円安とドキュメンタリズム~ドキュメンタリズムの研究

(金融政策は、ドキュメンタリズムに偏っていて、市場経済を破壊しています)

 

1)円とドル

 

2022年10月現在、円安が続いています。

 

経済を考えるときに、円でモノを考えるのはドキュメンタリズムです。

 

基軸通貨は、ドルですから、経済の状態では、ドルで評価すべきです。

 

ドルでみれば、1990年以降の日本の経済政策は、30年間、失敗の連続です。

 

2)給与とインフレ

 

給与が上がっても、インフレ率がそれより高ければ、実質所得は、増えていません。

 

しかし、実質所得が問題にされることは稀です。

 

さらに、ドル換算で評価されることも稀です。

 

米ドル換算でみた日本の賃金は10年で4割減っています。

 

2022年の円安の急拡大にともない、一部の経済紙では、米ドル換算の報道をしていますが、少数派です。

 

筆者は、どうして、米ドル換算が問題にならないのか、いままで、疑問に思っていました。

 

しかし、この問題は、所得は、給与の円の数字というドキュメンタリズムが蔓延していると考えれば、予想どおりの反応になります。

 

政府は、こども食堂補助金を増やす計画ですが、円安を放置して、こども食堂補助金を増やしても意味がありません。

 

こうしたトータル(内容)で、政策を検討しないのは、ドキュメンタリズムの特徴です。

 

3)バブル崩壊とドキュメンタリズム

 

1990年代に、バブルが崩壊して、日本の金融機関は膨大な負債を抱えることになりました。この金融機関の負債をなくすために、政府は、預貯金の低金利政策を始めます。

 

これは、預貯金の金利を市場原理に反して、決めてしまうドキュメンタリムです。

 

ドキュメンタリズムが拡大すると、市場がつぶれてしまいます。

 

アメリカのリーマンショックでは、金融機関の救済のために、税金が投入されましたが、それは、数年で終わり、また、貸付金は返済されています。つまり、ドキュメンタリズムの影響を最小限に押さえる努力がなされています。

 

日本の場合、バブルの負債の償還が終わったのは、小泉・竹中改革までかかったと言われています。

 

その間に、金融機関に所得移転された金額は100兆円に近いという推定もあります。

 

これは、働いて稼いでも、ピンハネされるだけの状態ですから、誰も働かなくなり、経済は停滞します。

 

1990年以降、日本経済は停滞しますが、経済の停滞と引き換えに、金融機関の救済をはかったとも言えます。

 

金融機関の救済は必要ですが、アメリカのリーマンショック対応のように、数年で清算する方法もあります。

 

日本はアメリカの方法をとりませんでしたので、ドキュメンタリズムによって、日本経済の停滞が選択されたと解釈することも可能です。

 

小泉・竹中改革の後も、預貯金の金利は低く設定されました。つまり、ドキュメンタリズムが、生き続けています。経済成長速度が下がっていますので、1990年頃までの預貯金の金利はとれませんが、それでも、外国と比べれば、異常な低さです。

 

これは、日本では、市場経済が機能していない可能性を示唆します。

 

4)株式市場・債券市場・為替市場

 

円安は、為替市場の一部です。

 

株式市場は、異次元緩和の結果、上場企業の筆頭株主の多くが日銀や公的年金になって、株主の利益が政府の利益と一致させられるという異常事態が続いています。



債券市場では、国債市場で3日連続で取引が不成立になるなど、価格形成機能が失われています。日銀が一定以上に金利が上がらないよう無制限に国債を買い取る「指し値オペ」が原因です。

 

日銀は、ここ10年、健全なインフレ率2.0%を達成すれば、需要主導で経済が発展すると考えてます。

 

筆者は、経済政策を論ずる能力はありませんが、次の点が、気になります。

 

(1)株式市場と債券市場が、健全でなくなり、経済状態が把握できなくなっています。

 

(2)健全なインフレ率2.0%にこだわるのは、経済の構造を無視したドキュメンタリズムです。筆者には、インフレ率は、因果律の結果であって、原因とは思えません。それは、金融政策の範囲外ですから、論じない理由はわかります。それはさておいて、健全なインフレ率という経済理論が正しいと仮定しても、経済理論は、健全な市場経済を前提に形成されています。ドキュメンタリズムで、健全な市場を破壊してしまえば、経済理論は当てはまらなくなります。

 

(3)過去10年、DXやDXに向けた業界再編は進んでいません。これは言い換えると国債金利などドキュメンタリズムで達成可能な政策以外(例えば、アベノミクスの第3の矢)は、全く実現できなかったことを示唆しています。金融政策では、直接、経済の構造改革はできませんが、間接的に関係するのは、金利です。逆説的に言えば、市場経済が機能するように、金利のドキュメンタリズムをできるだけ排除すべきだと考えます。金融政策は、短期的な経済の変動を抑えることができます。しかし、10年経っても達成できない健全なインフレ率2.0%のような中長期目標を設定できるとは思えません。

 

(4)以上の流れで考えると、健全なインフレ率2.0%を目指す、円安誘導は、中長期的には、弊害が大きいと考えます。日本には、国際競争力のある企業はほとんど残っていません。円安になると短期的には、特定の企業が大きな利益をあげます。しかし、これは、経済活動というより所得移転です。アベノミクスの第3の矢のようなドキュメンタリズムでは実現できない政策が実現しなければ、経済成長はあり得ません。ドキュメンタリズムが蔓延すると、ドキュメンタリズムで実現可能な金融政策に課題な期待が集まりますが、それは、経済の内容を変更しませんので、問題解決にはなりません。