「PLAN75」と日本の社会システムの欠陥~2030年のヒストリアンとビジョナリスト

生物多様性労働市場の多様性は結びついています)

 

1)概要

 

「PLAN75」という映画を見てきました。

75歳で、安楽死を選べるという制度ができたという映画です。

安楽死が認められている国は、あります。

重度の症状から回復の見込みのない、いわゆる植物人間状態や、病気に伴う痛みなどのQOLが損なわれた場合に、安楽死を選択できます。

なので、安楽死自体は、宗教がそれを認めない場合でなければ、大きな問題にはなりません。

 

「PLAN75」は、財政対策として、国策として、安楽死を推奨する点が、異常なので、映画になっています。

 

つまり、政府の言っている安心の100年設計の年金では、実際に、老後の生活をするには不足であること、このため、働いている高齢者が多い訳ですが、高齢者の雇用環境が劣悪なため、健康で、QOLの高い高齢者が、失業して、安楽死を選ぶというケースが、映画のストーリーになっています。

 

これが、病気で、体が全く動かない、記憶がなくなってなどのQOLが極端に低くなった高齢者であれば、映画には、ならなかったと思われます。

 

映画館は、老人の顧客が多く、最近になく混んでいました。

 

高齢者問題は(少子化問題も)、第1に政治と行政が問題を放置(先送り)したことが原因で、第2には、政治・経済を研究対象にしてきた社会科学、(良かれと思って行ったとは思いますが、)高齢化を引き起こした医学が、解決策を提案できなかったことが原因です。

 

2)雇用の多様性問題

 

高齢者問題には、年功型雇用問題が、深く組み込まれています。

 

また、高齢者問題は、生物多様性問題でもあります。

 

この点は、自明と思いますが、指摘する人がいそうにないので、書いておきます。

 

生物多様性は、生物の多様性です。人間も生物なので、高齢者が生きづらい社会とは多様性が失われた世界です。多様性が失われたエコシステムは、持続性が失われます。

 

一人当たりGDPが増加すれば、豊かになります。これには、労働生産性の向上が欠かせません。DXを進めるには、ITの能力の高い人が、かんばって稼いでもらうことが必要です。そこで、IT落ちこぼれは食べていけるのかという問題が生じます。この問題の構造は、高齢者の雇用問題と同じです。ベーシックインカムは、国民年金生活保護を一元化して、無駄なコストを省いて、給付水準を上げるアイデアです。(注1)

現在の国民年金の水準で、生計を維持するのは大変なので、ベーシックインカムの基本的な考えに問題はありません。ただし、IT能力の低い人が、働く場がなくなるので、ベーシックインカムを給付するという見解には、同意できません。それは、労働の多様性を無視しているからです。

 

IT技術者の労働生産性を100とすれば、ITに不適合の人や、高齢者の労働生産性は、10くらいかもしれません。でも、10(10分の1)でも働ければ、1人あたりGDPの向上に貢献できることに変わりはありません。

 

これは、労働の多様性です。年功型雇用が労働の多様性を

 

1962年に種子島内之浦宇宙空間観測所を作ってロケットを打ち上げるために、後年、糸川英夫博士は、住民を説得するために、どぶろくを飲んで回ったと記述しています。

 

1990年のバブルの前までは、地価が上がり続けたため、土地の手配をすることは大変でした。1980年頃までは、日本も貧しかったので、事業資金を手にいれることが大変でした。

 

このため、お酒を飲んだり、マージャンやゴルフをすることが、組織で出生する必要条件でした。接待は、資金を得るための手段であったのです。

 

このタイプの代表的な政治家として、田中角栄氏をあげることができます。土木工事で、票を集めることで、選挙に当選するフレームワークです。

 

1990年代に入って、地価上昇が止まります。この頃までは、開発途上国が経済発展するために、技術と資金を調達することは至難でした。国連は、豊かな国は、益々豊かになるのに対して、貧しい国は益々貧しくなり、その経済格差が埋まらない南北問題があると主張していました。

 

この常識を覆したのは、中国です。1990年代に、外国から資金と技術を調達することで、中国は世界の工場になることができました。

 

現在、世界には、労働市場があり、多様な働き方が、実現しています。

 

2022/06/22のAFP-BBNews で、CCTNはアップル社が、アップルカーのために、中国で、フトウエアエンジニアを募集している可能性があると伝えています。

 

一方、国内では、2022/06/24のKYODOは、4社に1社は、70歳まで就業させており、年功型雇用が強化されていることを伝えています。

 

2022/06/22の東洋経済で、妹尾輝男氏は、飲み会に来ない若手を嘆く上司がいると伝えています。

 

糸川英夫博士は、どぶろくを飲んでロケット発射台を作りましたが、イーロン・マスク氏が、同じことをしているとはとても思えません。

 

「PLAN75」の問題は、労働市場の多様性なしには解決できません。



3)生物多様性労働市場の多様性

 

生物多様性労働市場の多様性は結びついています。

 

「PLAN75」で、安楽死したおじさんは、ダムやトンネル、橋の建設現場を転々として、働いてきました。

 

倍賞千恵子の演ずる主人公は、失業して、最後は、建設現場の交通整理の仕事をしています。

 

長野県知事であった田中康夫が、2001年2月、「脱ダム宣言」を表明し、浅川ダム以外は建設が中止されました。

熊本県球磨川水系の支流の川辺川では、ダム建設が中断されていましたが、令和2年7月豪雨による被害で、地元の意向はダム建設に戻りました。

 

土木関係者は、国土強靭化のために、日本では、まだ、土木施設を建設すべきだといっています。

 

2021/06/23のNewsweekで、加谷珪一氏は、2040年時点において水道事業が赤字にならないために、全体の94%の自治体で値上げが必要であり、18年を起点とした値上げ率の平均は43%にも達するという推定結果を例に説明しています。新規建設のほうが圧倒的に政治利権として魅力的だったため、設備の更新を考慮に入れず、新規建設の拡大を最優先してきたツケが来ている。維持管理を中心に、新規建設を抑制しないと破綻するといっています。

つまり、新規の土木施設の建設を中止して、維持管理を優先すべきという意見です。

 

2021/10/26の東洋経済で、リチャード・カップ氏は、「再保険会社のスイス・リーは、世界で最も脆弱な大都市圏として東京横浜地域を挙げている。最近建設された地下貯水施設は、1時間当たり50mmの豪雨しか想定していないが、2018年、日本の多くの都市ではその4倍の雨が降っていて、洪水対策は破綻している。洪水対策が、、建築会社への新たな『贈り物』にならないよう、環境省は災害に備える計画を立てる必要がある」という趣旨の発言をしています。

 

環境省は災害に備える計画を立てる」は、日本では、知られてないので、補足しておきます。

 

米国では環境省が災害対策をしています。これは、洪水対策の中心が、自然洪水管理(Natural Flood Management)だからです。

 

EUのFRAMES(Flood Resilient Areas by multi-layEr Safety ) projectのHPに、 自然洪水管理のわかりやすい動画がありますので、是非、みていただければと思います。

 

FRAMESのHPには、次のように書かれています。

 

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健全な河川流域は、景観に水を蓄え、下流の水の流れを遅くします。

 

私たちの現代の川の風景は、自然が意図したものとは大きく異なります。私たちは湿地での貯水を失い、水が流れ出る硬い表面を作り、川の水路を変えて水を非常に速く移動させました。私たちの川は、将来予想される雨に対応できなくなり、洪水が地域社会に影響を与える可能性が高くなります。

 

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川を蛇行させ、氾濫原をつくって洪水をためれば、ダムや、地下貯水施設より安価で、より大きな効果があります。河川を蛇行させ、河畔帯の氾濫原を復元するプロジェクトや、海岸の塩性湿地を復元するプロジェクトが、2010年頃から、欧米では、本格的に行われています。



図1は、World Resource Institute WORKING PAPERにのっている雇用創出の比較です。

 

復元プロジェクトには、大きな雇用創出効果があります。




図1他の投資と比較した自然および保全投資からの雇用創出に関する研究



 

 



ダムを作れば、住民には、水没補償金が出ます。1970年頃までの水没補償には、雇用創出の視点はありませんでした。図1は、その点では、大きな問題を提起しています。

 

復元プロジェクトの多くは、ボランティアレベルの仕事です。決して、収入が高いとは言えません。しかし、自然が相手なので、急いでも始まりません。氾濫原であれば、木の根で、護岸をつくり、洪水氾濫で、土砂がたまって、湿地が復元するのを待ちます。これは、収入が高くありませんし、技術習得が各段に難しい訳ではありませんが、やりがいのある仕事です。多くの人にとっては、工事現場のダンプトラックの誘導よりも、より健康的で、やりがいのある仕事でしょう。なぜなら、復元した生態系のサービスの受益者は、地域住民であり、そこには、フィードバックが存在するからです。

 

このような点を考えると、ベーシックインカムは、ダムの水没補償と同じように、雇用問題を単純化しすぎているように思われます。

 

生態系復元プロジェクトは言うまでもなく、生物多様性条約に基づいています。

 

日本は1992年6月13日に署名、1993年5月28日に、寄託者である国連事務総長に受諾書を寄託することにより条約を締結しています。

 

つまり、生態系サービスを最大化することを国際的な公約にしています。

 

2021年2月に、ケンブリッジ大学のパーサ・ダスグプタ名誉教授は、英財務省から依頼されていた自然資本の報告書を提出しています。標準的な経済学では、自由に利用できるものとして資産価値やコストが考慮されていない自然資本(自然環境や天然資源など)の経済価値を評価しています。報告書は、1992から2014年の22年間で、生産設備や各種インフラなど一般的な資本ストック(1人当たり)は2倍に拡大したが、自然資本は40%近くも減少したと試算しています。

 

自然資本は、生物多様性条約の実現手段を目指しています。

 

「PLAN75」に登場する高齢者は、世界から切り離され、孤独です。友人の高齢者は、亡くなって、次第に、つながりを失っていきます。それは、パーサ・ダスグプタ名誉教授流に考えれば、自然資本が減少した世界で、生きることを強いられているためでもあります。



これは、生物多様性の喪失が、労働市場の多様性の喪失に繋がっている例であるとも見ることができます。



注1:

 

今回の選挙では、北欧のように、高負担、高福祉を掲げる政党はありません。

 

消費税の税率は、手段であって、目的ではありません。

 

目的は、高福祉か、低福祉かの違いです。

 

高福祉であれば、財源を考えねばなりません。

 

ビジョナリストは、誰もいないように見えます。

 

あるいは、ビジョンをだすと落選するのかも知れません。

 

引用文献



THE GREEN JOBS ADVANTAGE: HOW CLIMATE-FRIENDLY INVESTMENTS ARE BETTER JOB CREATORS

World Resource Institute WORKING PAPER  October 2021 

https://www.ituc-csi.org/IMG/pdf/the_green_jobs_advantage_-_wri_nce_and_ituc_working_paper.pdf



Peltier, H. 2020. Employment Impacts of Conservation Spending. Boston:Boston University. https://www.bu.edu/pardee/files/2020/06/Employment_Impacts_of_Conservation_Spending-Peltier2020.pdf

 

The Economics of Biodiversity: The Dasgupta Review 2021/02

https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/962785/The_Economics_of_Biodiversity_The_Dasgupta_Review_Full_Report.pdf

 

日本がずっと「停滞」から抜けられない4つの要因 2021/10/26 東洋経済 リチャード・カップ

https://toyokeizai.net/articles/-/463987

 

What is Natural Flood Management? Flood Resilient Areas by multi-layEr Safety (FRAMES) project 

https://catchmentbasedapproach.org/learn/what-is-natural-flood-management/




アップル社 中国で自動車ソフトウエアエンジニアを募集 自動車産業に進出か 2022/06/22 AFP-BBNews CCTN

https://www.afpbb.com/articles/-/3410938



70歳まで就業、4社に1社 2022/06/24 KYODO

https://nordot.app/912930667765268480

 

「飲み会来ない若手」嘆く上司は仕事ができない訳 2022/06/22 東洋経済 妹尾 輝男

https://toyokeizai.net/articles/-/598526

目先の利権を優先してきたインフラはもう限界...日本人が知らない大問題 2021/06/23 Newsweek 加谷珪一

https://www.newsweekjapan.jp/kaya/2021/06/post-146.php