シェルの行動規範を巡って~2030年のヒストリアンとビジョナリスト

シェルの行動規範については、サハリン2に関連して「ビジョンと目的 (2022/04/13)」でも、言及しています。

 

2022/04/20のNewsweekに、加谷珪一氏が次のように述べています。

 

「日本はかつて、アメリカなど西側各国がイランに対して制裁を実施しているにもかかわらず、独自外交と称してイランとの石油開発プロジェクトを継続した過去がある。結局、アメリカとイランの対立が長く続き、最終的には日本も撤退に追い込まれ、投資を回収することはできなかった。

 

西側が制裁を強化しても、日本は一線を画しロシアとの協力関係を維持するのか、中国にメリットがあっても対ロ制裁を重視するのか、日本は重要な選択を迫られている。厳しい状況だが、今回の一件は日本にとって何が本当の国益なのかを考えるきっかけになる。国民的議論を行うことが重要だろう」

 

これから、過去に、イラン制裁で、同じようなことがあったこと、そのヒストリーの再構築がなされなかったことがわかります。

 

加谷珪一氏の2番目の論点は、「何が本当の国益なのか」という議論です。ロシアのウクライナ侵攻から2か月なので、その原因がヒストリアンの蔓延であれば、今更、ビジョンの検討がなされるとは思えません。

 

今回の論点は、「国益」ではなく、企業の「行動規範」です。シェルがサハリン2から撤退した理由は、国益ではなく、企業の「行動規範」ではないかと思われるからです。

 

以下に、シェルの「行動規範」の一部を引用します。

 

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(1)贈答品と接待

 

正しいことを実行する、そして実行していると見なされることは大切です。そのため、ビジネスパートナーから贈答品や接待(G&H)を受けたり、彼らにG&Hを提供したりすることは、特にその授受を上司や同僚、家族に伝えたり、公に知らせることがはばかられる場合には避けることが求められます。特に、業務上の決定に影響を与えたり、影響を与えうると他者から疑われるようなG&Hは、提供することも受け取ることも決して許されません。G&Hに関するシェルの方針を、代理業者や、政府機関や公務員を含めたビジネスパートナーに伝えるようにしましょう。

 

以下のことを、行動規範記録簿に登録する:

・公務員その他の第三者との間で、規定額を超えて授受されるすべてのG&H、利益相反を生む、または影響すると見なされる可能性のあるあらゆるG&H、また受け取りを辞退した、現金または個人的なものを含む度を超えた贈答品。

・公務員にG&Hを提供する場合、以下のことを提供したり支払ったりしない:観光目的の旅行や私的訪問の追加日数、家族やゲストの招待(ABCおよびSMEにより承認されている場合を除く)。公務員に提供するG&Hの価値が規定額を超える場合は、その提供に先立ち、行動規範記録簿を通じて事前承認を申請する。



(2)利益相反

Q:私の叔父は、この国のエネルギー事務次官です。このことを行動規範記録簿で申告すべきでしょうか?

 

A:自身の職務、その国のシェル事業およびその他の条件によっては、これは潜在的な、または実際的な利益相反に該当し、またはそのように見なされる可能性があります。すべての場合において、行動規範記録簿で申告すべきです。その後、あなたとシェル、叔父さんを守るために何らかの緩和措置が取られるべきかどうか、直属の上司と議論しましょう。



(3)政治活動

シェルの資金やリソースを、直接的にも間接的にも、政治運動や政党、政治的候補者やその関係者の資金援助のために使用しない。

・シェルの資金を、政治活動委員会(PAC)の支援のために使用しない。事務用品や電子メール、コピー機や電話などの会社の資産は、シェル従業員PACの支援にのみ使用する。

・シェルの資金を、慈善寄付という名目で政治的支払いに使用しない(ABCおよびAMLマニュアルを参照)。

 

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アメリカの企業は、ロビー活動に、大きな資金を投入しています。

 

そのような報道を見ると全ての企業が政治活動に、資金を投入しているように見えますが、実際には、企業による多様性があるようです。

 

デジタル庁が出来た頃に、幹部が、ITベンダーの接待を受けて問題になったことがあります。そのような場合には、日本では、接待を受けた側の問題が指摘されますが、接待をした企業側のモラルが問われることはあまりありません。

 

しかし、シェルの場合には、接待をする企業のモラルが、問われるルールになっています。

 

欧米の場合、関係者とランチを一緒にとって、情報交換をする場合はありますので、規定額の範囲の接待まで否定はしていないと思います。

 

一方では、昔よりは減ったと思いますが、社用族と言われるように、交際費を別途持って、利害関係者と積極的に、コンタクトする文化が日本にはあります。夕食と2次会、休日のゴルフの接待をすると昇進するようなルールです。これは、先進国の企業としては、許容されないと思われます。

 

SDGsが問題になっていますが、ガバナンスを含めて、日本企業のモラルには、問題が多いのではないでしょうか。少なくとも、サハリン2について、企業側から、「行動規範」にあっているか、否かという発言の報道は見かけません。

あるいは、企業を行政に置き換えれば、公務員の「行動規範」があっても良いと思われます。

 

貧困対策で、現金を配布する法案が通ったようですが、一時金で糊口を凌いでも、生活保護ベーシック・インカムなどの制度の改善をする、労働生産性を上げるなどの対策をしなければ、問題は解決しません。

 

悪い円安論議が出ていますが、円安が問題になるのは、日本企業の労働生産性が低く、国際競争力がないためです。円安で、輸出企業を助けるという一時的な対策を続けた結果、DXなどの技術革新に取り残され、労働生産性が改善しなかった結果、円安になった現状があります。

 

パンとサーカスの政治を繰り返せば、経済は崩壊します。パンとサーカスを回避するような「行動規範」があってもよかったのではないでしょうか。



引用文献

 

shell 行動規範

https://www.shell.com/about-us/our-values/_jcr_content/par/relatedtopics_1339962475.stream/1643028117551/3cf127a64d2b6b12c61303f063050b19d092d5cd/codeofconduct-japanese.pdf

 

「ロシア支援者」のそしりを受けるか、中国に権益を手渡すか...日本の苦しい二択 2022/04/20 Newsweek 加谷珪一

https://www.newsweekjapan.jp/kaya/2022/04/2-4.php