(レイオフが一番優しい学びなおしの可能性があります)
前回の「武田薬品の研究」で引用したように、ジョブ型雇用に反対する人は、「レイオフ=食べていけなくなる」という図式で、レイオフを制限して、労働生産性を固定してしまい、結局は倒産になってしまうリスクを無視しています。
一方、利益に対する労働者の取り分である労働分配率は、労働市場のない(転職のない)日本だけが下がり続けています。
レイオフされなくても、労働市場がない状態で、労働分配率が下がれば、労働者の所得は下がり続けます。
選挙対策で、一時金をもらうより労働分配率を上げて、欧米並みにしてもらわないとかないません。
欧米は、ジョブ型雇用によって、労働市場がありますので、労働分配率を下げれば、社員は転職して、他の企業にいってしまいます。日本は、労働市場がありませんので、賃金が下がっても転職できません。
こう考えると、日本と欧米で、どちらが奴隷経済になっているのかは言うまでもありません。
今回は、労働分配率と並んで、賃金にむずびつく労働生産性をあげる学びなおしを考えます。
いま、ある人の労働生産性が、zだったとします。学びなおしで、労働生産性が、z+Δzになり、Δzだけ増加したとします。このΔzを全ての労働者について合計した値が、国全体の労働生産性の増分Σzになります。
国全体の賃金を増やすことは、Σzを最大化することになります。
問題の本質は、どうしてΔzを増やすかという点にあります。
人間は生物ですから、意識するとしないとにかかわらず棲息環境に適応します。
そう考えると、どのようにして、Δzを増やしやすい環境を作るかは、極めて重要になります。
今後、デジタルシフトに伴って、今の仕事がなくなるので、多くの労働者が、学びなおしをする必要があります。
1)レイオフの学びなおし
現在は、レイオフするのは、あまり人道的でないと考える人が多いように思われます。
レイオフの有無で考えれば、学びなおしには次の手順が考えられます。
(1)現在の企業で午前中は、働きながら、午後は、学びなおしのコースを受講する。
(2)レイオフされて、転職のための生活費の支給を受けながら、学びなおしのコースを受講する。
なお、どちらの場合も、コースの受講料は、公的負担でまかなわれているとします。
常識的に考えても、(1)で、成果を上げるには、超人的な意思の力がないとできません。普通の人間には、Δzを増やすためには、(2)の方が、優しいのです。
2)企業で働きながらの学びなおし
次に、企業で働きながらの学びなおしを考えます。
(3)年功型雇用での学びなおし
(4)ジョブ型雇用での学びなおし
これも、(4)は、スキルが上がっても、賃金が上がらなければ、転職すればよいので、モチベーションがあがります。(3)は、スキルに関係なく、ある年齢に達しないとポストがあがりませんので、モチベーションは低いです。
パーソナル総合研究所「APAC就業実態・成長意識調査(2019)」の調査の一部を引用します。
この調査は、APAC(アジア・オセアニア)の14の国を対象にしています。
調査対象の国とアンケートを行った都市は以下です。
APAC14の国・地域(主要都市)
【東アジア】
中国(北京、上海、広州)、韓国(ソウル)、台湾(台北)、香港、日本(東京、大阪、愛知)
【東南アジア】
タイ(バンコク)、フィリピン(メトロマニラ)、インドネシア(ジャカルタ)、マレーシア(クアラルンプール)、シンガポール、ベトナム(ハノイ、ホーチミンシティ)
【南アジア】
インド(デリー、ムンバイ)
【オセアニア】
※日本(東京、大阪、愛知)
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「現在の勤務先で継続して働きたい」の比率は、日本は、(とてもそう思う)19.1%で、(とてもそうおもう+ややそうおもう)52.4%で、共に14カ国中最低です。
20代の「現在の勤務先で継続して働きたい」の比率は、日本は、49.0%で、14カ国中最低です。
「他の会社に転職したい」(とてもそうおもう+ややそうおもう)は、日本は、25.1%で、14カ国中最低です。
「会社を辞めて独立・起業したい」(とてもそうおもう+ややそうおもう)は、15.5%で、14カ国中最低です。
「何歳まで働きたいか」は、日本が63.2歳で最も高いです。
社外の学習・自己啓発を「とくに何も行っていない割合」は、日本は46.3%で、最多です。2位のニュージーランドは、22%です。
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日本は、学びなおしについては、最低の意識にあります。
日本の労働者の質は、14カ国の中では、もはや高いとは思われません。
学びなおしが、収入の増加に繋がっていません。
3)学校での学習
学校での学びなおしとは、本来は、社会人教育のことです。ここでは、学びなおしではなく、普通の学習の効果を論じます。
検討事項は、レイオフと同じような落第です。
日本では、レイオフは、避けるべきと考えることも多いですが、落第についても同じ傾向が見られます。
(5)落第のない条件で学習する
(6)落第のある条件で学習する
これもレイオフと同じ問題があり、落第が一切ない、つまり、中身が全く理解できなくても単位がとれるエコシステムが、学びやすいとはいえません。
落第にも、留年するレベルもありますし、追試を受けるレベルもあります。
中身が全く理解できなくても単位がとれるのであれば、中身を理解する努力は無駄だと考える学生が出れば、「落第のない条件」は、学習の阻害要因になります。
たとえば、ネットワークで、無料で学習できる大学のコースがありますが、コースを始めて、終了まで達する人も割合は10%には届きません。また、コースを完了した人の多くは、既に、大学を卒業した人であって、大学を卒業していない人の割合は非常に低くなっています。
先進国では、高等教育が無料か安価な国も多くありますが、卒業するのは容易ではありません。
授業料を無料にしても、Δz = 0でも卒業できるのであれば、教育効果はゼロになります。
どのような教育を設計すると、効率がよくなり、学びやすいかは、サイエンスの問題ですが、今のところ、サイエンスは無視されているように思われます。
とくに、デジタルトランスファーでは、暗記の価値は劇的に下がっていますので、「中身を理解する」ことを無視したカリキュラムには、価値がなくなっています。
引用文献
パーソナル総合研究所 APAC就業実態・成長意識調査(2019年)
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/data/apac_2019.html