(2014年以降の武田薬品に、労働市場の再編と国際化の先行例をみることができます)
武田薬品は、2014年以降、年功型雇用を中止して、ジョブ型雇用に切り替え、膨大なレイオフを行っています。ジョブ型雇用問題を考える場合の典型例と思われますので、今回は、武田薬品を研究してみます。
1)日本の製薬会社の近況
ここ20年程、世界の製薬会社は、合併につぐ合併で巨大化し、2022年度のトップのファイザーの売り上げは9兆円あります。
2022年度の国内製薬会社の売り上げは、武田が、3兆600億円でトップ、以下、大塚、アステラス、第一三共、内外までが、1兆5000億円から1兆円で並んでいます。中外製薬は、新型コロナウイルス感染症治療薬「ロナプリーブ」の販売で、利益率が40%を越えて、利益率は、主要メーカーのトップになっています。利益率2位は、33%の塩野義、3位が27%の小野薬品です。
世界の売り上げランキングでは、武田が11位、大塚が21位、アステラスが、22位で、ベスト10はなく、ベスト20まで広げても、武田だけしか入りません。
なお、クスリの日本の特許収入は、マイナス3兆円の赤字であると言われています。
2)武田薬品の再編のマスコミ評価
2020/10/28(2022/01/27改訂)の経済界ウェブの記事「アリナミンや本社を売却した武田薬品に何が起こっているのか」の要旨を以下にまとめます。
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ウェバー社長は、2014年4月に英グラクソ・スミスクラインから一本釣りで入社以降、経営幹部は欧米メガファーマの出身者で固めた。
利益のでない非中核事業や非効率な資産は、巨額借金の返済原資に換金するのがウェバー経営の一貫した方針である。
2020年7月、国内営業部門で早期退職と転職支援プログラムを実施することが発表され、8月にはその対象社員が、30歳以上で勤続3年以上となることも示された。
国内医療用医薬品事業の一部は、人員過剰だと認識されている。
今後こうした分野では新薬投入が止まり、製品フランチャイズは維持できない見通しであることから、現在2100人を擁する国内の営業要員も、いずれ大幅削減となる可能性が指摘されている。
10年後の武田薬品は、東京に本社登記を残したまま、実質的な事業の軸足は、ほかの多くの欧米製薬企業と同じように米国に移している公算が大である。
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執筆者は、わかりませんが、経済界は、ひたすら、レイオフはけしからんという主張です。
しかし、現在の売れ筋のクスリの特許が切れるまでに、新薬の開発能力を高め、余剰人員を整理しておかなければ、会社はつぶれてしまいます。
2021/09/30と2022/06/30のダイヤモンドの土本匡孝氏の記事の1面(無料で読める範囲)の書きっぷりは、経済界と同じです。
武田は、退職してベンチャーで研究所を始める社員には、5年間の給与保証をつけています。
日本で、レイオフして、再編することは非常に困難ですが、武田は、その難しい点を進めています。
スポーツ新聞は、情に訴えた記事を書いて、部数を伸ばすのが、コンセプトですから、武田の経営は、人情がないと書くと予想できます。
しかし、経済界、ダイヤモンドは、経済誌です。合理的な経営を追求するのが、雑誌のコンセプトに思われますが、そうはなっていません。
3)武田の評価
東洋経済の「上場企業財務力ランキング」最新トップ300社をみると、ウェバー社長が入社する前の2013年と最近の2022年で評価は下がっていません。
2019年のリンクトイン 「TOP COMPANIES」今、入りたい会社 ランキング 日本版では、上位25社のうち、12位が武田薬品工業です。
2022年版では、25位に入っていませんが、製薬委会社では、ノバルティスだけが入っていますので、極端に悪くなっているとは思われません。
武田のHPをみると、何をしたいのかというビジョンが明確に書かれています。
クリストフ・ウェバー社長は次のように書いています。
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私はタケダに入社した時、従業員が性別に関係なく活躍して欲しいという思いから、国内事業におけるジェンダー・ダイバーシティを高めることを優先事項に設定しました。2015年3月末の時点で、女性の管理職は約4%でしたが、現在(2021年7月末時点)では、約16%の女性が管理職としてリーダーシップを発揮しています。
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女性職員比率は30%なので、最終的には、女性の管理職30%が目標です。6年間で、12%の増加は、驚くべき数字で、レイオフなしには達成できません。
2022/06/30のダイヤモンドで、土本匡孝氏は、次のように書いています。
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メガファーマ(巨大製薬会社)の一つ、英アストラゼネカ(AZ)日本法人社長に、武田薬品工業で幹部職を務めた日本人が近く就任する。
内資製薬大手の幹部を務めた日本人が外資製薬の日本法人トップに就任するのは異例のこと。しかもこの人物は、武田薬品のクリストフ・ウェバー社長兼CEO(最高経営責任者)の後任候補の1人としてうわさされたこともある、中堅有望株だ。
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ジョブ型雇用では、経営者も含めて労働者は、企業を渡り歩くことが基本です。問題は、今まで、年功型組織にいた人は、スキルが身についていないので、転職できない点にあります。転職できないので、レイオフできないとなれば、変わらない日本から抜け出せません。
英アストラゼネカ(AZ)日本法人社長に、武田薬品工業の幹部が転職したということは、ジョブ型雇用で、転職できる人材の育成に成功したことを意味します。2014年から、8年しかたっていません。8年武田で、ジョブ型雇用で働けば、転職のオファーが来るのです。これは、明らかに、人材育成の成功例です。
4)補足
2022/06/25の東洋経済に、小幡 績氏が、筆者はの主張と非常によく似た、論点を提示していますので、簡単に補足しておきます。
経済の回り方については、筆者も小幡 績氏と同じ視点です。大きな違いは、筆者は、主たる原因が、年功型雇用とレイオフの禁止にあると考えている点です。
引用文献
【2022年版】国内製薬会社ランキング トップ武田は3.6兆円、2位大塚HD、3位アステラス…第一三共 8期ぶり売り上げ1兆円 2022/05/26 Answers News 亀田真由
https://answers.ten-navi.com/pharmanews/23230/
【2022年版】製薬会社世界ランキング ファイザー、コロナワクチンで5年ぶり首位…ロシュは2位後退 3位はアッヴィ2022/05/18 Answers News 亀田真由
https://answers.ten-navi.com/pharmanews/23177/
CEOからのメッセージ 武田薬品
https://www.takeda.com/ja-jp/recruitment/dei/ceo-message/
https://www.takeda.com/ja-jp/recruitment/dei/kpi/
【スクープ】武田薬品の日本人幹部がアストラゼネカ日本法人社長へ、「異例の大抜擢」が与える3つの衝撃 2022/06/30 ダイヤモンド 土本匡孝
https://diamond.jp/articles/-/305707
武田薬品「世界トップ10陥落」の根本原因、創薬投資力で海外勢に見劣りする財務事情 2022/06/30 ダイヤモンド 土本匡孝
https://diamond.jp/articles/-/305309
武田薬品が製薬・世界トップ10「陥落」の崖っぷち、コロナバブル乗り損ねの憂鬱 2021/09/30 ダイヤモンド
https://diamond.jp/articles/-/282779
アリナミンや本社を売却した武田薬品に何が起こっているのか 2020/10/28(2022/01/27rev)経済界ウェブ
https://net.keizaikai.co.jp/51237
アステラス製薬「早期退職650人は想定以上」、それでも退職者再募集の怪に業界ざわつく 2022/04/14 ダイヤモンド 土本匡孝
https://diamond.jp/articles/-/301278
「上場企業財務力ランキング」最新トップ300社 2022/03/03 東洋経済
https://toyokeizai.net/articles/-/535351
2012年度「新・企業力ランキング」トップ300 2013/02/25/ 東洋経済
https://toyokeizai.net/articles/-/12953
リンクトイン 「TOP COMPANIES」今、入りたい会社 ランキング 日本版を初公開 2019/04/03 サンスポ
https://www.sanspo.com/geino/news/20190403/prl19040306320001-n1.html
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