仮想水と自然資本の計算例(1)~水と生物多様性の未来(9)

1)生態系サービスの考え方

 

生物多様性条約では、生態系サービスを扱うことで、外部経済と外部不経済を内部化する手続きになっています。

 

これは、「生態系と生物多様性の経済学The Economics of Ecosystems and Biodiversity、TEEB」(ウィキペディア)と呼ばれることもあります。

 

2010年10月20日に出た、TEEB最終報告書(Mainstreaming the Economics of Nature, A synthesis of the Approach, Conclusions and Recommendations of TEEB)と2021年の「生物多様性の経済学:ダスグプタ・レビュー」は、最近の到達点を示しています。

 

なお、ダスグプタ・レビューの原題は、「The Economics of Biodiversity」なので、TEEBが用語としてどの程度定着しているかは不明です。なお用語には、古いEnvironmetnal economics、TEEBにも含まれている Economics of Ecosystems、更にEcologocal economicsもあります。新しい用語を定義する人は、古い用語と差別化したいのですが、新しい用語がどこまで定着しているかは、よくわかりません。

 

和文で、検索にかかる2012/3/19の日本生態学会における吉田謙太郎氏の講演要旨、2018/05の日本船舶海洋工学会のP-48 研究委員会の報告書を見るかぎり、CVMなどのEnvironmetnal economicsの手法が多く、欧米の環境復元(restoration)を中心にした生態系サービスの展開とは、かみ合っていない印象を受けます。2019/02の彦根論叢の田島正士氏も、タイトルにあるように「環境経済」になっています。少なくとも、環境復元事業の費用対効果分析は念頭にないように見えます。

 

なお、「生物経済学」(1984)は、宝月欣二氏の著書で、「野外における植物群落の生活を生物経済学的な立場、すなわち個体の行うエネルギーや物質の収支──たとえば物質生産、生産物の分配、消費などの諸過程における収支──に基づいて解明することを主な目標」としていて、経済学ではなく、生態学そのもののようです。



<== 引用文献

 

生態系と生物多様性の経済学:TEEBの紹介

https://www.biodic.go.jp/biodiversity/about/library/files/TEEB_pamphlet.pdf

 

TEEB

http://teebweb.org/LinkClick.aspx?fileticket=bYhDohL_TuM%3d&tabid=924&mid=1813

 

政策とビジネスのための生態系サービス価値の見える化 2012/3/19日本生態学会 吉田 謙太郎

http://www.see.eng.osaka-u.ac.jp/seege/seege/event/esj59_WS/ipbes2.pdf

 

海洋における生態系サービスの評価に関する研究委員会 最終報告書 2018/05 日本船舶海洋工学会 P-48 研究委員会

https://www.jasnaoe.or.jp/research/dl/report.P-48.pdf

 

生物多様性と環境経済評価 2019/02 彦根論叢 田島正士

https://www.econ.shiga-u.ac.jp/ebr/Ronso-419tajima.pdf

 

生物多様性の経済学:ダスグプタ・レビュー要約版

https://www.wwf.or.jp/activities/data/20210630biodiversity01.pdf

 

生物経済学(1984)宝月欣二、裳華房

 

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生態系サービスの計算は、外部経済と外部不経済を内部化する手続きが含まれている点を除けば、費用対効果分析の拡張になっています。

 

外部経済と外部不経済をかんばって、できるだけ内部化することは、かなり大変な作業であり、現時点では、パラメータの値が定まらないものも多くあります。

 

なので、ここでは、完全を目指すのではなく、現在の費用対効果分析に対して、一歩乗り出してみたいと思います。

 

つまり、具体例を元に、生態系サービスを考えると、今までの費用対効果分析がどのように変貌する可能性があるかを検討してみます。

 

このブログは、力まずに、毎日、少しずつ進めることを原則にしていますので、ここでも、少しずつ試してみます。

 

2)試算の対象の選定

 

費用対効果分析の計算例は、簡単なものを対象にしたいので、ここでは、多摩川小河内ダムを例にあげます。

 

多摩川も厳密にみると他の流域との水の出し入れがありますが、ここでは、できるだけ単純化した例示を考えたいので、他流域とも水のやり取りは無視できると仮定します。

 

多摩川の重要な基準点には、次の2つがあります。

 

(1)石原地点 流域面積:1,040km2

 

(2)田園調布(上)地点 流域面積 :1,202.00km2



田園調布基準点には、田園調布(上)と田園調布(下)があり、厳密には、流域面積が少し違いますが、水文・水質データベースには、田園調布(上)のみ、流域面積が記載されています。田園調布(下)の流域面積はのっていないので、ここでは、(上)と(下)の間の流域面積の違いは無視できると仮定します。

 

石原地点の低水流量は次のようになっています。

 

昭和 33~ 53年の平均 7.6m3/s

昭和 54~ 65年の平均 8.9m3/s

平成 13~ 22年の平均 12.1m3/s

 

なお、平成 13~22年の平均渇水流量は5.9m3/secです。

 

石原地点で、12.1m3/sの低水流量を使うことにします。

 

今回はここまでです。

 

参考文献

 河川整備基本方針 > 多摩川水系

https://www.mlit.go.jp/river/basic_info/jigyo_keikaku/gaiyou/seibi/tama_index.html

 

https://www.ktr.mlit.go.jp/keihin/keihin_index037.html