ダムと中国

(中国のダム建設は、世界的な環境配慮に対して、欧米と逆の方向を向いており、軋轢が生じています)

中国は、1950代から国内に、堤高15m以上の大ダムに限っても、20,000個以上のダムを建設してきています。 また、The New Great Wallsによれば、2012年の時点で、世界中に、300個以上の大ダムを建設しています。

中国は、「一帯一路」構想に合わせて、「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」と「シルクロード基金」を創設しています。したがって、2012年以降もダム建設を進めています。

現在、国内では、ブラマトプラ川の上流部であるヤルンツァンポ川に、大規模水力発電プロジェクトを計画していて、発電量は、現在、世界最大の三峡ダム(1993年に着工、2009年に完成)の3倍と言われています。

ダム建設の傾向は、2000年ころから続いていますので、格段に驚くことではありません。

しかしながら、ダムに対する欧米の認識は、ここ20年にで大きく変化しています。

欧米では、ここ10年で、明らかに、ダムは撤去の方向に動いています。

三峡ダムの建設が始まった1993年頃であれば、水力発電は、火力発電に比べれば、まだ、CO2の排出が少ない環境負荷の小さな発電方法と考えられていました。しかし、その後に次の大きな変化が起こります。

  • 河川生態学の進歩によって、ダムには、生態系を致命的に破壊する力があることが認識されます。

  • 太陽光発電などの、自然エネルギー発電の効率が30年間に大きく向上しました。その結果、水力発電は、相対的に、環境負荷の小さな発電であるとはみなされなくなりました。

ダムの撤去については、2000年頃ににアメリカの開拓局が、新しいダムを建設しないと表明しています。この時の発言の趣旨は、淡水の水資源を生み出す方法としては、下水処理をした方が、ダム建設より、コストが安くなるという理由でした。

しかし、現在は、発電効率が更に上がれば、近い将来に、発電にする方法として、水力発電が経済的に優位とは言えなくなるという理由で、ダムの撤去が検討されています。もちろん、既に建設された発電ダムは、初期投資が終わっていますから、耐用年数までは、ダムを使い続ける方が経済的になります。しかし、更新時になれば、ダムは、撤去する選択もあり得ます。

少なくとも、新規のダムの建設は、ほぼなくなっています。

つまり、中国と欧米では、河川環境計画に対する政策が異なっています。この違いは、そのまま、カンボジアミャンマーに中国から、輸出されています。

また、ダム建設または撤去に対する日本の立ち位置も、中国と欧米の間にある、よくわからないものです。少なくとも、熊本県の川辺川の洪水氾濫に対して、洪水ダムを建設する方向で、政府は動いているように見えます。欧米であれば、人口減少時には、フラッドプレーンの設定で終わる洪水対策問題ですが、日本では、政府による土地利用計画が、ことごとく失敗していますので、依然として、ダム建設から抜けていないように見えます。

つまり、環境政策の日本の立場も、外交政策(軍事政策)と同じような位置にあります。

 

 

  • A mega dam on the Great Bend of China 2021/05/25

https://www.abc.net.au/news/2021-05-25/chinas-plan-to-build-mega-dam-on-yarlung-tsangpo-brahmaputra/100146344

  • The New Great Walls 2012

https://www.globalccsinstitute.com/archive/hub/publications/162708/new-great-walls-chinas-overseas-dam-industry.pdf

https://news.yahoo.co.jp/articles/d1872091f498fa9eced98f656046567a6083db38

  • Status and trends of dam removal research in the United States

https://www.fs.fed.us/pnw/pubs/journals/pnw_2016_bellmore001.pdf