(ジョブ型雇用は、諸問題の要石です)
第2章の最後に、労働者と企業の関係を考えます。
その前に、ジョブ型雇用とは何かを補足しておきます。
1)業績評価がジョブ型雇用ではない
ジョブ型雇用とは労働市場の成立のことです。
年功型では、年齢が増えるにしたがって、給与が増えます。
組織が逆ピラミッドになって、年功型の給与支払いが、コスト高になったので、企業は、年寄りの数を減らしたい訳です。
以前は、窓際族といって、働かなくても出勤すれば、給与を払っていました。
これが、可能であったのは、規模の経済がはたす役割が大きかったためです。
重厚長大な産業が経済の中心であった場合には、競合企業の参入障壁が高いので、窓際族を受け入れる余裕がありました。
産業の中心が、サービス産業になり、生産施設の規模の経済が働かなくなった結果、コストをカットしなければならなくなっています。
それから、重厚長大産業は、中国との競争に敗れて、競争力がなくなった点もあります。
こうした問題があって、多くの企業では、ジョブ型雇用の導入をすすめています。
基本的な考え方は、社員の業績を評価して、給与に反映させることを考えています。
しかし、この考えは、間違っていて、実現不可能です。
ジョブ型雇用は、各社員のジョブ内容を明確に記載する必要があります。
このジョブ(仕事)の内容に対して、給与が市場で取引されます。
この時点で、労働者は流動的になります。
同じジョブに対して、社員が受ける場合と、新規雇用者が受ける場合がありますが、その選択は、コストパフォーマンスに従って行うことになります。
ジョブ型雇用を始めた時点で、社員は退職したり、新規に雇用することが日常的に起こります。
ジョブの内容を明示した時点で、雇用者は、現在の社員を継続して雇うか、新しい社員に入れ替えるかという選択をすることになります。
社員は、この企業で継続して働くか、転職するかを選択することになります。
同じジョブに対して、給与が低い場合には、優秀な社員から転職していなくなります。
2)労働市場と組織の関係
ところで、社員が入れ替わる場合に、仕事の継続性が問題になります。その内容は、2つに分かれるでしょう。
(1)ジョブの内容が文書化されていない問題
(2)社員があまりに頻繁に入れ替わると仕事の継続性が困難になる問題
(1)は、ジョブ型雇用をするのであれば、必須の条件になります。
年功型雇用をしている場合に、(2)があるので、ジョブ型雇用に切り替えられないという説明がなされる場合がありますが、屁理屈だと思います。
例えば、2年毎に社員の3分の1を入れ替えることにします。ここで入れ替えるというのは、新規に雇用してもよいし、年功型賃金の社員をいったん解雇して、ジョブ型雇用で、再雇用してもよいという意味です。ともかく、ジョブの内容と、被雇用者のできる仕事と要求する給与のバランスを考えて、ベストな人材を選択することにします。これを6年かけて3回繰り返せば、全社員が、ジョブ型雇用に移行できます。
なお、ジョブ型雇用になれば、収益性の低い部門の給与が低くなるため、人が集まらなくなり、その部門は、廃止されます。官庁の省庁再編が必要であるのは、年功型雇用であるからで、ジョブ型雇用にすれば、縦割りは崩れます。企業の場合には、給与は、利益を反映します。官庁の場合には、到達目標を決めて、達成度を給与に反映させるなど、利益以外の指標の導入が必要になります。これを間違えると、不要な組織が生き残ることになります。
3)年功型雇用と水平分業
アップルなどの企業は、水平分業に移行したのに対して、日本企業の多くは垂直統合にこだわった結果、価格競争に敗けたという分析もあります。
あるいは、水平分業と垂直統合にはおのおのメリットとデメリットがあるというような説明をしている新聞等もあります。しかし、企業の幹部が、転職経験はゼロの人ばかりになると、垂直統合以外の選択肢は、あり得ないようにも思われます。
日産のゴーン前会長は、一時期は、カリスマ経営者と思われていましたが、最近では、評価が下がっています。
ゴーン前会長のしたことは、部品調達を系列に限る垂直統合を止めて、コスト優先にしたことです。つまり、ゴーン前会長以外の日本人の経営者は、企業が大赤字にもかかわらず、垂直統合を中止できなかったと思われます。
他の日本企業も、日産と似たような状態であったと考えれば、垂直統合を続けたのは、年功型雇用で、経済合理性に基づく経営判断ができなかったためと考えられます。垂直統合の系列会社には、親企業から、幹部が天下りしているところもあります。こうなると、垂直統合を止めると、天下り先を潰したという批判がでる可能性があります。
4)まとめ
水平分業と垂直統合、年功型雇用とジョブ型雇用、男女の賃金格差、昇格格差、低い賃金、DXの遅れなど、いくつかの問題があります。
その場合に、他の問題の原因になる問題と、他の問題の結果生ずる問題があります。
年功型雇用とジョブ型雇用は、これらの中で、最も他の問題の原因である可能性が高い問題であると、筆者は考えます。この問題は、要石であって、この問題を解決できれば、他の問題も解決できるか、大きく変容します。
とはいえ、ジョブ型雇用を、「社員の業績を評価して、給与に反映させる」ことと勘違いしていると問題の本質を見失うことになります。