6)問題点の整理
6-1)問題点が理解されていない
ここまで、護送船団方式には、大きなマイナスの機会費用があると分析してきました。
護送船団方式では、官僚は天下りして、ポストに見合った所得を得ます。
大企業は、中小企業の幹部に天下りします。
これは、戦時体制の「1940年体制」であって、ここには、系列取引はありますが、市場経済はありません。つまり、人権が侵害されるシステムになっています。
戦時体制では、戦争遂行が最優先なので、人権が問題にならないのは、当然とも思われます。特攻は、その典型です。
多くの批判者は、官僚は天下りして、ポストによって高い所得を得ることは不当だと考えています。あるいは、所得は、ジョブに見合わない不当に高いものであると主張しています。
しかし、筆者は、官僚の天下りが、不当に高い所得であるとは考えません。
天下りする官僚の多くは、文系であっても、自然科学が活用できるはずです。
試験秀才が、実務に使えるかという問題はありますが、基礎学力が高いので、多くの人は、リスキリングが容易にできるはずです。
護送船団方式は、自然科学を封印して、形而上学の世界に生きる対価として、天下りポストを提供しています。
護送船団方式を中止した場合、官僚の所得はどうなるでしょうか。
官僚がジョブ型雇用で、アメリカと同じように、民間企業と行き来する場合を考えます。
官僚が優秀であれば、文系でも自然科学ができ、30代で幹部になれます。年収1億を超えることもざらのはずです。
形而上学のないジョブ型雇用では、リアルワールドの課題が解決されます。
たとえば、形而上学の履修主義ではなく、自然科学の習得主義になるはずです。
分数のできない大学生の数は、ゼロにはなりませんが、減少するはずです。
金融機関は、若い優秀な官僚の転職を受け入れて、金融工学をつかった資金運用に長けているはずです。
リスキリングは、収入増加に、繋がっているはずです。
優秀な官僚であれば、十分な貯蓄ができて、50歳前に、十分FIREできるはずです。
50台と60台の時間を自己実現に使える人生と、ポストで所得を得るために、毎日、官庁や天下り先に出勤する人生の違いは大きいと思います。
つまり、護送船団方式は、優秀な官僚にとっては、「天下りを入れても、収入が少ない」、「形而上学で、リアルワールドの問題の解決を放棄している」、「収入がポストにつくので、スキルアップが無効になる」といった3重苦の世界を意味します。
官僚が、民間と交流すれば、ジニ係数は大きくなり、貧富の差は増えます。しかし、経済が成長するので、貧困問題や年金問題は解消されます。
ジニ係数は、経済成長を無視しているので、貧困問題の評価指標としては、不適切です。
このように、官僚が優秀であれば、護送船団方式を中止するはずです。
どうして、官僚が護送船団方式を中止しないのか、その理由がわかりません。
6-2)インフラの問題
インフラ分野で、護送船団方式で、天下りをするには、ダムや道路を建設し続ける必要があります。
しかし、線状降水帯は、ダム地点ではなく、平地に雨をふらせます。この場合には、住宅の庭を透水性にして、雨水の流出を抑える政策が有効です。欧米や、中国では、Sponge Cities政策が行われています。この政策では、業界に公共事業のお金が流れないので、天下りポストを確保できません。なので、効果のないダムを造り続けます。
「信濃川水系緊急治水対策プロジェクト」には河道掘削、遊水地整備等(水田の貯留機能向上のための田んぼダムの取組推進、学校グラウンドなどを活用した雨水貯留施設が、入っています。
しかし、基本的に過去の政策の延長であって、次の点がかけています。
(1)人口減少に伴う土地利用誘導
(2)Sponge Cities政策
(3)建設コスト・維持管理コスト・トータルコストの最少化
(4)自然河川管理
ダムや遊水地の設計理念は、洪水は避けるべきものという前提があります。
自然河川管理では、洪水は自然環境にとって必要な要素であると考えます。
氾濫原は、河川にとって必要なパーツです。
耕作放棄水田の面積は大きいので、田んぼダムではなく、氾濫原の復元が可能です。
日本人口が半分になるのであれば、プロテクトエリアを半分に縮小しないと、維持管理コストが出せなくなります。簡単に言えば、予算が半分になった場合に、どこに優先的に予算を配分するかという問題です。
今まで、官僚が出世できる基準は、予算とポストを増やすことでした。
基準がここにあれば、官僚は過去の政策の延長を続けます。
ここには、システムの問題があります。
2021年に、将来の人口推計や各自治体の減価償却費の推移などを基に、2040年時点において水道事業が赤字にならないための料金を、EY新日本有限責任監査法人と水の安全保障戦略機構が試算しました。それによると、全体の94%の自治体で値上げが必要であり、2018年を起点とした値上げ率の平均は、2040年には、43%にも達します。
加谷珪一氏は、2021年に、この原因を次のよう指摘しています。
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インフラは必ず劣化するので、減価償却を設定し、当該分だけ更新費用を確保できなければ継続利用は不可能である。当初から設備の更新を考慮に入れた(高い、筆者注)料金体系にしていれば、急激な値上げを回避できた可能性がある。
水道は基本的に人口に応じた整備しか行われないのでまだいいほうだが、道路や橋などはいくらでも建設できる。日本では高度成長期にインフラを整備した際、設備の更新を考慮に入れず、新規建設の拡大を最優先してきたが、そうなってしまった最大の理由は、新規建設のほうが圧倒的に政治利権として魅力的だったからである。
水道に限らず、日本の公共インフラは皆、似たような状況にあり、今後、維持が困難になる地域が続出する。人口減少も設備の劣化も以前から分かっていたことであり、これは目先の利益を優先してきたツケと言わざるを得ない。
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加谷珪一氏は、「高度成長期に」と言っていますが、高速道路や新幹線をみれば、2023年現在でも、状況は変わっていないように見えます。
2023年7月31日、厚生労働省水道課は、運搬送水の導入を検討する自治体向けにガイドラインをまとめました。過疎地域では、水道を中止して、給水車を使う方法です。
こうなった原因には、加谷珪一氏が指摘した当初から設備の更新を考慮に入れた高い料金体系になっていなかったこともありますが、設計上の問題もあります。
配管がモジュール化され、人口減少時には、使用頻度の少なくなったモジュールを切り離せれば、維持管理費は軽減できます。給水車を待つのではなく、最悪でも、共同水道口までは、配水を確保する方法です。人口変化を想定したフレキシブルな設計になっていないと、人口が減少しても、全線をメンテナスする必要があり、維持管理の負担が全く減りません。つまり、全線廃止になります。これは、明らかな設計ミスですが、多発しています。
高速道路は、無償化を先延ばしにしましたが、今後、交通量が減るので、高速料金が上がって、利用者が減少する負のスパイラルに陥る可能性があります。交通量の少ない、渋滞の少ない高速道路は維持できないはずです。
このように、インフラ整備においても、護送船団方式には、マイナスの機会費用があります。
インフラ整備関連の公務員になった人は、例えば、本来は、ダムをつくりたかったのではなく、洪水を防止したかったはずです。
ジョブ型雇用で、民間と交流すれば、「所得が増え」、「洪水対策ができ」、「スキルアップでき」ます。これは、民間企業がジョブ型雇用をしていて、労働市場があるという前提ですが。
スキルアップが出来なくなった人は、スキルがなくとも、ポストで給与が支払われる、護送船団方式にしがみ付くと思われます。
しかし、スキルアップが出来る優秀な人とって、護送船団方式は、マイナスです。
若い優秀な人材は、既に、官僚に応募しなくなっています。
つまり、システムとしての官僚の護送船団方式は既に終っています。
問題は、撤退を先延ばしにして、症状を悪化させていることです。
屋根から、といをつかって、天水(雨水)を大きな水がめにためて利用しています。
飲料水に使うには、煮沸する必要がありますが、生活用水に使用するには、不便はありません。
恐らく、コストと利便性を考えれば、給水車よりも、生活用水は、天水(雨水)を使い、飲み水は、ミネラルウォーターを購入した方が、よいと思われます。さわ水や地下水が使えれば、それを使う方法もあります。
給水車を眺めながら、発展途上国にあこがれる人が出て来るかもしれません。
システムとしての護送船団方式は既に終っていますので、これから、崩壊がはじまります。
どこから崩壊が始まるかも、追って考えてみたいと思います。
引用文献
目先の利権を優先してきたインフラはもう限界...日本人が知らない大問題 2021/06/22 Newsweek 加谷珪一
https://www.newsweekjapan.jp/kaya/2021/06/post-146.php
過疎地への配水はタンク車で…老朽化した水道管の維持難しく厚労省が指針 2023/07/29 読売新聞
https://www.yomiuri.co.jp/national/20230729-OYT1T50255/
信濃川水系流域治水プロジェクト
https://www.mlit.go.jp/river/kasen/ryuiki_pro/pdf/84/84-3.pdf