北風と太陽ー情報戦を巡って~2030年のヒストリアンとビジョナリスト

(情報戦を例に、歴史の再構築における比較と比喩について考えます)

 

ビジョンをつくる場合の有望な方法の一つは歴史の再構築です。

比較と比喩は、その場合の基本的なツールです。

ここでは、情報戦における北風と太陽を考えます。



1)ロシアの北風と太陽

 

2022/04/30の中国問題グローバル研究所で、遠藤誉氏は、レーガン大統領は、血を一滴も流さずに、ソ連を崩壊させたといいます。ソ連が崩壊した原因は、西側の経済状態に関する情報が、一般市民に流れたことです。今回のウクライナ戦争を北風とすれば、太陽政策という情報戦で、政権崩壊を招いています。

 

この点に注目するとNATOは、ロシアの情報戦で勝利をあげていません。ロシア国内のインターネットは、遮断されています。テレビなどのマスコミの報道は、規制されてコントロールの下にあります。真偽のレベルには、議論もありますが、アラブの春も、情報戦がクーデタを引き起こしたと言われています。

 

プーチン大統領は、今回の戦争の正当性を主張し、高い支持率を得ています。支持率には操作が入っているかもしれませんが、アラブの春のように、不支持層が、あるレベルを超えると政権が転覆します。これは、独裁体制でも、国民の不支持がある閾値を超えて増大すると政権は崩壊します。これはフランス革命の頃から変わらない真実です。

 

NATOは、軍備の拡張という北風政策に合わせて、情報戦という太陽政策もすすめてきたはずです。今回のウクライナ戦争で、ロシア以外の国では、太陽政策は成功して、ゼレンスキー大統領は、色々な国や国際機関で演説しています。しかし、肝心のロシアの情報戦では、戦果がありません。

 

太陽政策の情報戦で、政権が転覆する条件は次の2つです。

 

(1)自国よりも、経済的にはるかに豊かな国がある。

(2)現在の政権運営の方法は、間違っていて、政権が交代すれば生活が良くなる。

 

ロシアの場合には、社会主義崩壊後の資本主義化の段階で失敗して、オルガリヒができてしまい、(2)に失敗しています。

 

つまり、

(a)資本主義化の段階をより丁寧にサポートすべきであった。

(b)違法なオルガリヒは、取り締まるべきであった。

ことになります。

 

(b)については、2022/03/18のNewsweekに、コリン・ジョイス氏が次のように書いています。

 

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何十年もの間、ロンドンは出所の怪しいロシアマネーの逃避先だった。僕たちイギリス人は、説明不能なほどに裕福なロシア人富豪がイギリスで不動産を買うのを許し、彼らの子息をイギリスの名門私立校で学ばせ、彼らが重要施設を買い占めるのさえ放任してきた。

KGBでオリガルヒ(新興財閥)のアレクサンドル・レベジェフは、ロンドンの夕刊紙イブニング・スタンダードのオーナーになった(僕たちの掲げる「報道の自由」の1つだ)。共同オーナーを務める彼の41歳の息子エフゲニーは1年半前に英政府によって貴族に列せられ、今では英上院(貴族院)議員になっている。

 

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つまり、レーガン大統領流に考えれば、太陽政策に失敗すれば、北風(軍事力)をちらつかせてもうまくいくはずがないことになります。

 

なお、ここでのテーマは、ロシアがウクライナから撤退することではなく、ロシアで政権崩壊が起こることです。

 

2)日本のDXの北風と太陽

 

日本の産業界は、デジタルシフトに残されて、経済成長は、30年間止まってしまい、一人当たりGDPは、先進国の中で、最下位になりつつあります。

これは、本書のテーマ「変わらない日本問題」です。

 

この問題を政権崩壊と同じように考えれば、企業のガバナンスの問題です。

 

DXの北風政策は、DXの機材やソフトウェアを投入する方法です。

 

DXの太陽政策を、政権崩壊を例に考えると次になると思われます。

 

(1)DXの進んだ企業では、より高い給与が支払われ、良い生活ができる。

 

(2)DXが進んだ企業では、仕事は細分化され、自分の特性にあった仕事が選べる。いやな仕事をいやいやながらすすめる必要はない。(ジョブ型雇用の原則)

 

(3)現在働いている企業は、DXが遅れているため、給与が安い上に、将来倒産するリスクが高い。

 

(4)DXが進んでいて、より給与が高く、働き甲斐のある会社に転職することができる。(ジョブマーケットの原則、職業選択の自由

 

従業員は、株主ではないので、政権崩壊のように、経営陣を入れ替えることはできません。しかし、その代わりに、企業を選ぶことができます。

 

日本国憲法(昭和21年憲法)第22条第1項においては、「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する」の部分です。

 

職業選択の自由」は、ジョブマーケットを介して、実現できます。

 

日本では、大学の卒業年次が不況時であったために、「職業選択の自由」が、著しく制限されたこともあります。これは、憲法違反かわかりませんが、グレーではあります。

 

2022/05/01の日経新聞の7面に、「半導体技術者の求人急増」という見出しで、半導体技術者不足の実態が述べられています。

 

台湾のTSMCは、半導体技術者の給与は、日本国内で雇用すれば、日本企業より1,2割高く、台湾で雇用すれば、日本の2倍近い例もあるといいます。つまり、同じ半導体関連の同じ業務をこなした場合、台湾の給与が日本の2倍になっている職種があるということです。

 

これには、(1)(4)の情報が含まれています。

 

太陽政策の原則を考えれば、マスコミやWEBがこうした情報、特に、転職情報を流せば、企業経営者の入れ替えがおこり、企業のマネジメントが代わって、DXは急速に進むでしょう。

 

逆に、企業の経営者を固定して、そこに補助金をつけて、DX機材を投入する北風政策が成功することはないと思います。なぜなら、これは、過去30年行われて効果がなかった政策だからです。



引用文献

 

プーチンをつけあがらせた「ロンドングラード」の罪 2022/03/18 Newsweek コリン・ジョイス

https://www.newsweekjapan.jp/joyce/2022/03/post-238.php

 

無血でソ連を崩壊させたレーガンと他国の流血によりロシアを潰したいバイデン そのとき中国は? 2022/04/30 中国問題グローバル研究所研究所  遠藤 誉

https://grici.or.jp/3091