(科学の主流はデータサイエンスで、目的をリセットして、科学を活用することがポイントです)
1)技術レベルと手段の目的化
ドキュメンタリズムは手段を目的化します。
原則から言えば、手段の目的化は望ましくありません。
しかし、技術レベルが低い場合には、暫定的に、手段を目的にすることがあります。
カーナビの例を思い出してください。
目的地をゴールにフィードバックループを使って、ハンドルを切るために、カーナビが必須です。カーナビは地図情報を扱うGISと位置情報を扱うGPSがあって初めて実現します。カーナビが広く利用可能になったのはたかだか20年前のことです。
正確に言えば、30年前から試験的に使用されていました。しかし、GISに含まれる地図のデータは限定されていました。10年前からスマホナビが出てきて、GISに含まれる地図データの量とルート検索の精度で、カーナビを圧倒してしまいました。
カーナビが出現する前は、中継地点を設定して、地図を見ながら、中継地点に向けてハンドルを切っていました。つまり、技術レベルが低い場合には、手段の目的化もやむを得ないことになります。
しかし、カーナビが使えるようになれば、カーナビを使っている人とカーナビを使っていない人の間には、目的地に到達する時間に大きな差が出てしまいます。
カーナビはDXの一種です。カーナビを使う理由は、目的地に確実に早く到達できるからです。
技術レベルが上がった場合には、手段の目的化をやめて、目的を本来のもの(目的地に確実に早く到達)にリセットしなおす必要があります。
目的のリセットがなされれば、DXによって、労働生産性を劇的にあげて、所得が増える道筋が開かれます。
2)目的のリセット
ドキュメンタリストは、文章の形式を重視して、内容は気にしません。
暫定的に、目的に、目的地にいくルートのような手段が書かれていても、ドキュメンタリストは、それを気にしませんので、目的のリセットが起こりません。
手段の目的化が固定化してしまいます。
目的地が、ルートのままであれば、カーナビを導入する必要性が生じませんので、DXは進みません。
目的のリセットがなされないのは、日本の組織だけです。
日本以外には、ドキュメンタリストはいませんので、DXのような新しい技術が出てくれば、目的をリセットします。その結果、フィードバックループが機能して問題は解決に進みます。
3)ヒストリアンの闇
目的地が、ルートのままであれば、何時まで経っても、目的地に到達しない問題が発生します。
たとえば、日本の労働生産が、何時まで経っても、向上しない問題です。
日本では、ヒストリアンがマジョリティであることが致命傷を引き起こします。
ヒストリアンは過去の成功例を探して、前例主義で問題解決を図ります。
目的地への到達という課題で言えば、20年以上前の成功例には、カーナビがありませんので、匠の技を検索することになります。
10年以上前の成功例には、スマホナビはありません。
前例主義の問題解決は基本的に技術革新を拒否しています。
前例という実績は価値がありますが、DXの世界では、5年以上前の実績には価値がありません。AIの世界では、1年以上前の実績には、価値がありません。
ヒストリアンは、こうしてDXによる問題解決を不可能にしてしまいます。
4)まとめ
以上の論理を整理しておきます。
世の中には、ドキュメンタリストとサイエンティストがいます。
ここで、サイエンティストとは、科学者のことではなく、科学的に物事を判断して、計画を立てる人を指します。
DXによる技術革新があった場合、サイエンティストは、目的のリセットを行い、DXを導入して、問題解決を図ります。導入すべきDXは、リセットされた目的に合わせる必要があります。
DXによる技術革新があっても、ドキュメンタリストは、目的のリセットを行いません。DXを試験的に導入しましたが、役に立たないので、中止します。
2022年9月28日にスイスのIMD(国際経営開発研究所)が「デジタル競争力ランキング2022年版」を公表しました。日本は、63カ国中29位です。
評価項目ごとの日本の順位で、Overall Top Weaknessesは以下です。
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才能 Talent
国際経験 International experience 63位
デジタル・テクノロジースキル Digital/Technological skills 62位
ビジネスの俊敏性 Business agility
企業の俊敏性 Agility of companies 63位
ビッグデータ、アナリティクスの活用 Use of big data and analytics 63位
機会と脅威 Opportunities and threats 63位
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こうしたデータを見た場合、日本は、DXが遅れているから、労働生産性が低く、賃金が上がらないと考えられることが多いです。
しかし、ドキュメンタリズム仮説に基づけば、DXが進まないのは、ドキュメンタリズムによって、目的のリセットがなされないためです。
これが正しければ、デジタル投資の補助金やデジタル庁には、効果が期待できません。
お気づきと思いますが、デジタル庁も、デジタル化を進めるというタイトル(形式)が、内容を優先していますので、ドキュメンタリストの発想です。
内容が、形式を優先するのであれば、各省庁の仕事の内容を再編して、その再編した内容に対してタイトルをつけるという手順になります。
これに対して、各省庁の組織という設置法で定められた形式が、内容を優先すると考えるのが、デジタル庁設置の発想です。
デジタル庁設置のときに、各省庁の仕事の内容や、目的のリセットが議論されることはありませんでした。
これは、デジタル庁問題をドキュメンタリストが、仕切っていたことを示しています。
ドキュメンタリストは、目的のリセットによって、不利益を被る人です。
DXは、データサイエンスの一部で科学です。
現在、DXという科学に基づく意思決定と科学に基づかない意思決定があります。
ドキュメンタリストは、後者を選択します。
ドキュメンタリストは、ドキュメンタリズムは、日本社会の特徴と開きなおるかも知れません。
しかし、科学的な方法に基づかなければ、労働生産性はあがらず、所得は増えず、国際的な競争力は低下します。
「デジタル競争力ランキング2022年版」は、そのことを示しています。
ここで、注意しておきたいのは、「科学的な方法」は物理学ではありません。ここ20年の間に出てきたデータサイエンスです。カーナビは、最近20年に生まれた科学、スマホナビは、最近10年に生まれた科学です。この科学は、20年以上前の成果が問われるノーベル賞とは関係がありません。上記のサイエンティストは、データサイエンティストのことです。
アダム・グラント氏は、「THINK AGAIN」の中で、古い知識を化石化した知識と呼び、「経験から学んだことを否定するつもりは毛頭ないが、私はむしろ厳格な証拠に重きを置く」といっています。
これは、データサイエンティストの立場です。ヒストリアンは、道を誤ります。
DXを論ずる前に、ドキュメンタリズムを廃して、科学的に意思決定をすることからスタートしないと、日本の劣化は止まりません。
先進国の中で、科学的な意思決定をしていないのは、日本だけです。他の国では、ドキュメンタリストはいません。日本では、どうして、科学的でないドキュメンタリストが、棲息できるのかが疑問です。次回は、この問題を考えます。
引用文献
World Digital Competitiveness Ranking 2022
https://www.imd.org/centers/world-competitiveness-center/rankings/world-digital-competitiveness/