ロシア産の天然資源の行方

ウクライナ戦争の本質は、ロシアの天然資源に欧州、特に、ドイツが依存していることにあります。

 

マイケル・ハーシュ氏は、次の話を引用しています。

 

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[03/04Newsweek マイケル・ハーシュ] 故ジョン・マケイン上院議員は生前、ロシアは「国家の仮面をかぶったガソリンスタンドだ」と揶揄した。

 

ジェームズ・スタインバーグ元米大統領副補佐官(国家安全保障担当)は「みんな石油と天然ガスが必要だから、いずれ(ロシアの暴挙を)受け入れるようになるだろうとプーチンは計算している。」ロシアのウクライナ侵攻は、「第2次大戦後に構築された世界秩序の限界を知らしめた」。

 

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国内の動きは以下の通りです。

 

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[03/01 JIJI.COM]  松野博一官房長官は1日の記者会見で、英石油大手シェルが日本企業も出資するロシア・サハリン(樺太)沖の石油ガス開発事業「サハリン2」から撤退することに関し、「操業が継続されるため、現時点で日本のエネルギー輸入に支障はない」と説明した。

[03/02 JIJI.COM]  米石油大手エクソンモービルがロシア極東での石油・天然ガス開発事業「サハリン1」から撤退すると発表したことに関して、政府としても対応を検討する意向を示した。

[03/03 JIJI.COM] 米石油大手エクソンモービルは1日、主に石油を生産する「サハリン1」から撤退すると発表した。サハリン1は、日本の官民出資会社サハリン石油ガス開発(東京)が3割の権益を保有する。同社には経済産業省が50%出資し、伊藤忠商事石油資源開発、丸紅なども出資者に名を連ねる。

 三井物産が12.5%、三菱商事が10%を出資する石油・天然ガス開発事業「サハリン2」からは、英石油大手シェルが撤退を表明した。サハリン2の天然ガス生産量の6割が日本向けで、東京ガスの場合、輸入量の1割弱に相当する。

三井物産の安永竜夫会長は2日、東京都内で記者団に、ロシアでのエネルギー事業について「継続するかどうかも含め政府と協議している」と語った。

[03/03 JIJI.COM]  国際協力銀行の前田匡史総裁は3日の定例記者会見で、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、エネルギー分野を中心にロシアとの経済協力の枠組みを抜本的に見直す必要があるとの認識を示した。

極東サハリン沖の石油・天然ガス開発事業に出資している三井物産三菱商事などが、どのような対応を取るかは把握していない。

また、国際協力銀は北極圏の液化天然ガス(LNG)事業「アークティックLNG2」への融資を決めている。しかし、前田氏は、ロシアが国外への外貨送金を制限する措置を取ったなどとして、融資義務を解除する「制裁条項」に当たる可能性があるため、いったん融資を凍結し確認中だと説明した。事業には三井物産石油天然ガス・金属鉱物資源機構などが参画。国際協力銀は昨年11月末、最大2000億円規模の融資契約を結んだ。

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話が交錯していて、わかりにくいです。

欧米の状況は以下の通りです。

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[03/02 Newsweek ジョン・ジャクソン] 米財務省が28日に出した指令ではロシアに対する制裁が強化されたが、ロシアが関係するエネルギー関連の多くの取引は6月まで認められた。

[シカゴ 2日 ロイター] - イエレン米財務長官は2日、ウクライナ侵攻を受けてロシアに科した大規模な制裁について、「漏れ」が見つかれば引き続き対処する方針を示した。

 

[ 2022/03/02 Bloomberg]ロシアの石油・ガス輸出を制限する措置を講じる可能性に関する質問には、「将来の制裁については、いかなる可能性も排除されていない」と述べた。

 

欧州最大の石油会社、英シェルは引き続きロシア産の原油・ガスを購入している。事情説明を受けた関係者1人が明らかにした。同社は政府と協議を進めており、規制に変更があれば従うという。

 

これにより石油取引に落ち着きが戻り、ロシア産石油を取り扱うことに対する制裁を恐れる海運市場には安心材料となる可能性がある。同関係者は具体的な購入内容については言及しなかった。

 

シェルは極東サハリンの石油・天然ガス開発事業「サハリン2」からの撤退を発表したが、依然として石油・ガス取引の大手であり、1日当たり約1200万バレルの石油を取り扱っている。

 

[03/02 CNN アンデルマン] ロシアの石油と天然ガスはロシアの権力と国富の基盤だ。しかしこれまでのところ、どちらもいかなる制裁の対象にもなっていない。



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まとめると、当面、新規投資は凍結しましたが、現在の取引は継続します。目途としては、6月までに、仕入れ先の分散等の対策を進めて、再度検討するようです。

 

日本国内では、「当面、新規投資は凍結して、現在の取引は継続するか」すら、決まっていないようです。

 

現在、ガソリンの高騰に対して、補助金を付けていますが、検討のレベルにずれを感じます。

 

最近の欧州の天然ガスの価格変動は以下になっています。

 

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[2022/02/07原子力産業新聞 ]2019年の平均が4.80ドル/100万Btuだった欧州の天然ガス価格は、昨年12月21日、59.67ドルの史上最高値を付けた。1月は28ドル台へ調整したものの、新型コロナ禍前と比べて6倍になっている。

 

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つまり、代替エネルギー源を確保しないとエネルギー価格が、6から10倍になることもあり得ます。

 

今後のシナリオは次の3つが考えられます。

 

1)ロシアが戦争に勝って、独裁政権が続く。

2)ロシアは、戦争から撤退するが、独裁政権が続く。

3)ロシアが戦争に敗けて、独裁政権が崩壊する。

あるいは、クーデタで、独裁政権が崩壊したあとで、戦争から撤退する。

 

1)2)の場合には、現在の天然資源の利権が温存されます。

3)の場合には、現在の天然資源の利権は、変更されるでしょう。

 

ここでの問題は、中国の立ち位置です。

 

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[03/03テレ朝ニューズ]中国外務省は2日の会見で、欧米や日本などによる経済制裁について「あらゆる違法な制裁に断固反対する」とし、「制裁は問題を解決せず、争いをエスカレートさせるだけだ」と主張しました。

 

ウクライナへの軍事侵攻を受けて各国がロシアへの経済制裁に乗り出す中、中国政府は「ロシアと正常な貿易協力を進める」と制裁に反対する姿勢を表明しました。

 

「中国とロシアは引き続き正常な貿易協力を進めたい」と述べ、天然ガスなどの購入を続ける考えを強調しました。

 

また、金融監督当局のトップも2日の会見で、「金融制裁に賛成しない」と明言しました。

 

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つまり、ここで想定しているシナリオは、1)または、2)です。

 

CNNでアンデルマン氏は、次のようにいっています、

 

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[03/02 CNN アンデルマン] 中国はウクライナ侵攻を非難する国連安全保障理事会決議に拒否権を行使せず、公然とロシアによる攻撃への支持を否定した。しかし責めを負うべきは米国とその同盟国だとの見方も示しているようで、報道によるとウクライナへの攻撃を「侵攻」と呼ぶのを拒否した。それでも貿易と金融で欧米に極めて巨額の資金を投じている中国にとって、この戦いで敗者の側に立つリスクは取れないとみられる。

 

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つまり、3)のシナリオが濃厚になった場合、中国が、「敗者の側に立って、金融制裁に賛成しない」ことはできないだろうという意見です。(注1)

 

いずれにしても、1)2)3)のどのシナリオになるのが確実になった時点で、エネルギー政策が決まります。その場合には、国際競争になりますので、スピードが命になると思われます。

 

現在の極東サハリン沖の石油・天然ガス開発事業の方向に関する意思決定のスピードをみていると、シナリオがほぼ確実になった時点で、日本だけがスピードに取り残されるようにも思われます。



注1:

アメリカは、3)になった場合に、中国を抑え込む方法を検討しているはずです。一方、中国は、押さえこまれない方法を検討しているはずです。



第2次大戦後の世界秩序が変わる時 2022/03/04Newsweek マイケル・ハーシュ

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2022/03/post-98221_1.php



ヨーロッパにおける 天然ガスのパイプライン網

https://www.ene100.jp/zumen/1-1-12

 

日本が学ぶべきウクライナの教訓 2022/02/07 原子力産業新聞

https://www.jaif.or.jp/journal/study/shiseitsuten/11687.html

 

サハリン2撤退「輸入に支障ない」 松野官房長官 2022/03/01 JIJI.COM

https://www.jiji.com/jc/article?k=2022030101062&g=pol

 

サハリン1への対応検討 松野官房長官 2022/03/02 JIJI.COM

https://www.jiji.com/jc/article?k=2022030201113&g=eco

 

日本勢、判断難しく サハリン資源開発―米欧相次ぎ撤退、継続に逆風  2022/03/03 JIJI.COM

https://www.jiji.com/jc/article?k=2022030201276&g=eco

 

対ロ経済協力、抜本見直し 「ちゃぶ台返しの暴挙」―国際協力銀総裁  2022/03/03 JIJI.COM

https://www.jiji.com/jc/article?k=2022030301159&g=eco&utm_source=yahoo&utm_medium=referral&utm_campaign=link_back_edit_vb

 

経済制裁でロシアのエネルギー支配は揺らぐか 2022/03/02 Newsweek ジョン・ジャクソン

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2022/03/post-98197.php

 

シェル、ロシア産原油・ガスの購入を継続-関係者 2022/03/02 Bloomberg

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-03-02/R848QLDWLU6Q01



米、ロシア制裁に「漏れ」あれば対処=イエレン財務長官 2022/03/03 8:47 ロイター

https://jp.reuters.com/article/ukraine-crisis-usa-yellen-idJPKBN2KZ2WW

中国が日米欧の対ロ制裁に“違法”と反発「ロシアと貿易進める」2022/03/03 テレ朝ニュース

https://news.yahoo.co.jp/articles/d380e39ed2a1b8c35378582a93026e92df63036e

 

ロシアは制裁で目を覚ます 西側はここで止めるべからず 2022/03/02 CNN デービッド・A・アンデルマン

https://www.cnn.co.jp/business/35184265.html