予測と判断
「ノイズ」には、「組織はなぜ判断を誤るのか?」という副題がついています。 第18 章は、「よい判断」を問題にしていますが、この「判断」は、「ノイズ」という本を通じたテーマです。 第18章は、冒頭で、よい人材の条件をあげています。
1)専門的な訓練を受けていること
2)知的水準が高いこと
3)正しい認知方法を身につけていること
そのあとで、エビデンス専門家とリスペクト専門家の区分を述べます。
エビデンス専門家の例が、あげられます。
- 放射線科医が、画像診断で、肺炎を診断
- 経済アナリストが、近い将来におこる出来事
- 弁護士チームが訴訟の判決
これらは、将来の予測です。
肺炎診断は、一見すると判断であって、予測ではないように見えますが、「肺炎の診断」は、診断の病気の進行、あるいは、その後ウイルス検査で、確認されますので、予測になっています。
つまり、エビデンス専門家とは、将来の予測を語る専門家です。
コロナウイルスと専門家
英国のコロナウイルスの感染者数は、前のピークが2020/12/31の70696人あたり、最近のデータは、2021/12/31が、188747人です。比率にして、2.67倍です。オミクロン株は、デルタ株に比べ、症状が弱く、入院比率は、デルタ株の30%程度と推定されていますが、感染者数が2.67倍なので、入院患者数のレベルは、1年前のピークとあまり変わらないと推定されます。
日本のコロナウイルスの感染者数のピークは、2021/08/26の25038人です。英国と同じタイムラグを考えれば、2022年の8月に、3倍(英国の感染者数はまだ増加していますので、概数を使います)の75000人が感染していると思われます。これは、ベースラインの予測になります。
第21章で、カーネマンは、「該当する基準値」を知っておくべきだといっていますが、ベースラインは、基準値に相当します。
これから、ワクチン接種の影響、抗体検査キットの配布などの検査数の増加などの影響、過去の感染者数のトレンドを勘案して、予測値を修正する必要があります。
予測は、天気予報と同じように、幅をもった確率分布になるはずです。
専門家が、エビデンス専門家であれば、この例のように予測を行い、シナリオを作成して、対策を講じます。
予測は、部分的に、あるいは、全体が外れますが、そのエビデンスは、次の予測の改善に使われます。(注1)
さて、現状はどうなっているのでしょうか。
次は、2021/12/24に、ある県のHPに掲載された内容です。
このため、県としては、引き続き、県民の暮らしと命を守るため、「自宅療養者ゼロ」堅持に向けて、オミクロン株への対応やワクチンの3回目接種などを進め、感染拡大の予兆が見られる場合には、速やかに対策を強化してまいります。
ここには、予測はありません。
2020年から、コロナウイルスの一部の専門家は、感染拡大の予測をしていました。この専門家は、予測をした点では、エビデンス専門家でした。しかし、予測は、エビデンスと大きく乖離しました。予測が、外れること自体は問題ではありません。問題は、エビデンスに基づいて、予測を変更することです。しかし、それは、成功したようにはみえませんでした。
コロナウイルスで、予測の更新が定期的に出来たのは、Google予測です。Google予測のスタイルは、エビデンス専門です。
リスペクト専門家は、エビデンスに基づいて行動変容をしません。このため、コロナウイルスの感染拡大に柔軟に対応できません。
予測を語らない専門家は、リスペクト専門家である可能性が高くなります。分析は、ここで、止めますが、この例でも、カーネマンのリスペクト専門家という視点に、現状を改変する破壊的な力があることが、理解できると思います。
注1:
データサイエンスでは、こうした新しいエビデンスに基づき、予測モデルを修正して、精度向上を測る手法が一般的です。ベイズ更新、粒子フィルター(旧カルマンフィルター)などの手法があります。