リアルタイム情報の価値~2030年のヒストリアンとビジョナリスト

(紙媒体に記録を残しても事故防止効果はないので、リアルタイムアプリに変えるべきです)

 

小型遊覧船の事故について、情報が上がってきました。

 

小型遊覧船は、事務所と無線連絡を13箇所でとることになっていましたが、実際には、無線連絡は、数カ所でしか行われていなかったようです。

 

事故が起こって、調査が入ると、紙媒体の記録が精査され、ルール違反が見つかっています。調査の手順は以下の通りです。

(1)紙媒体を証拠として収集します。

(2)紙媒体に書かれている内容を精査して、問題があれば、リストを作ります。

(3)リストから、管理に問題があったと判断して、次の結論を出します。

(3-1)管理責任を追求します。

  (3-2)安全規程に穴があった場合には、安全管理規程を見直します。

  (3-3)報告書類の提出、提出内容のチェックが不十分であった場合には、点検を強化します。

 

この方法は、典型的なヒストリアンの思考パターンの罠にはまっていて、効果が期待できません。

 

読者は、どこが問題か、おわかりでしょうか。

 

まず、次の問題が指摘できます。

 

(1)問題は、紙媒体に書かれている内容ではなく、実際に何が起こったかです。

 

ヒストリアンは、書かれていることがヒストリーの事実であると単純に考える場合が多いですが、それは、正しくありません。

 

無線連絡が、なかったからといって、正常運行ができなかったわけではありません。

 

問題は、正常運航できなかった時に、無線連絡が取れなかったことです。

 

無線連絡の記録は、不備であるかもしれませんが、それが、事故の原因ではありません。

 

ところが、無線連絡記録の不備を指摘すると、記録の改竄が行われます。

 

例えば、今回の指摘を受けて、小型遊覧船の運航会社は、無線連絡記録をチェックして、記録もれや、ルールに沿っていない記録があれば、改竄すると思います。

 

今回の発表は、改竄の指示になっているからです。

 

しかし、記録の改竄は、安全性の向上とは関係がありません。

 

改竄する労力は、安全性の向上に振り向けられるべきです。

 

(2)紙媒体の記録は、事故を防げません。

 

以上の手順で、次が可能です。

 

(2−1)事故原因を誰かの責任に理由づけることができる。

(2−2)監督官庁の責任がなかったことがわかる。

 

しかし、これは、将来の事故防止には関係がありません。

過去の自己記録を調べることと、将来の事故防止は別です。

 

現在の管理規定は、紙媒体を前提としているため、リアルタイムのデータを使った事故防止のアルゴリズムが組み込まれていません。

 

事故が起こった後で、紙媒体のデータを調べても、事故は起こってしまっていて、時間をもとに戻せません。

 

リアルタイムのデータは、事故が完結する前のデータです。

今回の事故の再発防止を考えるのであれば、次が論点になります。

 

(1)天気予報を見て、出港判断は妥当だったか。

他の船の出航判断の結果をリアルタイムで情報交換することは容易です。

L INE等のアプリでもできますが、GIS上に表示される方が使いやすいです。

 

(2)天気予報は外れることがありますので、天候変化によって、運航中止を判断するべきフェーズが、みのがされたか。

天気予報をリアルタイムで受信し、逆に、船の気象データや波のデータを自動的に収集して、船の間で情報共有するとともに、天気予報にデータを使うシステムが考えられます。また、これらのデータがあれば、帰港を促すAIアプリは簡単に作れます。

 

(3)船に異常が生じた場合の連絡体制、または、連絡によるサポート体制に改善の余地があるか。ウクライナでわかったことは、IIJ社のドローンは、衝突を避けるために、周囲のどこに、同社のドローンがあるかをリアルタイムで確認しています。

これは、操作盤のタブレット上に標準されています。

人命に関わる遊覧船が、このレベルのDXをクリアーしていないのは、合法であっても、非常識に思われます。

 

(4)操船システムの改善が必要です。遊覧船もタブレットで操船すると、情報が一元化できて良いと思います。こうすれば、すべての操船記録は、デジタルで保存されますので、紙の記録は不要です。

 

安全管理規程が見直されて、さらに、強く、紙媒体で記録を残すことが強要される心配があります。

 

そうすると、リアルタイムアプリの普及の足枷になってしまう可能性すらあります。

 

事故の再発を防止するには、リアルタイムアプリで安全性を評価して、ある頻度以上に問題が発生した場合には、リアルタイムで、営業停止指示をだすことが考えられます。

 

今回の知床事故の事例でも、最近1年の間、1か月の間、1週間の間に、管理上の問題があったことがわかっています。こうした場合に、即時に営業停止命令が出せるのでしょうか。

 

問題は、出航前に、中心を命令できなかった安全システムの欠陥にあると思われます。



失敗学の教えるところでは、事故再発防止には、事故責任は問わない代わりに、関係者から、全ての情報を収集して、再発防止策を作成すること、みつかった脆弱性を取り除くことです。責任追及は、事故の再発のリスクを増大させるというのが、過去の事例から得られた教訓です。