、レンズの価格差の一番の違いは、F値が小さいときのレンズの性能であると思います。(注1)

 

単焦点レンズは、F値が小さいときのレンズの性能がよいので、ズームが不要であれば、単焦点レンズを検討する価値があります。

 

まとめると、現在の良いレンズであれば、解像度を得るために、絞る必要はありません。

 

しかし、被写界深度を調整するためには、絞りを調整する必要があります。

 

なお、MFTの純正のF2.8通しのズームレンズは、M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II(10万円)になりますが、旧式のI型は7万円です。

 

18-50mm F2.8のMFT用は今の所販売されていません。18-50mm F2.8はMFTでは、画角が36-100mmと中途半端になるためかもしれません。

 

しかし、18-50mm F2.8の6万円と旧式のI型の7万円の価格差は小さいことも、18-50mm F2.8のMFT用が販売されていない理由と思われます。

 

MFT用のサイドパーティのレンズは、少ないですが、これは、純正レンズのコストパフォーマンスの高さを反映していると思われます。

 

注1:

ナノGIコーティングで、逆光耐性が高いので、XF16-55mmF2.8を買った人がいます。

 

シグマの18-50mm F2.8 DC DNは、逆光耐性が弱いと言われています。

 

しかし、公開されている写真を見れば、シグマのContemporaryレンズの逆光耐性は、ニコンのナノクリスタルコートの出始めの頃のレンズを上回っています。

 

レンズ性能の進化は早いので、今後は、逆光耐性が当たり前になりそうです。

 

コーティングのコストは余り高くないので、カメラメーカーは、レンズの買い替え需要を考えて、今後も、逆光耐性の高いレンズに入れ替えてくると思われます。

 

引用文献

 

シグマ 18-50mm F2.8 DC DN 徹底レビュー 解像性能編 2021/11/13  https://asobinet.com/review-18-50mm-f2-8-dc-dn-chart/

 

Fujifilm Fujinon XF 16-55mm f/2.8 R LM WR Lens Review

https://www.ephotozine.com/article/fujifilm-fujinon-xf-16-55mm-f-2-8-r-lm-wr-review-27096

 

逆光耐性が必要で入手したレッドバッジズーム「XF16-55mmF2.8 R LM WR」単焦点との比較など

https://drasworld.com/red-badge-zoom-xf1655/

 

写真1