成長と分配の経済学(15)~2030年のヒストリアンとビジョナリスト

(FDIをみれば、日本企業は、海外からは、裸の王様と思われています)

1))FDIの課題

1ー1)海外投資の安全性

 

海外の株式を購入する場合を考えます。

 

2001年11月30日に、投資銀行ゴールドマン・サックスの経済学者であるジム・オニールが書いた投資家向けレポート『Building Better Global Economic BRICs』で、中国、ロシア、インド、ブラジルは、経済成長の大きな有望な投資先であると言われました。

 

2020年時点で目覚ましい発展が出来ているのは中国とインドで他の国は経済成長が失速しています。

 

そのなかでは、中国企業は、ここ20年は、大きな経済成長を遂げ、世界の企業ランキングの上位にリストされる企業も増えています。

 

しかし、中国企業が、今後も有望な投資先であるかは判断が分かれます。

 

第1に、中国は人口減少モードに切り替わりつつあり、今後は、大きな国内需要の延びは見込めなくなっています。

第2は、共産党の影響です。中国企業には、共産党の担当者が在籍していて、企業に支持をだす仕組みになっています。個人情報も、共産党が必要であると判断すれば、企業に提出を求めることができます。

つまり、企業としての利潤追求に関する独立性に疑問がつきます。

 

2022年には、ロシアとウクライナの間で戦争が始まりました。このような政治的な状況が発生した場合に、企業が利益よりも、国益を優先する可能性があります。

 

特定の国の国内を主な営業エリアにしている企業もあります。電力会社、武器の製造企業などです。このような企業は、政治的な状況になると、利益よりも、国益を優先する可能性があります。一方、家電製品、玩具、スポーツ用品などを製造販売している企業は、政治的状況に左右される可能性がより低くなります。

 

外国の投資家が株式を購入しやすい企業は後者になります。ロシアとウクライナの間の戦争では、ハンバーガー販売企業も影響を受けていますが、通常は、そこまで難しい情況になることはまれです。



中国の場合には、企業が共産党の監視下にあることは、海外の投資家にとっては、経営判断が偏るリスクを抱えていることになります。仮に、投資した企業が、香港の出版企業のように、廃業に追い込まれれば、株式の価値が著しく下がるので、そのような政治リスクのある企業への投資は回避されます。

 

1-2)サハリン2をめぐって

 

「サハリン2」はロシア国営ガスプロムが50%強(50%プラス1株)、英国のシェルが約27.5%(27.5%マイナス1株)、三井物産が12.5%、三菱商事が10%出資しています。

英国のシェルは2022/02/28に、ロシア極東の石油ガス開発事業「サハリン2」から撤退する方針を発表しています。

 

シェルは企業方針として、政府と利害関係にならないことを、決めています。

 

ロシアのサハリン2からの撤退は、英国政府にお伺いを立てたのではなく、シェル独自の経営判断です。

 

2022/05/26には、シェルは、ロシア極東の石油ガス開発事業「サハリン2」の権益について、インドのエネルギー関連のコンソーシアム(企業連合)と売却交渉を進めていると報じられています。

 

三井物産は2022年3月期にLNGなどで純資産の減額を806億円、減損損失209億円の合計1015億円を計上しています。三菱商事も「サハリン2」の投資価値を500億円減額し、ロシア関連全体で130億円の損失(合計630億円)を計上しています。



「サハリン2」をめぐっては三井物産三菱商事が現在の運営会社に対して出資をしていますが、プーチン大統領は6月、事業主体をロシアが新設する会社に引き渡す大統領令に署名しました。

 

関係者によりますと日本政府は、三井物産三菱商事に対して事業主体がロシアが新設する会社に移っても株主として残るよう求めています。

 

岸田文雄首相は14日の記者会見で、「日本の権益を守り、LNG(液化天然ガス)の安定供給確保ため官民一体で対応したい」と述べています。

 

ロイターの問い合わせに対して、三菱商事は「政府・パートナーと連携の上で協議していく」、三井物産は「今後については政府、パートナー含むステークホルダーと協議中」とコメントしています。

 

三井物産の安永竜夫会長は7月21日、「サハリン2」について「(エネルギーの)安定供給には権益の維持が大事だ」と述べ、権益維持の方針を固めた政府の立場に理解を示しています。「受け入れられない条件なら断念する」とも強調して、ロシア側が提示する要件次第では撤退も選択肢になるとの認識を示しています。

 

英国のシェルが、サハリン2への対応を政府と独自で行っているのに対して、三井物産三菱商事のサハリン2への対応は常に政府の対応を参照していて特異です。シェルが、撤退をきめた2月以降、2社は、3月に損失計上はしていますが、サハリン2への対応を決めていません。6月に、大統領令署名が出て、2週間後に、政府が企業に、要請をしています。

 

これをみると、中国共産党と同じように、日本企業内にも政府の利害関係者が在籍しているように見えます。

 

1-3)バークシャーの対応

 

投資家ウォーレン・バフェット(Warren Buffett)氏がCEOを務める米国のバークシャー・ハサウェイ(Berkshire Hathaway)は、今まで、日本企業の利益率が非常に低いため、投資先として適さない」として、日本株には、投資してきませんでした。

 

しかし、バークシャーは、2020年8月末には65億ドル(約6900億円)をかけて日本の5大商社(伊藤忠商事、丸紅、三菱商事三井物産住友商事)の株式を5%以上取得したと2021年1月に発表しました。米国外の投資先としては最大規模であり、今後は保有比率を9.9%まで上げる方針を表明しました。バークシャーは、計画通り、伊藤忠商事三井物産三菱商事の株式を2021年に8から10%増やしています。これら日本の3商社は、2021年12月31日時点でのバークシャー保有額上位15銘柄にランクインしています。前年にランク入りしていたのは伊藤忠商事のみでした。

 

これから見ると、サハリン2の対応如何では、バークシャーが、日本株から、再び撤退する可能性もあります。

 

1-4)対内直接投資(FDI)

 

外資からの株式を通じた投資ではない対内直接投資は、(1)投資先国企業の買収などによる「M&A 投資」、(2)投資先国に新たに法人を設立する「グリーンフィールド投資」に大別される。

 

2019年、日本のGDPに占める対内直接投資額(FDI、ストック)の比率は4.4%であり、世界201カ国中最下位の201位でした(UNCTAD, 2020)。FDIの比率が最下位なので、日本は外資系企業のプレゼンスが世界で最も低い国になります。経済の規模を考慮すると、外資系企業にとって、日本は世界で最も閉鎖的な国、あるいは最も魅力のない国になります。ちなみに、200位は北朝鮮です。

 

2021/08/02のNewsweekで、リチャード・カッツ氏は、「対内直接投資を増やさずして経済改革に成功した主要国はほとんどないので、これは、日本が経済改革に失敗していることを表している」といいます。

 

2022/05/05にG7で、イギリスを訪れている岸田総理大臣は、ロンドンの金融街ティーで講演し「日本はこれまでも、これからも世界に開かれた貿易・投資立国であり続ける。日本経済はこれからも力強く成長を続ける」と強調し、日本への積極的な投資を呼びかけました。

 

しかし、FIDを見る限り、日本は経済改革に失敗していると評価されています。

 

また、サハリン2に見られるように、株式会社の運営についても、中国以上に、政府が介入していると評価されていると思われます。

 

つまり、日本の経済改革や、日本の企業経営は、日本国内では、権力者が行っているので、表立った反対はありませんが、海外からは、裸の王様だと見られていると言えます。



引用文献

 

英シェル、「サハリン2」撤退へ ガスプロム合弁解消 2020/03/01 日本経済新聞

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR28E9S0Y2A220C2000000/

 

英シェル、サハリン2権益売却巡りインド企業連合と交渉 2022/05/27 ロイター

https://jp.reuters.com/article/shell-russia-india-lng-idJPKCN2ND01T



なぜ日本株を買った?妻に買えと言った株は?世界一の投資家バフェットが売り買いした銘柄の真相 2021/01/30  @Dime

https://dime.jp/genre/1062398/

 

バフェット氏保有の5大商社、資源高恩恵で最高益続々-先行きは慎重 2022/02/04 Boolberg 黄恂恂

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-02-04/R6PQ2NDWRGG001

 

投資の神様ウォーレン・バフェットから株主への書簡…日本株、利上げ、アップル、気候変動などに言及 2022/03/10  MONY INSIDER

https://www.businessinsider.jp/post-251209

 

岸田首相 英国で講演 日本への積極的投資を呼びかけ 2022/05/05 NHK

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220505/k10013612851000.html

 

「サハリン2」は事実上の接収へ 日本のエネルギー安保は崩壊の危機に瀕している 2022/07/16  日刊現代

https://news.yahoo.co.jp/articles/1afd69dca6389a1c2e63bbb9cd523b61cfb8200f

 

サハリン2、権益なお不透明 政府支援も「条件」見えず―LNG調達、不安定化の恐れ 2022/07/21 JIJI.com

https://www.jiji.com/jc/article?k=2022072001049&g=eco

 

サハリン2の権益維持方針に理解 三井物産、撤退も選択肢 2022/07/21 KYODO

https://news.yahoo.co.jp/articles/2d3b46a32af87911d5456ec1723b7a9b88ba65cd

 

日本政府、サハリン2権益維持へ商社と調整 ロシアの条件待ち=関係者 2022/07/16 REUTER

https://jp.reuters.com/article/japan-sakhalin2-idJPKBN2OR03D

 

政府 サハリン2の権益維持へ 権益持つ商社に出資求める 2022/07/19 TBS News

https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/99040

 

対内直接投資が生産性向上に果たす役割 2013 通商白書https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2013/2013honbun_p/pdf/2013_01-02-04.pdf

 

日本の魅力は最下位?2021 REIT 清田 耕造

https://www.rieti.go.jp/jp/columns/s21_0008.html

 

日本は「北朝鮮より下の196位」というヤバい実態 日本の対内直接投資はなぜこんなに低いのか 2021/08/02 Newsweek リチャード・カッツ

https://toyokeizai.net/articles/-/444645