1.3 ビジョンを論ずること~2030年のヒストリアンとビジョナリスト(新03)

ビジョンには、正解はありませんが、検討を深めることで、より良いビジョンに改善することができます。しかし、それには、膨大な時間がかかります。検討時間に耐えることがビジョンを作るために、必須の条件ですが、日本国内では、それは、達成されていません。

 

最近の例を取り上げます。



2022年2月末に、ロシア軍の侵攻を受けたウクライナ政府が日本政府に対し、対戦車砲など殺傷能力がある防衛装備の提供を求めました。

 

日本政府は防衛装備品である防弾チョッキを戦闘が続く国に提供する異例の決定を行ったが、弾薬を含む「武器」に関しては無償提供する法的根拠がないことなどから支援を見送りました。

 

国会では、防弾チョッキが取り上げられ、共産党が反対しました。

 

ここでは2つの点でヒストリアンが生きています。

 

1)弾薬を含む「武器」に関しては無償提供する法的根拠がない

 

2)日本政府はウクライナに提供する装備品を事前に決めてから国会にはかる

 

2)は、今までの国会の討議の仕方ですが、この方法では、国会はビジョンを検討する場ではなくなります。国会討論より、昼のワイドショーのコメンテーターの話の方が、まだましになってしまいます。ウクライナに提供する装備品の選定は、1)無償提供する法的根拠に基づいていますので、ヒストリアンの立場です。

 

しかし、今回のウクライナ戦争によって、核兵器の持ち込みができるようにすべきとか、憲法改正をして、自衛隊を軍隊と明記すべきであるといった議論が起こっています。

これらの意思決定は、将来の戦争に対するビジョンに基づいて行われるべきです。

 

ウクライナ政府に対戦車砲を送る」べきか否かは、核兵器を持ち込むべきか否かよりはるかに軽いテーマです。そう考えると、筆者は、結果がどうなるかにかかわらず、「ウクライナ政府に対戦車砲を送る」べきか否かを国会で議論すべきだった、ビジョン作成の練習をしておくべきだったと考えます。議論をしても統一見解が得られることはないと思いますが、少なくとも大きな問題点はどこにあるのかという共通認識が得られます。

 

短期的に正解を求める、法律や歴史を振り返れば、そこに、正解があるという思い込みは、典型的なヒストリアンのロジックです。

 

国会答弁を見ていればわかりますが、答弁の90%は、「それは、法律に書いてありません。法律に従うとこうなります」という説明に終始しています。国会は、立法府ですから、法律を作るべきか、変更すべきかを議論する場です。

 

ビジョンを作って法律を変えて行かないと、「変わらない日本」から抜け出せません。

 

ウクライナ戦争をうけて、欧米は、従来の安全保障ビジョンの見直しに着手しています。

ドイツは、ヘルメットから、対戦車ミサイルに切り替えました。

 

日本の国会答弁を見ていると、ビジョンの議論がないので、日本だけが取り残されるのではないかと、不安になります。





〈独自〉ウクライナ、日本に対戦車砲要請 法的根拠なく提供見送り 2022/03/08 産経新聞

https://news.yahoo.co.jp/articles/8bb6b8dcab23aaa557aa3e9b47ac0ff977c1330f

 

装備品提供、ウクライナ支援に制約 法制度に課題 2022/03/08 産経新

https://news.yahoo.co.jp/articles/adb748f56f518d3927e8a8c2d929b0a991e640bf