ジョブ型雇用とは何か

1)問題点の所在

 

岸田文雄政権は看板政策「次元の異なる少子化対策」を巡り、児童手当などの給付拡充のメニューを出す一方、財源の裏付けの負担の制度設計は先送りしてきました。少子化対策の財源は1兆円規模ですが、首相は「国民に実質的な追加負担を求めない」と繰り返してきました。社会保障の歳出改革や社会保険料の引き上げで捻出する方向だが、結論は不透明です。

 

「106万円の壁」問題も、微調整の議論が繰り返されています。

 

企業は、ITエンジニアの確保のために、初任給をあげています。

 

しかし、どちらの場合も、年功型雇用や、正規・非正規の格差を温存して、微調整で、済まそうとしています。

 

これらの政策が成功することはありません。

 

それは、単純な話で、1兆円では、資金のオーダーが小さ過ぎるからです。

 

年功型雇用を変形させて、初任給に差をつけたり、課長や部長にする年齢を引き下げても、それは、ジョブ型雇用ではなく、年功型雇用の派生形にすぎません。

 

年功型雇用は、経験に価値がある、帰納法は正しい推論であるという前提にたっています。

 

帰納法の問題は、別途論じますが、帰納法は正しい推論ではありません。

 

経験の価値は、1年で、30%減価します。2年で半分になります。なので、ジョブ型雇用で経験が問題にされる場合、それは、最大で、3,4年分に止まります。

年功型雇用では、若年層と高齢者の給与格差は3倍あります。

 

つまり、これをジョブ型雇用で、同一ジョブ同一賃金なるように平均化するには、若年層の給与を1.5倍にして、高齢者の給与を半分にする必要があります。その後で、年齢に関係なく、能力のある少数の幹部に、管理職手当を払うことになります。

 

ここで、注意しなければならないのは、ジョブ型雇用は、労働市場、つまり、企業間の労働移動を前提としていることです。

 

つまり、単独の企業では、転職の機会が増えないので、ジョブ型雇用になりません。

 

ジョブ型雇用は、労働市場の一部です。

 

特定の企業が、年功型雇用の派生形を、ジョブ型雇用と呼ぶ事例が多発していますが、これは、ジョブ型雇用とは区別する必要があります。

 

ジョブ型雇用は、国際標準です。リスキリングは、こうしたジョブ型雇用の世界の話です。

 

経済の停滞から抜け出して、婚姻率をあげるには、ジョブ型雇用によるドラスティックな所得配分の見直しが必要です。

 

1兆円や、「106万円の壁」では、調整幅が小さすぎて、効果はありません。

 

年功型雇用を温存して、最低賃金を上げても、調整幅が小さすぎて、効果はありません。

 

2)スタグフレーション

 

経済学は、市場経済を前提とした景気循環論をベースにしています。

 

市場経済では、労働者は、働けば、生活が楽になり、貯蓄が増えます。

 

労働市場では、労働者は、スキルが上がれば、収入が増えます。

 

市場経済では、企業は、DXに投資しても、生産性が上がれば、投資コスト以上の利益を得られてます。

 

労働市場のない社会主義では、労働者の賃金は決まっています。仕事は、ノルマが割り当てられます。

 

ノルマ以上に仕事をしても、所得は増えません。

 

社会主義では、市場経済を前提とした景気循環論は起こりませんが、技術革新が封印され、所得は増えません。

 

日本の年功型雇用は、護送船団方式と結びつき、労働市場を破壊してしまいました。

 

労働者は、スキルが上がっても、収入は増えません。

 

青色ダイオードで、著名な中村修二氏は、発明に対して得た報奨金が約2万円と語り、それを聞いたアメリカの研究者仲間から「スレイブ・ナカムラ」(スレイヴ=奴隷)とあだ名がつきました。日亜化学はボーナスや昇給で上乗せをしており、1989年以降の11年間の対価は、総額6195万円とも言われますが、それでも、労働市場があるアメリカの相場とは比較になりません。花形技術者の給与は、ポストに給与が付く部長以下と思われます。

 

年功型雇用では、リスキリングしても、収入の増加には結びつかないことがわかります。

 

中小企業は、大企業の下請けになっていて、そこには、製品を販売する市場はありません。

市場がないでの、中小企業は、DXをしても、投資を回収することができません。

 

市場があれば、経済合理性にしたがって、企業はDX投資をします。その場合に、予想されるDX投資額に比べて、DX補助金の額は、2桁くらい低いと思われます。

 

そもそもDXが遅れている企業ほど、DX補助金をもらえる可能性がたかくなりますので、この補助金は、モラルハザードになります。

 

これまで、日本経済は、需要が足りないデフレと言われました。多くの専門家は需要が足りない原因に目を背け、単純な(景気循環論的な)需要不足であるとして、各種の財政政策や金融政策を進めましたが、効果はありませんでした。

 

経済学の教科書に書かれている政策は、市場経済のある欧米を前提にしています。

 

日本には、労働市場はありません。

 

消費財の製品市場は、市場経済になっていますが、中間財の製品市場は極めて小さいと思われます。

 

中小企業は、世界を相手したネット販売ビジネスを展開することを期待しますが、この点では、日本のネットビジネスが、中小企業を手助けできる部分はまだ多いと思われます。(注1)



2023年9月1日、需要と供給の差を示す「需給ギャップ」が3年9ヵ月ぶりにプラス転換しました。

 

加谷 珪一氏は、「日本経済は激しいインフレと供給制限が発生するスタグフレーションに陥る可能性が高い。岸田政権が成立を目論んでいる経済対策の中身次第では、日本経済の別れ道となる可能性がある」と主張しています。




3)人権問題

 

最近では、全ての政策が、補助金のばらまきになっています。エビデンスに基づく補助金の効果は、検証されていません。

 

少子化対策には、予算は不要です。正規雇用と非正規雇用の賃金格差、ジェンダーによる賃金格差という人権侵害を、法律を遵守することでなくせば良いだけです。

 

予算には計上されませんが、その結果動くお金は、筆者は、直接効果だけで、最低でも20兆円は越えると試算しています。間接効果を含めれば、少なくとも100兆円くらいになると思います。これが、「護送船団方式のコスト」のテーマです。

 

この人権侵害の体系が年功型雇用になります。

 

この部分を放置していますので、政策の効果は全く期待できません。

 

賃上げ要請をしても、賃金が上がるのは、大企業の正規社員だけです。

 

収入が一番少ない非正規雇用と中小企業の労働者の賃金は上がりません。

 

ジャーニーズ問題でも、人権無視が続いていました。人権無視が見直されたのは、BBCが問題を取り上げ、国連の人権調査が入ってからです。

 

これを見ると、国内では、空気を読むことが、人権問題より優先しています。

 

被害者が、海外に向けて、情報発信する以外に、解決方法はないと思われます。

 

定年は、年齢による差別であり、人権無視です。定年延長も、人権無視になります。

 

人権無視は、SDGs違反にもなります。



注1:

 

日本の観光地のガイドも、英語の情報が書けています。

 

英語ができないので、外国人には来てほしくないように見えます。

 

英語のできる外国人が、日本の観光資源の開発をして、ビジネスを成功させています。

 

そうした例外を除けば、世界の市場で勝負する日本の地域企業は少ないと思われます。




引用文献

 

財源確保は茨の道 高齢者と現役 世代間対立も 2023/10/02 産経新聞

https://news.yahoo.co.jp/articles/f252925b8d6222616ef73354627df925910ef3be

 

最近「タクシーが全然捕まらない」ことが暗示する、ヤバい日本経済の実態…岸田首相は「人手不足」の理由に気づいているのか? 2023/10/04 現代ビジネス 加谷 珪一

https://gendai.media/articles/-/117165?imp=0