デジタルシフトと運行情報公開の効果~2030年のヒストリアンとビジョナリスト

(デジタルシフトの後では、運行情報公開は産業育成のカギになります)

 

「規制か、情報開示か」の続きの話題です。

 

テーマは、今後の小型遊覧船の安全性の向上です。

 

前回の要旨は、小型旅客船の安全対策検討委員会は、規制強化に乗り出すと思われるが、それが、安全性の向上に繋がるエビデンスはなく、情報公開の方が有効と考えるというものです。

 

今回は、情報公開の中でも、運行情報公開について、もう少し考えてみます。

 

飛行機の墜落事故の場合には、飛行記録は、ブラックボックスに記録されているので、ブラックボックスを回収して、事故原因の分析を行います。

 

自動車では、テスラは、現在、運転記録をリアルタイムで、収集して分析できるようになっています。トヨタは、T-コネクトを利用していれば、同様のサービスを受けられますが、過去に収集した運転記録のデータ量では、テスラに大きな差をつけられています。

 

まだ、市販はされていませんが、グーグルの自動運転車のウェイモ(Waymo)も膨大な走行実験記録データを収集しています。

 

IIJのドローンは、飛行記録のデータを操作盤(タブレット)から、送信して、共有します。この機能を使うと、操作盤の位置情報が漏れてしまうので、ウクライナ政府は、IIJに対して、非公開に設定するように要求しています。

 

建設機械のコマツは、重機の稼働データをリアルタイムで収集して分析する(コマックス)ことで、故障を未然に防ぎ、稼働率をあげています。最近、コマックスは、アマゾンのクラウドサービス上に、移植されました。

 

ここまで、書けばおわかりと思います。

 

小型遊覧船の安全性を向上させるベストな手法は、位置、速度、エンジン、気候などの運行データをリアルタイムで収集して分析して、アドバイスすることです。

 

こうしたシステムは、自動運転のシステムと共通性が高いので、自動運転の技術が進めば、容易に、実現できます。

 

その時に、キーになるのは、運行データです。操船アドバイスシステムに学習させる良質な運行データがあれば、操船アドバイスシステムの開発は、容易になりますし、このデータが無ければ、システム開発は困難になります。特に、事故や故障時のデータは、貴重で有益です。

 

良質な操船アドバイスシステム(あるいは、その先の自動航行システム)が開発できれば、それは、有力な商品になり、輸出も可能です。

 

コマツトヨタは自社の製品の利用者のデータを集めていますが、非公開です。

 

運用データが集められ、機械学習に用いることができれば、操船アドバイスシステムの開発は容易です。

 

現時点では、小型船の造船メーカーは、操船アドバイスシステムが開発できないので、センサーをつけたり、運行データをクラウド上に保存していません。コマツの例をみれば、センサーや、運行データをクラウド上に保存するシステムは、さほど高価ではありませんが、それでも、有無による価格差はあります。(注1)

 

こうした場合、法律で、センサーや、運行データをクラウド上に保存することを義務づける方法が考えられます。

 

こうした学習用データを他の国に先だって利用可能にすることで、自国のIS産業の振興を図り、デジタルシフトを促進することができます。

 

データの公開と抱え込みの制御がIT産業振興のキーになっています。

 

ドローンメーカーのIIJのWEBには、次のように、書かれています。

 

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[様々な国の規定をクリアするために、各社が独自に対応するのが困難な理由]

 

このように世界中でプライバシー保護規制が広がっているのですが、各国における法律には違いがあります。例えば

 

    個人データを当該国に保存しなければならない

    第三国には原則として個人データを移転してはいけない

    個人データの侵害が発生した場合、当局へ一定時間内に報告しなければならない

 

など細かな点で違いがあります。

さらに、法律はどんどん改訂されていきます。

このような世界中のプライバシー保護規制の最新情報を自社で全て追いかけるのは非常に大変です。IIJでは、1600社を超えるお客様に対して情報提供サービスを行っており、世界中のプライバシー保護規制を毎日追いかけ最新情報を提供しています。

 

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まとめます。

 

小型遊覧船の安全性の向上は、安全対策検討委員会による規制強化では実現できません。

 

この方法は、デジタルシフトに完全に逆行していて、小型船の造船メーカーにもダメージを与えます。

 

解決策は、運行データをクラウド上に保存することを義務づける法律をつくることです。

 

その担当は、デジタル庁になるはずです。

 

デジタル庁が、小型遊覧船の安全性の向上問題を取り上げるか、見守りたいと思います。



注1:

 

同じような問題を抱えている施設に、下水処理場、排水機場などがあります。

トラックやバスも問題ですが、これらは、自動車メーカーが対応するはずです。

ただし、日本の自動車メーカーの持っている運行データの量は圧倒的に少ないので、先行するトヨタが同意するのであれば、小型遊覧船と同じように、国内の自動車メーカーが共通で利用できる運行データの保存を義務付ける法律を作る方法もあります。

 

引用文献

 

世界で広がる「プライバシー保護規制」私たちが取るべき対策は?

https://www.iij.ad.jp/interview/06.html